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【少子化対策データ考】コロナ時の若年移動抑制で大阪府が非少子化1位へ

生活研究部 人口動態シニアリサーチャー 天野 馨南子
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1――出生率ではなく出生「数」減少率こそが真の少子化指標
昨年出版した「まちがいだらけの少子化対策」でも解説しているが、合計特殊出生率の高低では都道府県(さらには市区町村)の少子化度合いを測定・評価することはできない1。
この解説については、2022年9月12日公開の基礎研レポート「都道府県の合計特殊出生率、少子化度合いと『無相関』-自治体少子化政策の誤りに迫る-」でも簡潔に解説をしているので、改めて確認いただきたい。当該レポートは、2025年4月入学の新潟県立大学国際経済学部、学校推薦型選抜の小論文入試として出題もされているため、少子化に関する最新の基礎知識として、少子化対策を取り扱う政治家、研究者、メディア等がひろく、正しく理解・知識共有することを強く願っている。
では少子化をどのように測定するべきなのか。結論から言えば、エリア間で比較をしたい場合はシンプルに「出生数の減少率」が指標である。10年前に比べてそのエリアで生まれる子どもが半減したエリアと8割維持しているエリアでは、8割維持しているエリアのほうが少子化していない。当然のことにも関わらず、看過されてきた測定法である。女性の移動で簡単に乱高下する出生率がなぜここまで執拗に愛用されてきたのか不思議でならないが、それくらい、日本は人口問題に対して、EBPMではなく情動論で向き合ってきたのだろう。田舎のほうが子どもはきっと多く生まれるはず、東京砂漠2、といった、人口高齢化がもたらす昭和ノスタルジーへの憧憬も、科学的な根拠を求める心を鈍らせてきたように感じている。
そして、この出生数の増減率に大きな影響を現在統計的にもっているのは社会増減(移動による人口純増減)である。こちらも詳細は、中央公論2023年6月号「女性がリードする地方からの人口流出」にて解説しているので確認いただきたい。現在の日本の人口移動は20代前半女性の就職移動がけん引しており、ゆえに社会減で劣位のエリアは、「婚姻減→出生減」から自然減に直結し、自然減でも劣位となるという構造である。都道府県間で5年単位にて測定した両データの相関係数は0.8となっており、いわゆる社会減を担当する地方創生政策と地元の少子化を担当する地域少子化政策はまさに「運命共同体」状態3にある。
1 国としては移民比率が3%程度なので出生数と出生率が相関関係を保っているがカナダやオーストラリアのような移民大国では相関をもつことができないため、国家間の比較にも適さないことに注意したい。
2 1976年にリリースされ、第27回NHK紅白歌合戦(1976年)第50回(1999年)第54回(2003年)第59回(2008年)で歌唱曲ともなった大ヒットソング。現在人口マジョリティである50代以上の人口には特になじみ深く、背景には1970年代の公害問題や都市の人口集中の開始があるとされる。
3 さらに詳細な分析結果は、公益財団法人 後藤・安田記念東京都市研究所の月刊「都市問題」2025年11月号に掲載予定のため、そちらを確認いただきたい。
社会減と自然減が強く連動していることを如実に示したのがコロナ感染症拡大による移動制限の少子化への影響である。図表1は、コロナ感染症がまだ発生していなかった2019年の出生数と2024年の出生数を比較して、出生数減少率を計算したものである。東京一極集中(1996年以降)の影響で、しばらく非少子化エリアとして首位にいた東京都であるが、コロナの影響をうけて、対2019年で計算すると、非少子化ベスト5(少子化ワーストランキング43位)にランクを下げている。
図表2の10年間でみたランキングでは、非少子化エリアとして大阪府が1位、東京都は2位、図表3の親子1世代間でみたランキングでは、東京都が1位、沖縄県が2位となっており、より長いスパンとの比較で確認すると、コロナの影響で東京都が非少子化において順位を落としていることが明らかである。
コロナ感染拡大が強まった2020年は、東京都の社会増4が対前年で4割水準にまで減少し、2021年には女性だけの社会増(6777人)となった。中長期の東京都の婚姻数や出生数の推移からは、だいたい社会増から2年後くらいから婚姻数や出生数の影響が出てくる傾向にあるため、2024年の出生数はコロナによる女性流入量の減少の影響を強くうけていると考えられる。
一方、図表1では東京都とともに三大都市圏の一角を担う大阪府が首位にある。これもコロナの影響が極めて大きい。大阪府は周辺エリアの近畿エリアや中国エリア、四国エリアから多くの若者を就職期に集めているものの、地元から多くの若者を東京都に転出超過させており(若者の玉突き移動状態)、それが大阪府の転入超過数の引き下げ要因となり、さらには婚姻数の抑制を生み出してきた。簡単に言うと、「せっかく西日本エリアの多くの若年女性を集めているのだから、雇用対策として少子化対策を実施し、地元から東京に就職で去る若年女性をもっと減らせばいいのに」状態であった。
このように「東京に就職期に若年女性が出ていかないように」する状況がコロナによって自然に作り出されたことが、しばらくは大阪府の出生数にかなり有利に働くこととなるはずである。しかし、現在も大阪府は東京都に対しては転出超過を続けて若年女性を大量に送り込んでいる状態のため、このコロナによる東京都への若年女性転出超過抑制の影響が続くとみられるスパン(婚姻数と出生数に社会増減が影響するのは10年程度)に発生する出生数に甘んじることなく、そもそもの東京都への若年女性の就職流出を食い止める雇用対策を立てなければ、中長期的には「東京都の労働人口提供エリア・出生数提供エリア」的な現在の位置づけから逃れることはできない5。
図表1のランキングの下位にいる比較的少子化が穏やかなエリアは、コロナによって若年女性の流出がある程度、例年より抑制されたエリアとみることができる。図表2や3と比べて、図表1で顕著に下位(あまり少子化していない順位)にきているエリアとして、滋賀県、福井県が目立つが、この2エリアは感染症拡大を警戒した地元若年女性の地元歩留まりの影響が強いとみられ、図表1で下位にあることに安心することは推奨できないエリアである。
4 ここでいう社会増とは国内移動をいう。海外からの人口流入は定着率も低いため含めない。
5 東京一極集中(転入長)人口の前住所地で1割を占め、大阪府と愛知県からの転入超過人口が一極集中人口の5人に1人となっている。
2――親子1世代間で39%~70%という過酷な少子化の背景
親が通った学校のクラスが半分となるか、もしくは学校数は半分でよい、日本の大半のエリアがそういう状況におかれている。
東京都だけが目立って緩やかな少子化(親子1世代間で19%減)となっているのは、ここまで解説してきたように、就職期の若者(20代人口)が9割を占める東京一極集中下にあるからである。
ここで特に注意喚起したいのは、日本の政治家もメディアも経済界も、若年女性が仕事を選んで地元を去り行く現象をあまり問題視せずに、残った地元女性に対する子育て支援をいまだに力強く謳って、それを少子化対策である、と考えていることである。夫婦が持つ子どもの数は、半世紀前と変わらず、地方部では微増エリアも見られている一方で、若年女性の就職流失と地元女性の未婚化が止まらない状態のため、これ以上、今まで通りの雇用ならびに家族価値観のもとでの既婚者支援政策が奏功する可能性は極めて低い。
女性を中心とする都市部への転出超過、すなわち令和の若年女性たちに仕事で選ばれないことを考えずに、地元を選んでくれた女性に主眼を置いた子育て支援策は、本質を見誤った行動と言わざるを得ない。
社会減が自然減にほぼ直結にある今、国・都道府県・市町村は、今一度、人口問題の主役が一体誰なのか、そして、誰の気持ちを尊重して動かねばならないのか、自問自答してほしい。
高齢化社会が持つアンコンシャスな独善性を捨て、人口サステナビリティの主役の気持ちに沿ったエビデンスをもとに人口問題を考えることができる、そしてそれこそが「少子化対策」であると考えることができるようになるためのジェネレーションギャップ啓発活動こそが、最優先の取り組み事項ともいえるかもしれない。
6 第1子から第3子までの授かり年齢は男女ともに35歳までに収まってくる。
【参考文献】
天野 馨南子(2022)「都道府県の合計特殊出生率、少子化度合いと『無相関』-自治体少子化政策の誤りに迫る-」,ニッセイ基礎研究所「基礎研レポート」2022年9月12日号
天野 馨南子(2024)「まちがいだらけの少子化対策」,金融財政事情研究会
天野 馨南子(2025)「【少子化対策データ考】若者の2人に1人は「両親が羨ましくない」未婚化ニッポンの姿」,ニッセイ基礎研究所「基礎研レター」2025年9月1日号
天野 馨南子(2023)「女性がリードする地方からの人口流出」,中央公論新社「中央公論」2023年6月号,pp30-37
厚生労働省「人口動態調査」
総務省「住民基本台帳人口移動報告」
東京都「住民基本台帳人口移動報告」
(2025年09月22日「基礎研レター」)

03-3512-1878
- プロフィール
1995年:日本生命保険相互会社 入社
1999年:株式会社ニッセイ基礎研究所 出向
【委員歴/ご依頼順(現職優先)】
1.政府
・【総務省統計局】
「令和7年国勢調査有識者会議」構成員(2021年~)
・【こども家庭庁】
「若い世代視点からのライフデザインに関する検討会」構成員(2025年度)
「若い世代の描くライフデザインや出会いを考えるワーキンググループ」構成員(2024~2025年度)
「令和5年度「地域少子化対策に関する調査事業」委員会委員」(2023年度)
・【内閣府特命担当大臣(少子化対策)主宰】
「少子化社会対策大綱の推進に関する検討会」構成員(2021年~2022年)
「結婚の希望を叶える環境整備に向けた企業・団体等の取組に関する検討会」構成メンバー(2016年)
・【内閣府男女共同参画局】
「人生100年時代の結婚と家族に関する研究会」構成員(2021年~2022年)
・【内閣府】
「令和3年度結婚支援ボランティア等育成モデルプログラム開発調査 企画委員会 委員」(内閣府委託事業)(2021年~2022年)
「地域少子化対策重点推進交付金」事業選定審査員(2017年~2018年)
「地域少子化対策強化事業の調査研究・効果検証と優良事例調査 企画・分析会議委員(2016年~2017年)
2.自治体
・【富山県】
「県政エグゼクティブアドバイザー」(2023年~)
「富山県子育て支援・少子化対策県民会議 委員」(2022年~)
「富山県成長戦略会議真の幸せ(ウェルビーイング)戦略プロジェクトチーム 少子化対策・子育て支援専門部会委員」(2022年)
・【高知県】
「元気な未来創造戦略推進委員会 委員」(2024年度~)
「中山間地域再興ビジョン検討委員会 委員」(2023年度)
・【三重県】
「人口減少対策有識者会議 有識者委員」(2023年度~)
・【愛知県豊田市】
「豊田市総合計画推進会議 有識者委員」(2025年度~)
・【石川県】
「少子化対策アドバイザー」(2023年度)
・【長野県伊那市】
「伊那市新産業技術推進協議会委員/分野:全般」(2020年~2021年)
・【佐賀県健康福祉部男女参画・こども局こども未来課】
「子育てし大県“さが”データ活用アドバイザー」(2021年)
・【愛媛県松山市】
「まつやま人口減少対策推進会議」専門部会・結婚支援ビッグデータ・オープンデータ活用研究会メンバー(2017年度~2018年度)
3.民間団体
・【東京商工会議所】
東京における少子化対策専門委員会 学識者委員(2023年~)
・【愛媛県法人会連合会】
えひめ結婚支援センターアドバイザー委員(2016年度~)
・【公益財団法人東北活性化研究センター】
「人口の社会減と女性の定着」に関する情報発信/普及啓発検討委員会 委員長(2021年~)
「人口の社会減と女性の定着」に関する意識調査/検討委員会 委員長(2020年~2021年)
・【中外製薬株式会社】
「ヒト由来試料を用いた研究に関する倫理委員会(通称:研究倫理委員会) 委員」(2020年~)
・【主宰研究会】
地方女性活性化研究会(2020年~)
日本証券アナリスト協会 認定アナリスト(CMA)
日本労務学会 会員
日本性差医学・医療学会 会員
日本保険学会 会員
性差医療情報ネットワーク 会員
JADPメンタル心理カウンセラー
JADP上級心理カウンセラー
天野 馨南子のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
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2025/09/22 | 【少子化対策データ考】コロナ時の若年移動抑制で大阪府が非少子化1位へ | 天野 馨南子 | 基礎研レター |
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