2023年01月10日

適用拡大は全世代社会保障にも盛り込まれたが、適用徹底が課題~年金改革ウォッチ 2023年1月号

保険研究部 上席研究員・年金総合リサーチセンター 公的年金調査室長 兼任 中嶋 邦夫

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1 ―― 先月までの動き

企業年金・個人年金部会は、「資産所得倍増プラン」による個人型確定拠出年金の見直しなどについて議論した。年金事業管理部会は、日本年金機構の取組状況などについて説明を受けた。年金記録訂正分科会は、年金記録の訂正の状況について報告を受けた。年金数理部会は、厚生年金財政のうち第1号被保険者部分と国民年金財政および基礎年金財政について、2021年度の状況を確認した。
 
○社会保障審議会 企業年金・個人年金部会
12月7日(第20回) 資産所得倍増プラン等
 URL https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_29597.html (資料)
 
○社会保障審議会 年金事業管理部会
12月13日(第64回) 日本年金機構の令和4年度の取組状況等
 URL https://www.mhlw.go.jp/stf/kanribukai-siryo64_00001.html (資料)
 
○社会保障審議会 年金記録訂正分科会
12月21日(第10回) 年金記録の訂正に関する事業状況(令和3年度事業状況、令和4年度上期概況)
 URL https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/newpage_00036.html (資料)
 
○社会保障審議会 年金数理部会
12月26日(第94回) 令和3年度財政状況(厚生年金、国民年金、基礎年金制度)等
 URL https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000198131_00025.html (資料)

2 ―― ポイント解説:厚生年金の適用徹底

2 ―― ポイント解説:厚生年金の適用徹底

年金事業管理部会では、日本年金機構の取組状況が報告された。本稿では、厚生年金の適用徹底について、2022年10月に施行された厚生年金の適用拡大や全世代型社会保障構築会議の報告書に盛り込まれた検討事項などを踏まえながら、取組状況や今後の課題を確認する。
図表1 近年の適用拡大の概要 1|制度と改正の概要:パートの拡大に加え試用期間も対象に
厚生年金の加入(適用)対象となるか否かは、個人の就労状況(労働時間等)に加えて職場(事業所)の形態等も影響する。正社員*1の場合、法人の事業所は業種や規模に関係なく強制加入の対象となるが、個人事業所は法定業種かつ従業員が5人以上の場合に強制加入の対象となる。パート(短時間)労働者の場合は、企業規模(会社全体の正社員数)など短時間労働者に固有の要件も存在する*2
図表2 全世代型社会保障構築会議の報告書に盛り込まれた検討事項(適用拡大関連) 2022年10月に施行された改正では、パート労働者の企業規模要件の緩和(小規模への拡大)等に加え、個人事業所の対象業種が約70年ぶりに追加された。また、2022年12月に公表された全世代型社会保障構築会議の報告書*3には、取り組むべき課題として、さらなる拡大が盛り込まれた。
 
*1 厳密には、週所定労働時間および月所定労働日数が常時雇用者の4分の3以上の常時使用される者(正社員以外も含む)。
*2 当連載の2022年9月号「2022年10月から厚生年金の対象者が3方面で拡大」を参照。
*3 https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/zensedai_hosyo/dai12/siryou1.pdf
図表3 年金機構の指導で加入した事業所数/図表4 年金機構の指導で加入した人数 2|適用徹底の状況:国税庁など関係機関と連携して推進
制度改正で対象が拡大しても、実際に加入しなければ厚生年金を受け取れない。厚生年金の加入は原則として事業主が自主的に届け出るため、適用が漏れる事業所や従業員が発生しうる。これを減らす取り組みが、厚生年金の適用徹底である。
近年の適用徹底は、関係機関と連携して行われている。その1つは、関係機関が持っている事業所の情報と厚生年金に加入している事業所の情報との照合である。2002年度から雇用保険、2012年度から法人登記簿、2014年度からは国税庁の源泉徴収の情報と照合され、文書・電話・訪問等による適用徹底が進んでいる。

もう1つは、国土交通省による取り組みである。運輸業者や建設業者の届出などの際に厚生年金を含む社会保険の加入状況を確認するほか、社会保険に加入していない建設作業員の現場入場を認めないガイドラインの制定や、その徹底に取り組んでいる*4
3|今後の課題:小規模事業所への徹底や脱法行為への対策
日本年金機構では、指導の効果が大きい従業員5人以上の法人事業所を中心に適用の徹底を進めているが、今後は従業員5人未満の法人事業所や個人事業所への徹底策も検討する必要があるだろう。

また、適用拡大に伴い、雇用契約から請負契約への切替や事業所ごとの労働時間を週20時間未満に抑える等の行為への対策も、重要となろう。国土交通省では、請負契約への切替に対する懸念から一人親方問題に関する検討会を開催し、2022年4月には下請に関するガイドラインを改訂している。

全世代型社会保障構築会議の報告書が示した適用拡大の方針は、働き方の多様化への対応や社会の分断を防ぐ観点から有益だと思われる。机上の空論で終わらないよう、実務面も考慮した検討を期待したい。
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保険研究部   上席研究員・年金総合リサーチセンター 公的年金調査室長 兼任

中嶋 邦夫 (なかしま くにお)

研究・専門分野
公的年金財政、年金制度全般、家計貯蓄行動

経歴
  • 【職歴】
     1995年 日本生命保険相互会社入社
     2001年 日本経済研究センター(委託研究生)
     2002年 ニッセイ基礎研究所(現在に至る)
    (2007年 東洋大学大学院経済学研究科博士後期課程修了)

    【社外委員等】
     ・厚生労働省 年金局 年金調査員 (2010~2011年度)
     ・参議院 厚生労働委員会調査室 客員調査員 (2011~2012年度)
     ・厚生労働省 ねんきん定期便・ねんきんネット・年金通帳等に関する検討会 委員 (2011年度)
     ・生命保険経営学会 編集委員 (2014年~)
     ・国家公務員共済組合連合会 資産運用委員会 委員 (2023年度~)

    【加入団体等】
     ・生活経済学会、日本財政学会、ほか
     ・博士(経済学)

(2023年01月10日「保険・年金フォーカス」)

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