2022年06月07日

納付率のさらなる向上に向けて、自動引去りの推進が課題~年金改革ウォッチ 2022年6月号

保険研究部 上席研究員・年金総合リサーチセンター 公的年金調査室長 兼任 中嶋 邦夫

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1 ―― 先月までの動き

年金事業管理部会は、日本年金機構の令和3年度の業務実績について報告を受け、意見交換した。
 
○社会保障審議会 年金事業管理部会
5月24日(第61回) 日本年金機構の令和3年度業務実績、その他
 URL https://www.mhlw.go.jp/stf/kanribukai-siryo61_00001.html (資料)

2 ―― ポイント解説

2 ―― ポイント解説:国民年金保険料の納付率向上の現状と課題

年金事業管理部会で示された2021年度の業務実績報告書案では、国民年金保険料の納付率向上策が取り上げられた。本稿では、2021年度の納付率等を反映した改訂版(6月下旬公開予定)の予習を兼ねて、各種統計を確認しながら、国民年金保険料の納付に関する制度や現状、課題を確認する。
図表1 公的年金加入者の区分(イメージ) 1|制度:国民年金保険料の対象者には、自営業のほかパート労働者や無職など多様な人々が混在
日本国内に住んでいる20~59歳の人は国民年金の加入者(被保険者)となり、将来は基礎年金を受給できる*1。国民年金の被保険者は第1~3号の3種類に区分されており、第2号は厚生年金の加入者(会社員や公務員)、第3号は第2号の被扶養配偶者(専業主婦(夫))で、それ以外は第1号となる。基礎年金に必要な費用のうち第2~3号の分は厚生年金制度から拠出されており、国民年金保険料を納付するのは第1号のみである*2
図表2 国民年金保険料対象者の就業状況 第1号には第2~3号以外のすべての対象者を含むため、多様な人々が混在している。近年では、雇用者(雇われている人)が約4割、無職が約3分の1で、自営業は約4分の1となっている(図表2)。無職も対象であるため、本人や世帯の所得状況等によっては保険料の免除や猶予を受けられる。
 
* 人年金改革ウォッチは、2013年1月より毎月第1火曜日に連載(祝日は休載)。
*1 ただし、老齢基礎年金の受給には10年以上の加入が必要など、一定の要件がある。
*2 2022年度の保険料月額は16,590円。厚生年金加入者の給与(標準報酬)の変動に合わせて改定される。
図表3 国民年金保険料の納付率 2|現状:納付率は改善傾向。免除も一定寄与
保険料の納付期限は対象月の翌月末だが、2年以内なら遡及して納付できる。保険料の納付率(分母から免除者や猶予者を除外した率)は、納付対象月の年度内でも2年度後でも、上昇傾向が続いている(図表3)。
図表4 国民年金保険料の申請全額免除の割合 また、年度内から2年度後にかけての納付率の向上幅は、近年約10%ポイントに達している。年度内に納付しなかった人への納付勧奨が奏効している結果、と言えるだろう。

なお、納付率が改善している要因として、免除率の上昇が挙げられることもある(図表4)*3。厚生労働省の分析によると*4、年度内の納付率が2019年度から2020年度にかけて2.24ポイント上昇したうち、1.25ポイントは両年度(24か月)ずっと第1号被保険者だった人による影響で、1.14ポイントは2019年度に納付対象月があるものの2020年度は申請全額免除になった人による影響となっている。他方で、2019年度は申請全額免除で2020年度に納付対象月がある人による影響が-0.38ポイントある*5。免除率の上昇が主因とは言い切れないが、一定の影響が推察される。
 
*3 保険料が免除された場合は、保険料を納付した場合と比べて将来の年金額が少なくなる。例えば、保険料の全額を免除された場合、免除期間分の年金額は納付した場合の半額となる。
*4 厚生労働省年金局(2021)「令和2年度の国民年金の加入・保険料納付状況」p.14.
*5 他の影響には、2020年度のみ学生納付特例の対象者(0.97)、2020年度の新規対象者(-0.80)などがある。
3|課題:自動引去りのさらなる推進
行動経済学に基づく研究では、将来を軽視する人ほど国民年金保険料を納めない傾向が示されている*6。このように自分の意志では納めにくい場合、自動引去りを契約すれば、窓口での支払いより納付が継続しやすいと言われている。
図表5 最も利用回数が多かった納付方法の割合(%) 総務省行政評価局は自動引去りの推進が年度内の納付率を高める効果を指摘し*7、厚生労働省も自動引去りを推進している市町村を表彰して好取組事例の共有化を図っている。しかし、若年層や都市部での推進が課題となっている(図表5)。

今回の年金事業管理部会で示された報告書案では、20歳到達前月に自動引去りを含む加入案内を送付(以前から実施)、新規の3か月未納者に自動引去りの書類を送付(2021年9月から実施)、などの取組みが示されている。6月下旬に示される報告書案の改訂版では、これらの効果に注目したい。
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保険研究部   上席研究員・年金総合リサーチセンター 公的年金調査室長 兼任

中嶋 邦夫 (なかしま くにお)

研究・専門分野
公的年金財政、年金制度全般、家計貯蓄行動

経歴
  • 【職歴】
     1995年 日本生命保険相互会社入社
     2001年 日本経済研究センター(委託研究生)
     2002年 ニッセイ基礎研究所(現在に至る)
    (2007年 東洋大学大学院経済学研究科博士後期課程修了)

    【社外委員等】
     ・厚生労働省 年金局 年金調査員 (2010~2011年度)
     ・参議院 厚生労働委員会調査室 客員調査員 (2011~2012年度)
     ・厚生労働省 ねんきん定期便・ねんきんネット・年金通帳等に関する検討会 委員 (2011年度)
     ・生命保険経営学会 編集委員 (2014年~)
     ・国家公務員共済組合連合会 資産運用委員会 委員 (2023年度~)

    【加入団体等】
     ・生活経済学会、日本財政学会、ほか
     ・博士(経済学)

(2022年06月07日「保険・年金フォーカス」)

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