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2023年04月14日
ドイツの民間医療保険及び民間医療保険会社の状況(2)-2021年結果-
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4―民間医療保険会社の状況(3)-財務面-
この章では、BaFinのAnnual Report 2021等に基づいて、民間医療保険会社の財務面の状況について報告する。
2|ソルベンシーの状況
ソルベンシーIIが2016年1月1日に施行されて以来、ソルベンシーIは保険監督法第211条の意味の範囲内で小規模な保険会社としての資格を有する6つの医療保険会社にのみ適用されてきた。6つの全ての会社が2021年12月31日時点でそれらに適用されるソルベンシー規則を遵守している。
残りの40の医療保険会社は、2021年末現在、ソルベンシーIIの対象となっている。これらの医療保険会社の大多数は、SCR(Solvency Capital Requirement:ソルベンシー資本要件)の計算に標準式を使用している。4つの会社は、部分的又は完全な内部モデルを使用している。どの会社も、USP(Undertakings Specific Parameter:会社固有のパラメータ)を使用していない。
40社のうち、2社がVA(Volatility Adjustment:ボラティリティ調整)とTTP(Transitional on the Technical Provision:技術的準備金に関する移行措置)を適用し、3社がVAのみを適用し、1社がTTPのみを適用した。TRFR(Transitional on the Risk- Free Rate:リスクフリー金利の移行措置)を適用した会社はなかった。
2021年12月31日現在、民間医療保険会社全体のSCRカバレッジ率は434.7%だった。
ソルベンシーIIが2016年1月1日に施行されて以来、ソルベンシーIは保険監督法第211条の意味の範囲内で小規模な保険会社としての資格を有する6つの医療保険会社にのみ適用されてきた。6つの全ての会社が2021年12月31日時点でそれらに適用されるソルベンシー規則を遵守している。
残りの40の医療保険会社は、2021年末現在、ソルベンシーIIの対象となっている。これらの医療保険会社の大多数は、SCR(Solvency Capital Requirement:ソルベンシー資本要件)の計算に標準式を使用している。4つの会社は、部分的又は完全な内部モデルを使用している。どの会社も、USP(Undertakings Specific Parameter:会社固有のパラメータ)を使用していない。
40社のうち、2社がVA(Volatility Adjustment:ボラティリティ調整)とTTP(Transitional on the Technical Provision:技術的準備金に関する移行措置)を適用し、3社がVAのみを適用し、1社がTTPのみを適用した。TRFR(Transitional on the Risk- Free Rate:リスクフリー金利の移行措置)を適用した会社はなかった。
2021年12月31日現在、民間医療保険会社全体のSCRカバレッジ率は434.7%だった。
3|将来収支予測
BaFinは、2021年に、様々な資本市場シナリオが、特に中期的に、会社の業績と財務の安定性に与える影響をシミュレートするために、医療保険会社向けの予測テストを実施した。これには、老齢化積立金を設定する必要がない短期商品のみを提供している7社を除く39の医療保険会社が参加した。
全体として、BaFinは、持続的な低金利環境は、経済的観点から医療保険会社にとって対応できるものであった、ということを確認した。ただし、予想されたように、低金利シナリオでは新規投資と再投資に付随するリスクが発生し続け、投資収益が減少することを示していた。これは、保険料調整によって数理計算上の割引率を徐々に引き下げる必要があることを示していた。
BaFinは、2021年に、様々な資本市場シナリオが、特に中期的に、会社の業績と財務の安定性に与える影響をシミュレートするために、医療保険会社向けの予測テストを実施した。これには、老齢化積立金を設定する必要がない短期商品のみを提供している7社を除く39の医療保険会社が参加した。
全体として、BaFinは、持続的な低金利環境は、経済的観点から医療保険会社にとって対応できるものであった、ということを確認した。ただし、予想されたように、低金利シナリオでは新規投資と再投資に付随するリスクが発生し続け、投資収益が減少することを示していた。これは、保険料調整によって数理計算上の割引率を徐々に引き下げる必要があることを示していた。
4|ACIRと技術的金利
医療保険会社は、ACIR(Actuarial corporate interest rate:保険数理上の会社金利)に基づいて技術的金利を決定する。
SLT医療保険5のビジネスモデルは、適切な保険料率に基づいており、保険料率が適切かどうかを確認するために、毎年レビューする必要がある。これには、保険料の計算の基礎となる全ての前提、特に投資の純利益の進展に関連する前提の調査が含まれる。保険会社は、ドイツアクチュアリー協会(DAV)によって開発されたACIRに基づいて、この進展と安全マージンを推定する。
保険会社は毎年ACIRをBaFinに報告する必要がある。これにより、保険料の調整が必要な場合に、既存の保険料の技術的金利を引き下げる必要があるかどうかが決定される。
2021年に計算されたACIRの数値は、セクター全体でドイツの医療保険監督規則に規定されている最高技術的金利3.5%を下回っており、低金利環境の結果、数値は前年比でさらに低下していた。したがって、殆どの保険会社は、保険料率に使用される技術的金利をさらに引き下げる必要がある。
完全医療保険に加入している被保険者の約41%(2021年84%、2020年は61%、以下同様)が、2022年に少なくとも 1 つの保険モジュールで保険料調整の影響を受けた。セクターの平均保険料上昇率は約5.7%(10.1%、5.1%)だった。医療保険会社は、2021年の保険料の値上げを制限するために、合計約16 億ユーロ(約26億ユーロ、約20億ユーロ)の配当準備金を使用した。
5 SLT(Similar to Life Techniques)(生命保険と同様の技術的基礎)を使用して引き受けられる医療保険のことで、いわゆる長期医療保険契約のことを指している。
医療保険会社は、ACIR(Actuarial corporate interest rate:保険数理上の会社金利)に基づいて技術的金利を決定する。
SLT医療保険5のビジネスモデルは、適切な保険料率に基づいており、保険料率が適切かどうかを確認するために、毎年レビューする必要がある。これには、保険料の計算の基礎となる全ての前提、特に投資の純利益の進展に関連する前提の調査が含まれる。保険会社は、ドイツアクチュアリー協会(DAV)によって開発されたACIRに基づいて、この進展と安全マージンを推定する。
保険会社は毎年ACIRをBaFinに報告する必要がある。これにより、保険料の調整が必要な場合に、既存の保険料の技術的金利を引き下げる必要があるかどうかが決定される。
2021年に計算されたACIRの数値は、セクター全体でドイツの医療保険監督規則に規定されている最高技術的金利3.5%を下回っており、低金利環境の結果、数値は前年比でさらに低下していた。したがって、殆どの保険会社は、保険料率に使用される技術的金利をさらに引き下げる必要がある。
完全医療保険に加入している被保険者の約41%(2021年84%、2020年は61%、以下同様)が、2022年に少なくとも 1 つの保険モジュールで保険料調整の影響を受けた。セクターの平均保険料上昇率は約5.7%(10.1%、5.1%)だった。医療保険会社は、2021年の保険料の値上げを制限するために、合計約16 億ユーロ(約26億ユーロ、約20億ユーロ)の配当準備金を使用した。
5 SLT(Similar to Life Techniques)(生命保険と同様の技術的基礎)を使用して引き受けられる医療保険のことで、いわゆる長期医療保険契約のことを指している。
5―まとめ
以上、ドイツにおける民間医療保険及び民間医療保険会社の状況について、基本的には2021年数値に基づいて、2回のレポートで報告してきた。
ドイツの生命保険会社は、長期の貯蓄性商品を保証利率付で販売してきたことから、低金利環境の継続で、販売面でも財務面でもかなり厳しい運営を迫られている状況にあった。それに比べると、医療保険会社の状況は、これまで相対的に大きな問題として捉えられている状況にはなかった。
これは、医療保険会社の場合には、利率に比べて、保険事故発生率による影響がより大きな意味合いを有していたことが関係していた。ただし、代替医療保険等は終身保障で提供されていることから、金利環境に基づく割引率の影響が、特に2021年まで継続していた低金利環境下では、かなり大きなものとなってきていた。こうした状況下で、2022年には、2021年に引き続いて、多くの被保険者が保険料調整の影響を受ける形になっている。
こうしたドイツにおける民間医療保険及び民間医療保険会社の状況については、今後のドイツにおける公的医療保険制度の改定等の動向と併せて、同じように超低金利環境下にあった日本においても参考になるものがあると思われることから、その動向を引き続き注視していくこととしたい。
ドイツの生命保険会社は、長期の貯蓄性商品を保証利率付で販売してきたことから、低金利環境の継続で、販売面でも財務面でもかなり厳しい運営を迫られている状況にあった。それに比べると、医療保険会社の状況は、これまで相対的に大きな問題として捉えられている状況にはなかった。
これは、医療保険会社の場合には、利率に比べて、保険事故発生率による影響がより大きな意味合いを有していたことが関係していた。ただし、代替医療保険等は終身保障で提供されていることから、金利環境に基づく割引率の影響が、特に2021年まで継続していた低金利環境下では、かなり大きなものとなってきていた。こうした状況下で、2022年には、2021年に引き続いて、多くの被保険者が保険料調整の影響を受ける形になっている。
こうしたドイツにおける民間医療保険及び民間医療保険会社の状況については、今後のドイツにおける公的医療保険制度の改定等の動向と併せて、同じように超低金利環境下にあった日本においても参考になるものがあると思われることから、その動向を引き続き注視していくこととしたい。
(2023年04月14日「保険・年金フォーカス」)
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