2022年04月01日

欧州大手保険グループの2021年末SCR比率の状況について(1)-ソルベンシーIIに基づく数値結果報告(全体的な状況) -

中村 亮一

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3|SCR等の算出方法(長期保証措置の適用状況)
ソルベンシーIからソルベンシーIIへの移行における割引率や技術的準備金についての16年間にわたる移行措置、MA(マッチング調整)及びVA(ボラティリティ調整)といった長期保証措置1の適用については、各国の保険市場の特徴(販売商品や資産運用市場等)に大きく依存している。

保険年金フォーカス「欧州保険会社が2020年のSFCR(ソルベンシー財務状況報告書)を公表(2)-SFCRからの具体的内容の抜粋報告(その1)-」(2021.7.1)で報告したように、Zurich以外のソルベンシーII制度下にある5社については、全社がVAを適用し、AvivaとAegonの一部が、MAや技術的準備金に関する移行措置を適用している。

これらの措置の適用による影響(2020年末ベース)については、以下の通りであり、Avivaがこれらの措置に大きく依存していることが示されている。なお、年度ごとの影響度の水準の差異は、VAの水準等の影響を受けている。
長期保証(LTG)措置及び移行措置の適用によるSCR比率への影響(2020年末)
(参考)長期保証(LTG)措置及び移行措置の適用によるSCR比率への影響(2019年末)
 
1 長期保証措置(経過措置を含む)の内容及びそのEU各国における適用状況については、筆者による、保険・年金フォーカス「EUソルベンシーIIにおけるLTG措置等の適用状況とその影響(1)(6)-EIOPAの2020年報告書の概要報告-」(2020.12.17~2021.1.15)等を参照していただきたい。
4|自己資本の内訳
ソルベンシーIIの資本要件に算入可能な各種自己資本は、劣後性や損失吸収性、期間といった資本適格性からTier1~Tier3 に分類2され、 それぞれについて算入制限が設定されている。

各社とも、着実にTier1の割合を高めてきており、自己資本のうち、Tier1の自己資本が8割から9割程度、さらに、Tier1(無制限)がそのうちの8割から9割程度(従って、全体の7割から8割程度)を占めている。

例えば、各社とも、既存のTier1 やTier2の劣後債務について、グランド・ファザーリング・ルール(既得権認容ルール)を適用しているが、こうした債務については、早期償還等を行い、段階的にソルベンシーII適格なものに変更してきている。

2021年末における自己資本の内訳は、以下の図表の通りとなっている。2020年末と比べて、各社毎に状況は異なっている。
自己資本の内訳(2021年末)
積極的な事業の売却を進めたAvivaは全体の実額が減少しているが、Avivaを除けば各社とも合計の自己資本及びTier1(無制限)の残高が増加している。特にAXAとGeneraliにおいては、大幅に増加しており、AXAは、自社株買いと配当金の支払いによって部分的に相殺されたが、好調な業績と有利な経済的変動の結果によるとし、Generaliは、(同様な理由に基づいているが)主として調整準備金3に含まれる生命保険保有価値の増加によると説明している。

その他、各社の資本戦略等を反映する形で、内訳は変動している。

なお、各社とも、Tier1(無制限)だけで、SCRの100%水準を確保している。
 
2 Tier1(無制限)は払込資本や剰余金等、Tier1(制限付)はグランド・ファザーリング・ルールに基づく劣後債務、Tier2は、劣後債務、Tier3は繰延税金資産等である。
3 調整準備金は、ソルベンシーII貸借対照表の負債を超える資産の超過分から、財務諸表の資本項目(株式資本、劣後債務を除く名目価値を超える資本)と予想支払配当を差し引いたものを表している。
5|SCRのリスク別及び地域別内訳
SCRのリスク別及び地域別内訳の開示については、以下の図表が示すように、各社の事業構成等を反映する形で、リスクの分類の方式等が異なっている。なお、Aegonについては、2020年数値を掲載している(2021年数値はSFCR公表時に開示されるものと想定される)。

リスク別では、各社とも市場リスクや信用リスクのウェイトが高くなっている。ここで、図表の「信用」に、(1)デフォルト、スプレッド拡大、格付変更のリスクを全て含めている会社と、(2)これらを一部区分して開示している会社、がある点には注意が必要となる。

生命保険と損害保険のウェイトが共に高い会社を中心に、保険引受けリスクの構成比も高いものとなっている。オペレーショナル・リスクについては、ほぼ各社とも数%から1割程度の構成比となっている。

また、地域別内訳は、各社の地域別事業展開を反映したものとなっている。
SCRのリスク別・地域別内訳(2021年末)
SCRのリスク別・地域別内訳(2021年末)
なお、SCRの構造は、例えばGeneraliの場合、以下の通りとなっている。

(1) 分散化効果前SCR         353億ユーロ
(2) 分散化効果(▲)        ▲88億ユーロ
(3) 税(▲)            ▲55億ユーロ
(4) 他の制度からのSCR            12億ユーロ

SCR(=(1)+(2)+(3)+(4))     223億ユーロ 
(参考)COVID-19の影響
多くの会社において、2021年におけるCOVID-19の財務面への影響は、グループ全体としては限定的な形になっており、その結果として、COVID-19の影響を受けていた2020年との比較においては、引受実績等が改善している。ただし、例えばZurichは、グループ全体としてはCOVID-19による影響の減少もあり、営業利益が2020年に比べて35%増加したと述べているが、一方で生命保険の営業利益に与える影響について2020年が1億73百万ドル(超過死亡、自発的措置、DAC及びユニットリンク手数料等)であったのに対して、2021年は1億95百万ドル(超過死亡、医療関係請求の増加等)であったと述べている。

4―まとめ

4―まとめ

以上、各社のプレス・リリース資料等に基づいて、欧州大手保険グループの2021年末のSCR比率の水準等について、全体的な状況を報告してきた。

決算公表時点でのソルベンシーに関する情報提供は、必ずしも十分なものとはいえない面もある。AXA、Allianz及びGeneraliは、「OWN FUNDS REPORT」等の名称のレポートを作成しているが、さらに詳しい内容等については、今後公表されてくるSFCRで報告されていくことになる。

次回のレポートでは、各社のSCR比率の推移分析や感応度の推移の状況について報告する。
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中村 亮一

研究・専門分野

(2022年04月01日「保険・年金フォーカス」)

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