2024年03月11日

ドイツの民間医療保険及び民間医療保険会社の状況(2)-2022年結果-

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4―民間医療保険会社の状況(3)-財務面-

この章では、BaFinのAnnual Report 2022等に基づいて、民間医療保険会社の財務面の状況について報告する。
1|老齢化積立金の積立状況
民間医療保険連盟全社の総負債・資本353,085百万ユーロのうち、老齢化積立金が314,275百万ユーロで89.0%を占めている。

その他では、支払備金が8,419百万ユーロ(構成比2.4%)、RfBが17,416百万ユーロ(構成比4.9%)で、資本は8,292百万ユーロ(構成比2.3%)となっている。 
民間医療保険会社の総負債・資本構成(2022年末)
このうち、老齢化積立金の積立額及びその給付額に対する比率の推移は、以下の通りとなっている。

高齢化の進展に対応する形で、毎年比率が上昇してきている。2022年末では、10.62年分の給付金額に相当する老齢化積立金が積み立てられている状況にある。
民間医療保険会社の老齢化積立金の積立状況の推移
2|ソルベンシーの状況
ソルベンシーIIが2016年1月1日に施行されて以来、ソルベンシーIは保険監督法第211条の意味の範囲内で小規模な保険会社としての資格を有する6つの医療保険会社にのみ適用されてきた。6つの全ての会社が2021年12月31日時点でそれらに適用されるソルベンシー規則を遵守している。

残りの40の医療保険会社は、2022年末現在、ソルベンシーIIの対象となっている。これらの医療保険会社の大多数は、SCR(Solvency Capital Requirement:ソルベンシー資本要件)の計算に標準式を使用している。4つの会社が、部分的又は完全な内部モデルを使用しており、これらの会社のSCRはセクター全体の半分弱のシェアを有している。どの会社も、USP(Undertakings Specific Parameter:会社固有のパラメータ)を使用していない。

40社のうち、2社がVA(Volatility Adjustment:ボラティリティ調整)とTTP(Transitional on the Technical Provision:技術的準備金に関する移行措置)を適用し、4社がVAのみを適用し、1社がTTPのみを適用している。TRFR(Transitional on the Risk- Free Rate:リスクフリー金利の移行措置)を適用した会社はなかった。

2022年12月31日現在、民間医療保険会社全体のSCRカバレッジ率は475%だった。
(参考)民間医療保険会社のSCR、自己資本、SCR 比率(2022 年各四半期末)
3|将来収支予測
BaFinは、2022年に、様々な資本市場シナリオが、特に中期的に、会社の業績と財務の安定性に与える影響をシミュレートするために、医療保険会社向けの予測テストを実施した。これには、老齢化積立金を設定する必要がない短期商品のみを提供している7社を除く39の医療保険会社が参加した。

全体として、BaFinは、経済的観点からは、特に金利の上昇が支配的な環境は医療保険会社にとって、許容できるものであることを発見した、としている。また、平均して、投資は長期的な性質を有しているため、投資収益率及び技術的金利に直ちに重大な影響が及ぶことは予想されないが、将来的にはプラスの効果が生じる可能性がある、としている。
4|ACIRと技術的金利
医療保険会社は、ACIR(Actuarial corporate interest rate:保険数理上の会社金利)に基づいて技術的金利を決定する。

SLT医療保険5のビジネスモデルは、適切な保険料率に基づいており、保険料率が適切かどうかを確認するために、毎年レビューする必要がある。これには、保険料の計算の基礎となる全ての前提、特に投資の純利益の進展に関連する前提の調査が含まれる。保険会社は、ドイツアクチュアリー会(DAV)によって開発されたACIRに基づいて、この進展と安全マージンを推定する。

保険会社は毎年ACIRをBaFinに報告する必要がある。これにより、保険料の調整が必要な場合に、既存の保険料の技術的金利を引き下げる必要があるかどうかが決定される。

金利上昇により、債券投資の評価準備金は2022年に減少した一方で、保険料の計算に関連する技術的金利は引き上げられなかった。 これらは保険料が調整される場合にのみ変更でき、この場合はACIRに基づく必要がある。 技術的金利の上昇は、市場金利の上昇が医療保険会社の投資収益の増加に反映されるまで遅れて初めて想定されることになる。同様に、インフレの上昇は、これまでのところ、保険給付及び保険費用の水準に大きな影響を与えていない。BaFin は、医療インフレの進行傾向と、それが代替民間医療保険契約者の支払う保険料に与える影響を注意深く監視していく、と述べている。

なお、完全医療保険に加入している被保険者の約41%(2022年41%、2021年84%、2020年は61%、以下同様)が、2023年に少なくとも 1 つの保険モジュールで保険料調整の影響を受けた。セクターの平均保険料上昇率は5.2%(5.7%、10.1%、5.1%)だった。医療保険会社は、2022年の保険料の値上げを制限するために、合計約12 億ユーロ(約16 億ユーロ、約26億ユーロ、約20億ユーロ)の配当準備金を使用した。
 
5 SLT(Similar to Life Techniques)(生命保険と同様の技術的基礎)を使用して引き受けられる医療保険のことで、いわゆる長期医療保険契約のことを指している。

5―まとめ

5―まとめ

以上、ドイツにおける民間医療保険及び民間医療保険会社の状況について、基本的には2022年数値に基づいて、2回のレポートで報告してきた。

ドイツの生命保険会社は、長期の貯蓄性商品を保証利率付で販売してきたことから、低金利環境の継続で、販売面でも財務面でもかなり厳しい運営を迫られてきた状況にあった。それに比べると、医療保険会社の状況は、これまで相対的に大きな問題として捉えられている状況にはなかった。

これは、医療保険会社の場合には、利率に比べて、保険事故発生率による影響がより大きな意味合いを有していたことが関係していた。ただし、代替医療保険等は終身保障で提供されていることから、金利環境に基づく割引率の影響が、特に2021年まで継続していた低金利環境下では、かなり大きなものとなってきていた。こうした状況下で、2022年には、2021年に引き続いて、多くの被保険者が保険料調整の影響を受ける形になっていた。2022年に入ってから、金利が上昇しており、インフレも進行したことから、その影響についても懸念されていたが、これまでのところ大きな影響は与えていない、と評価されている。

こうしたドイツにおける民間医療保険及び民間医療保険会社の状況については、今後のドイツにおける公的医療保険制度の改定等の動向と併せて、同じように超低金利環境を経験し、その後の一定程度の金利の上昇やインフレも経験するかもしれない日本においても参考になるものがあると思われることから、その動向を引き続き注視していくこととしたい。
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中村 亮一

研究・専門分野

(2024年03月11日「保険・年金フォーカス」)

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