2020年05月01日

新型コロナウイルスの感染拡大を受けての保険監督当局等の対応-欧州のEIOPA等のケース-

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1―はじめに

新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、保険会社も大きな影響を受けることになっているが、これに対して、各国・地域の監督当局も迅速に必要な対応を行ってきている。

今回のレポートでは、欧州のEIOPA(保険年金監督当局)のこれまでの対応及びそのうちの配当及び自社株買い停止要請を受けてのEU加盟各国の保険監督当局や保険会社の対応について報告する。なお、EIOPAの声明等を受けてのその他の具体的な対応については各国の保険監督当局によって行われてきているが、その詳細等については触れていない。
 

2―3月17日のEIOPAによる声明

2―3月17日のEIOPAによる声明

EIOPAは3月17日に「コロナウイルス/COVID-19のEU保険部門への影響を緩和するための行動に関するEIOPA声明」1 を公表した。

その声明の中で、「コロナウイルス/COVID-19のアウトブレイクが金融サービスを含む世界経済に重大な影響を与えていることがますます明らかになってきている」中で、「保険会社は、従業員と顧客を保護するための措置を講じる一方で、困難な市場状況のナビゲートと運用の維持の両方の面で、近い将来、次第に困難な状況に直面する可能性がある」として、以下のキーメッセージを伝えている。

キーメッセージ
事業継続性
1.保険会社が顧客へのサービスを維持できることが特に重要である。この意味で、保険会社は事業継続性を確保するために必要な対策を実施する準備ができている必要がある。

2.コロナウイルスへの対応において運用上の救済を提供するために、監督官庁(NCAs)は、2019年末に関する監督報告と公開のタイミングについて柔軟である必要がある。EIOPAはアプローチの詳細を調整する。

3.さらに、短期的には、EIOPAは業界への情報の要求と協議を、市場の現状の影響を評価及び監視するために必要な必須要素に制限する。

4.EIOPAは、2020ソルベンシーIIレビューの全体的な影響評価の期限を2か月延長して2020年6月1日まで延長する。今後数日間で、EIOPAは追加のレポート及び情報要件の延期に関する詳細を通知する。

ソルベンシーと資本のポジション
5.ソルベンシーIIに基づき、EUの保険会社は、ソルベンシーの資本要件に対応するために、継続的に十分な適格自己資本を保有する必要がある。 リスクベースのソルベンシー資本要件により、保険会社は重大な損失を吸収し、保険契約者と受益者に支払いが期日通りに行われることを確信させることができる。

6.さらに、ソルベンシーIIフレームワークには、ソルベンシー資本要件と最低資本要件の間に監督上の介入のラダーが含まれている。これは、会社の財源が下回ってはならない最低限のセキュリティレベルである。 これにより、たとえば、ソルベンシーII指令の第138条で予測されているように、影響を受ける保険会社の回復期間を延長するための措置を含む、極端な状況の場合における柔軟性が認められる。

7.さらに、最近のストレステストは、セクターが十分に資本化されており、システムへの深刻であるがもっともらしいショックを阻止できることを示している。

8.ソルベンシーIIフレームワークには、セクターへのリスクと影響を軽減するために使用できるいくつかのツールも含まれている。 EIOPAとNCAsは、保険契約者の保護を維持し、金融の安定性を保護するために、必要に応じて調整された方法でこれらのツールを実装する準備ができている。

9.それにもかかわらず、保険会社は、慎重な配当と変動報酬を含むその他の分配政策に従い、被保険者の保護とのバランスをとって資本ポジションを維持するための措置をとるべきである。

10.EIOPAは、既存のツールと権限に関係なく、また各国当局及び他のESAとESRBとともに、状況を監視し続け、市場変動の影響を緩和し、欧州の保険セクターの安定性と保険契約者の保護の守るために、必要な措置をEU機関に実施又は提案する。

 

3―4月1日のEIOPAによる声明

3―4月1日のEIOPAによる声明

4月1日には、「EIOPAは、保険会社及び仲介業者に対し、消費者に対するコロナウイルス/ COVID-19の影響を緩和するための行動を継続するよう要請する2として、その「消費者に対するコロナウイルス/COVID-19の影響を緩和するための保険会社及び仲介人への行動要請」との声明3を公表した。

その声明の中で、保険サービスへのアクセスと継続性は、発生の状況において不可欠であると考えられるべきことから、保険会社と仲介人は次のことを求められると述べている。

・契約上の権利に関する明確でタイムリーな情報を消費者に提供する。
・消費者を公正に扱い、全てのコミュニケーションにおいて明確である。
・取られた緊急対策について消費者に知らせる。
・商品の監視とガバナンスの要件の適用を継続し、必要に応じて商品のレビューを実施する。
・消費者の利益を考慮し、合理的かつ実行可能な場合は、消費者への対応に柔軟性を持たせる。

さらに、EIOPAは、消費者の利益と継続的な公正な扱いに対する柔軟性の必要性を強調する一方で、契約内で想定されていない請求の遡及適用を課すことにより、重大なソルベンシーリスクが生じ、最終的に保険契約者保護を脅かす可能性があることも強調している(即ち、遡及適用のカバレッジは要求していない)。  

4―4月2日のEIOPAによるUPDATE

4―4月2日のEIOPAによるUPDATE

4月2日には、「COVID-19パンデミックの影響を受けるその他の対策に関する最新情報」4において、優先順位が現在の状況に整合的であることを保証するために、EIOPAは、NCAsや業界からの入力が予測されるプロジェクトの期限を延ばしたり、プロジェクトを遅らせたりすることにより、優先順位を付けて負担を軽減することを述べている。

具体的には、以下の通りの内容となっている。

II.現在オープンな市場への協議/リクエスト
6.EIOPAのコンサルテーションペーパー又は証拠の要求に対応する金融機関の能力は、現在の状況によって影響を受けることが想定されるため、現在オープンな市場への協議に関連して協議期間を延長することを提案する。新しい協議期間の終了日の詳細は、以下の通りとなる。

a)ソルベンシーII監督報告及び公開情報開示に関するパッケージの技術的実装手段のレビュー、コメント期限は2020年4月20日から6月1日まで6週間延長される。

b)PEPP (汎欧州個人年金商品)ITSに関する協議、コメント期限は2020年5月20日から6月17日まで4週間延長される。

c)IBOR(銀行間調達金利指標)移行に関するディスカッションペーパーに関する協議、コメント期限は2020年4月30日から6月30日まで9週間延長される。

d)市場と信用リスクの比較調査、情報リクエストの期限は5月31日から7月3日まで5週間延長される。

III.市場へのBoS(Boards of Supervisors)承認(ディスカッションノートを含む)の過程での公開協議
7.バリューチェーン/インシュアテックに関するディスカッションノート、コメントの公表は未定

8.保険ストレステストの方法論の原則に関する第2のディスカッションペーパー、パブリックコメントの公表は未定

IV.Q1(第1四半期)からQ2(第2四半期)に開始する金融機関へのデータ要求(EIOPA AWP 2020のカレンダーからの情報)

9.データリクエストのリストを以下に示す。
a)いかなる場合でも、会社へのLTGレビュー情報要求を実施しないように計画された。NCAsへの情報要求は、Q2からおそらくQ3に延期される。

b)気候リスク感応度分析2020、2020年の気候関連の移行リスクに関するエクササイズのロードマップで合意されたように、FS目的で報告するグループへのトップダウン要素及び定性調査に使用できるデータを完了するためのデータリクエストはキャンセルされる。利用可能な情報を使用してレポートが実行される。

c)Q1/Q2に計画されたソルベンシーIIデータを補完する保険会社への超低利回りの影響に関する作業のデータ収集は、必要に応じてCOVID-19の反映を組み込むためにも後で開始される。

 

5―4月3日のEIOPAによる声明

5―4月3日のEIOPAによる声明

4月3日には、「EIOPAは、(再)保険会社に対し、全ての裁量的配当の分配及び自社株買いを一時的に停止するように要請する5として、「COVID-19の文脈での配当分配と変動報酬ポリシーに関するEIOPA声明」6を発出している。

これによれば、以下の通りとなっている。

EIOPAは、金融市場及び経済におけるCOVID-19の影響の深さ、規模、期間に関する現在の不確実性のレベルを十分に考慮して、(再)保険会社に対し、全ての裁量的配当分配及び株主への報酬を目的とした自社株買いを一時停止することを要請する。

この一時停止は、COVID-19の財政的及び経済的影響が明らかになり始めたときに見直されるべきである。この慎重なアプローチは、変動報酬政策にも適用されるべきである。

この声明は、慎重な配当と変動報酬を含むその他の分配政策に従い、保険会社が被保険者の保護とのバランスで資本ポジションを維持することの重要性を強調したEIOPAの3月17日の声明に基づいている。

この声明は、コロナウイルス/COVID-19の発生が保険セクター、保険契約者及び受益者に及ぼす影響を緩和するために各国監督当局と密接に協力する中で、EIOPAが推奨している一連の措置の1つを表している。

さらに、より詳しく、声明の中で以下のように述べている。

EIOPAは、保険グループ内の効率的かつ慎重な資本配分と単一市場の適切な機能を維持する必要性を考慮して、この慎重なアプローチが全ての(再)保険グループによって連結レベルで、そしてまた重要なグループ間の配当金の分配又は同様の取引に関して、これらがグループ又は関与する会社のソルベンシー又は流動性ポジションに重要な影響を与える可能性がある場合はいつでも、適用されることを要請する。この影響の重要性は、グループと一人の監督者によって共同で監視される必要がある。

この慎重なアプローチは、変動報酬ポリシーにも適用できるはずである。(再)保険会社は、現在の報酬方針、慣行、報酬を見直し、慎重な資本計画を反映し、現在の経済状況と一致し、反映していることを確認することが期待される。このような状況では、報酬ポリシーの可変部分は保守的なレベルで設定し、延期を検討する必要がある。

法的に配当金や多額の変動報酬の支払いが義務付けられていると考える(再)保険会社は、根底にある理由を各国の管轄当局に説明する必要がある。
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中村 亮一

研究・専門分野

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