2023年06月13日

誰を優先して厚生年金の対象に加えるか?~年金改革ウォッチ 2023年6月号

保険研究部 上席研究員・年金総合リサーチセンター 公的年金調査室長 兼任 中嶋 邦夫

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1 ―― 先月までの動き

年金部会は、5月8日に前回までに続いて総論的な意見を述べ合い、5月30日に今後の進め方等を確認して各論の議論を始めた。企業年金・個人年金部会は、4月の有識者へのヒアリングに続いて、今回は関係団体(企業年金連合会・企業年金連絡協議会・国民年金基金連合会)へのヒアリングを行った。年金事業管理部会は、2022年度の業務実績報告書の案について報告を受けた。
 
○社会保障審議会 年金部会
5月8日(第3回) 2020年の年金制度改正法等において指摘された課題
 URL https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/nenkin_230508.html (資料)
5月30日(第4回) 議論の進め方、主な検討事項、被用者保険の適用拡大
 URL https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/nenkin_230530.html (資料)
 
○社会保障審議会 企業年金・個人年金部会
5月17日(第22回) 関係団体からのヒアリング
 URL https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_33145.html (資料)
 
○社会保障審議会 年金事業管理部会
5月31日(第67回) 日本年金機構の2022年度業務実績
 URL https://www.mhlw.go.jp/stf/kanribukai-siryo67_00001.html (資料)

2 ―― ポイント解説

2 ―― ポイント解説:厚生年金の適用拡大に関する経緯・現状・課題

5月30日の年金部会では、各論の最初のテーマとして厚生年金の適用拡大が取り上げられた。本稿では、厚生年金の適用拡大に関する経緯と現状を確認し*1、今後の課題を考察する。
 
*1 厚生年金の適用要件は拙稿「2022年10月から厚生年金の対象者が3方面で拡大」を、対象者に対する適用の徹底は同「適用拡大は全世代社会保障にも盛り込まれたが、適用徹底が課題」を参照。
図表1 厚生年金の適用拡大の主な経緯 1|経緯:古くは業種や企業形態、2000年以降はパート労働者、近年は多様な働き方が検討の対象
厚生年金の対象者の拡大(適用拡大)は長年の課題である。古くは、1942年創設の労働者年金が1944年に厚生年金へ変更される際に、女性に拡大、事業所の規模を10人以上から5人以上に拡大、5人以上の法人を業種不問に拡大、5人以上の個人事業所の対象業種を追加、などの対応が行われ、その後も勤務先に関する要件を中心に徐々に拡大されてきた。

近年は従業員に関する要件を中心に拡大されており、2016年10月に、契約上の労働時間が週20時間以上かつ基本給が月8.8万円以上かつ勤務期間の見込みが1年以上かつ昼間学生以外で、正社員等*2が500人超の企業等に勤務するパート労働者へ拡大された。2022年10月には、パート労働者の勤務期間要件の撤廃と企業規模の社員100人超への拡大、個人事業所の対象業種への士業の追加が行われ、2024年10月にはパート労働者の企業規模が社員50人超へ拡大される。
 
*2 厳密にはパート労働者以外の厚生年金加入者数。
図表2 厚生年金の適用状況 (2020年改正時) 2|現状:雇用者の2割弱が厚生年金の対象外
2020年時点では、雇用者全体(5660万人)のうち、正社員4480万人、パート労働者52万人が厚生年金に加入している。2022年10月と2024年10月の拡大ではパート労働者70万人と士業の従業員5万人が加入する見込みで、それ以外に最低賃金の上昇でパート労働者が110万人加入する見込みである。

加入対象外の雇用者は、契約上の労働時間や基本給が要件を満たすものの社員50人以下の企業で働くパート労働者(学生以外)が130万人、5人以上の個人事業所の対象外業種で働く社員と週20時間以上労働のパート労働者が計29万人、5人未満の個人事業所で働く社員と週20時間以上労働のパート労働者が計108万人、週20時間未満労働のパート労働者が計550万人となっている。

また、請負契約で働くフリーランスのうち指揮監督下で働くなど労働基準法の労働者に該当する人々も、厚生年金の対象となる*3
 
*3 2023年4月から、労働基準監督署が労働者と判断した事案を年金事務所へ情報提供するなど、連携が強化された。
3|課題:従業員側の必要性も要考慮
2019年にまとめられた年金部会の議論の整理では、被用者には(厚生年金を含む)被用者保険の適用が基本とした上で、具体的な適用拡大は企業経営への影響等に留意しつつ丁寧に進める必要がある、とされた。

しかし、被用者にふさわしい保障の提供という適用拡大の目的を考えれば、企業への影響に加えて、従業員側の必要性も考慮すべきではないだろうか。例えば、適用拡大を逃れるために労働時間を短縮する専業主婦がしばしば話題になるが、扶養の範囲を超えて働いているのに厚生年金の対象外となっている人々*4の方が適用拡大の優先度が高いのではないだろうか。勤務先要件の拡大に加えて、複数の勤務先での労働時間や基本給の合算や*5、対象となる労働時間や基本給の拡大の検討を期待したい。
 
*4 年収130万円以上で、厚生年金の対象外の職場で働くなど、自営と同じく国民年金保険料の対象となっている人々。
*5 現在は勤務先ごとに判定されるため、例えば週19時間のパート勤務を2箇所で行っている人は対象外になる。
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保険研究部   上席研究員・年金総合リサーチセンター 公的年金調査室長 兼任

中嶋 邦夫 (なかしま くにお)

研究・専門分野
公的年金財政、年金制度全般、家計貯蓄行動

経歴
  • 【職歴】
     1995年 日本生命保険相互会社入社
     2001年 日本経済研究センター(委託研究生)
     2002年 ニッセイ基礎研究所(現在に至る)
    (2007年 東洋大学大学院経済学研究科博士後期課程修了)

    【社外委員等】
     ・厚生労働省 年金局 年金調査員 (2010~2011年度)
     ・参議院 厚生労働委員会調査室 客員調査員 (2011~2012年度)
     ・厚生労働省 ねんきん定期便・ねんきんネット・年金通帳等に関する検討会 委員 (2011年度)
     ・生命保険経営学会 編集委員 (2014年~)
     ・国家公務員共済組合連合会 資産運用委員会 委員 (2023年度~)

    【加入団体等】
     ・生活経済学会、日本財政学会、ほか
     ・博士(経済学)

(2023年06月13日「保険・年金フォーカス」)

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