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欧州保険会社が2022年のSFCR(ソルベンシー財務状況報告書)を公表(2)-SFCRからの具体的内容の抜粋報告(その1)-
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1―はじめに
今回のレポートでは、欧州大手保険グループのSFCR(含むQRTs(定量的報告テンプレート))の内容から、長期保証措置と移行措置の適用による影響の説明について報告する。
2―長期保証措置と移行措置の適用による影響
ソルベンシーIIにおいては、景気循環効果を制限して、ソルベンシーIIの新しい規制枠組みへの円滑な移行を促進し、特に困難なマクロ経済環境に適応するために必要な時間を会社に提供すること等を目的として、(1)リスクフリー金利の補外、(2)マッチング調整、(3)ボラティリティ調整、(4)リスクフリー金利の移行措置、 (5)技術的準備金に関する移行措置、(6)ソルベンシー資本要件に違反した場合の回復期間の延長、といった「長期保証(LTG)措置」や「移行措置」が導入されている。さらに、今回のレポートでは触れていないが、(7)株式リスクチャージの対称調整メカニズム、(8)デュレーションベースの株式リスクサブモジュール、といった「株式リスク措置」も導入されている1。
1 これらの概要については、保険年金フォーカス「EUソルベンシーIIにおけるLTG措置等の適用状況とその影響(1)-EIOPAの2020年報告書の概要報告-」(2020.12.17)等を参照していただきたい。EIOPAの報告書では、「長期保証(LTG)措置」と「移行措置」を合わせて、「長期保証(LTG)措置」と呼んでいる。
Avivaは、マッチング調整の影響が大きなものとなっており、さらに技術的準備金に対する移行措置を適用することで有意な影響が現れている。Aegonの場合、基本的にはボラティリティ調整のみを適用しているが、英国の子会社等でマッチング調整を適用している。
Allianzは、2020年第2四半期から、Allianz Lebensversicherungs-Aktiengesellschaft と Allianz Private Krankenversicherungs-Aktiengesellschaftの2つのドイツの会社において、技術的準備金に関する移行措置を適用しており、その影響が大きなものとなっている。
Generaliも、2020年12月31日の評価から、Seguradoras Unidasの買収と引き続くGenerali Segurosのポルトガル会社の再編によるポルトガルのポートフォリオに対して、技術的準備金に関する移行措置を適用しているが、その影響は限定的である。
上記の影響額に基づいて、SCR比率(=適格自己資本/ソルベンシー資本要件)への影響を試算すると、以下の図表の通りとなる。
これによると、これらの措置を適用しなかった場合でも、Aviva以外は100%を超えるSCR比率を確保している。この状況はこれまでと同様である。また、長期保証措置や移行措置を適用したことによる影響度合いは、2021年末に比べて、若干小さくなっている。ユーロのボラティリティ調整の絶対的水準自体は、2021年末の3bpsから2022年末の19bpsに増加しているが、特に高いリスクフリーレート曲線という経済環境下において、VAの1bp当たりの影響が低下していることによる。
(2-1) Allianz
技術的準備金に関する移行措置やボラティリティ調整の適用による影響は、それぞれが大きなものとはなっているが、これらをともに非適用とした場合でも、Allianz は186%と高いSCR比率水準を維持している。
1) 技術的準備金に関する移行措置を非適用とした場合 : 201%(▲29%ポイント)
2) ボラティリティ調整を非適用とした場合 : 213%(▲17%ポイント)
(2-2) Generali
技術的準備金に関する移行措置の適用による影響は軽微だが、ボラティリティ調整の適用による影響は大きなものとなっている。
1) 技術的準備金に関する移行措置を非適用とした場合 : 220%(▲ 1%ポイント)
2) ボラティリティ調整を非適用とした場合 : 165%(▲56%ポイント)
(2-3) Aviva
マッチング調整の適用による影響がかなり大きなものとなっている。なお、実際にはマッチング調整を非適用とした場合、技術的準備金に関する移行措置の適用によるプラスの影響額が増加することになるが、下記の計算ではその影響は考慮されていない。
1) 技術的準備金に関する移行措置を非適用とした場合 : 165%(▲33%ポイント)
2) ボラティリティ調整を非適用とした場合 : 193%(▲ 5%ポイント)
3) マッチング調整を非適用とした場合 : 98%(▲100%ポイント)
(2-4) Aegon
ボラティリティ調整の適用による影響は一定程度あるが、マッチング調整の適用による影響は限定的なものとなっている。
1) ボラティリティ調整を非適用とした場合 : 186%(▲22%ポイント)
2) マッチング調整を非適用とした場合 : 207%(▲ 1%ポイント)
上記の2|の図表で示されている情報以外に、長期保証措置と移行措置の適用対象やDVA(動的ボラティリティ調整)の適用等について、各社は以下の通り説明している(なお、会社によっては、MA(マッチング調整)、VA(ボラティリティ調整)の略称を使用しているので、それに従っている)。
市場リスクに関する内部モデルには、ボラティリティ調整の将来の変化を予測する「動的ボラティリティ調整」のモデル化が含まれている。これは、スプレッドの拡大による資産側の損失が、ボラティリティ調整の変更による負債側の動きによって部分的に相殺されることを考慮に入れる経済的アプローチを反映している。内部モデルでは、ボラティリティ調整のレベルは、社債や国債のスプレッドの動きに応じて評価され、負債への影響が評価される。動的ボラティリティ調整のモデリングは、投資資産に起因するスプレッドリスクを部分的に相殺する。動的ボラティリティ調整のモデリングには、EIOPAが提供するパラメーター(ウェイト、参照ポートフォリオ、基本スプレッド)が使用される。一定程度の保守性を追加し、モデリングの潜在的な制限を反映するために、社債のスプレッドレベルの変動に25%のヘアカットが適用される(つまり、特定のシナリオで社債のスプレッドが+ x bps移動した場合、xの75%のみがこのシナリオの新しいボラティリティ調整を得るために考慮される)。
VAについて、生命保険契約については、変額年金を除く全ての契約に対して適用しており、技術的準備金への影響は1,352百万ユーロ(2021年末 563百万ユーロ、2020年末 1,321百万ユーロ)となっている。損害保険契約については、監督当局が適用を承認した会社に対して適用しており、技術的準備金への影響は562百万ユーロ(2021年末 205百万ユーロ、2020年末 362百万ユーロ)となっている。
技術的準備金の評価については、リスクフリーレート曲線の上にボラティリティ調整(VA)が適用される。VAはクレジットスプレッドから導出されるため、クレジットスプレッドのシミュレートされた変更は、概念的には、リスク計算の基礎となる各シナリオで使用されるVAの変更も意味する。したがって、これらの変更は、リスク資本に反映するために、基礎となる各シナリオの技術的準備金の評価に期待され、検討することができる。したがって、内部モデルには、この影響をカバーする動的コンポーネントが含まれている。動的コンポーネントをモデル化するためのAllianzのアプローチは、標準式で適用されている静的EIOPA VAの概念とは方法論的に異なる。リスク資本の計算では、Allianzのポートフォリオの信用スプレッドの動きに基づくVAの動的な動きの影響を反映している。この資産側の効果は、資産と負債のデュレ―ションを使用して負債側に移転される。EIOPA VA方法論に関する逸脱を説明するために、Allianzは、動的ボラティリティ調整に対して、より保守的で削減された適用比率を適用している。アプローチの適切性と慎重さを検証するために、定期的な検証が実行される。
VAは、生命保険ポートフォリオの98%、損害保険ポートフォリオの90%に対して、適用されている。VAをゼロとした場合の影響(再保険控除ベース)については、技術的準備金が1,859百万ユーロ2(2021年末 711百万ユーロ、2020年末 1,598百万ユーロ)(その内訳は、生命保険で1,681百万ユーロ(2021年末 674百万ユーロ、2020年末 1,524百万ユーロ)、損害保険で178百万ユーロ(2021年末 36百万ユーロ、2020年末 74百万ユーロ)増加する一方で、適格自己資本は1,176百万ユーロ(2021年末 406百万ユーロ、2020年末 1,085百万ユーロ)減少している。
MAは適用されていない。
技術的準備金に関する移行措置は、Generali Segurosのポルトガルの生命保険ポートフォリオに対して適用されている。
2 2|(1)の図表が示すように、QRTsのS.22.01.22においては1,904百万ユーロとなっているが、本文中の説明では1,859百万ユーロとなっている(この差異については不明)。
MAは、AVLAP(Aviva Life & Pension UK Limited)とAII(Aviva International Insurance Limited)の特定の負債に適用されている。
VAは、AVLAP、Aviva Insurance Limited(AIL)(損害保険業務)及びAII(生命保険及び損害保険業務)に適用されている(これについては、英国の保険監督当局であるPRA(健全性規制機構)とアイルランドの保険監督当局であるCBI(アイルランド中央銀行)の承認を得ている)。該当する場合、VAは、VAが適用されないUKユニットリンク契約を除く、MAが適用されない全ての負債に適用される。シンガポール及びインドの契約では、VAが適用されていない。
技術的準備金に関する移行措置は、AVLAP、AIIに適用されている。
なお、各措置の適用対象や承認の状況等が附属資料に添付されている。
MAは、Aegon UKに適用されている。
VAは、Aegon the Netherlands、Aegon UK、Aegon Spain(Aegon the Netherlands、Aegon Spainでは全ての契約、Aegon UKでは全ての伝統的、Unitized with profit契約)に適用されている。なお、Aegon the Netherlandsは、動的VAモデルを適用し、シナリオ分析を通じてスプレッドの変化が資産に与える影響を評価している。また、SCRの利益の1,262百万ユーロは、主にSCR計算における動的ボラティリティ調整の影響に起因している。
(2023年06月19日「保険・年金フォーカス」)
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