2019年12月17日

FSOC(金融安定監督評議会)が新たなノンバンクSIFI指定最終ガイダンスを発行-ガイダンスの概要と関係者の反応-

文字サイズ

4|前回の提案からの主な変更点
3月に提案されたガイダンスからの主な変更点として、以下の6点が挙げられている。

1.活動ベースのアプローチの下での分析の実施方法について評議会がより詳細な情報を提供すべきであるとのコメントを受けて、最終ガイダンスは、評議会が関連する金融規制機関と協議し、米国の金融安定性に対する潜在的なリスクを軽減する可能性のある既存の法律や規制を考慮することを明らかにしている。他の要因の中でも、最終ガイダンスは、評議会が、評価中の商品、活動又は慣行に従事する市場参加者のリスク・プロファイル及びビジネス・モデルも考慮することを規定している。

2.最終ガイダンスは、評議会が第120条に基づく勧告を発行するためのプロセスについて、そのような勧告に関連する費用と便益に関する評議会の分析を含め、さらなる明確性を提供する。

3.最終ガイダンスは、評議会の最終決定の対象となる会社の後継会社を含む、「ノンバンク金融会社」の解釈案に関するコメントを受けて改訂された。提案された解釈があまりにも広範であるとのコメントを受けて、最終ガイダンスは、「理事会の監督下にあるノンバンクの金融会社」という法令上の用語を、より限定的に、評議会の最終決定の対象となる会社の資産又は負債の大部分を直接又は間接に取得する全てのノンバンク金融会社を含むものとして、評議会が解釈しようとしていることを述べるために改訂された。その結果、評議会の最終決定の対象となるノンバンク金融会社が資産・負債の大部分を売却等により移転した場合には、買収会社は評議会の決定を承継し、評議会の決定の対象となる。評議会は、以下及び最終ガイダンスのセクションVに記載されているように、適切な場合には、次回の年次再評価の前に、指定されたノンバンク金融会社による決定の再評価の要請を認めることができる。

4.最終ガイダンスは、ドッド・フランク法第113条に基づく決定に関連する費用及び便益に関する評議会の評価について、より具体的な内容が追加されるように改訂された。例えば、最終ガイダンスでは、可能な場合には、評議会は、適切な範囲を用い、可能な場合には経験的データに基づいて、合理的に推定可能な便益と費用を定量化すると述べられている。

5.会社の重大な財務的苦境の可能性を評価するための評議会の分析プロセスの記述が修正された。最終ガイダンスでは、この評価を実施するために、レバレッジ(オン・オフのバランスシート)、資産再評価に伴う潜在的なリスク(そのような再評価が市場の混乱や厳しいマクロ経済状況から生じたものであるかどうか)、短期資金調達市場やその他の脆弱な資金調達市場への依存、満期の変換、取引相手やその他の市場参加者に対するエクスポージャーによるリスクなどの要因を検討することができるとされている。

6.提案されたガイダンスは、評議会又はその代理委員会が、決定プロセスの第1段階において、ノンバンク金融会社のレビューを開始するための投票を行うと述べている。パブリックコメントへの回答として、最終ガイダンスは、評議会が、第1段階におけるノンバンク金融会社の審査を開始するための投票を行うことを規定している。

以下の図表は、最終ガイダンスの下でのいくつかの重要な移行ポイントの要約を示している。
最終ガイダンスの下でのいくつかの重要な移行ポイントの要約
5|活動ベースのアプローチについて
(1) 2つの優先事項
活動ベースのアプローチについては、以下の2つの優先事項が反映されている。

1) 関連する金融規制機関と協議して、システム全体で潜在的なリスクと新たな脅威を特定し対処することにより、特定の金融機関を指定することで起こる金融会社間及び市場における競争上の歪みの可能性を低減する。

2) 会社を新たな規制当局に付託するのではなく、会社、商品、市場リスクに関して一般的に高い情報と専門知識を有する関連金融規制機関が、潜在的なリスクに対処できるようにする。

(2) 2段階のアプローチ
活動ベースのアプローチについては、以下の2段階のプロセスを確立している。

(2-1) 1段階のアプローチ
第1段階では、米国の金融安定性に対する潜在的なリスクを特定するために、評議会は、関連する金融規制機関と協議して、様々な金融市場及び市場の動向を監視し、金融の安定性にリスクをもたらす可能性のある商品、活動又は慣行を特定する。

評議会は、コーポレート及びソブリンの債権・貸付市場、株式市場、新規又は発展を続ける金融商品、活動及び慣行ならびに金融市場参加者の耐性力に影響を与える動向を含む幅広い範囲の金融市場及び市場動向を監視する。

評議会による市場及び市場の動向の監視により、米国の金融の安定性に潜在的なリスクをもたらす可能性のある商品、活動又は慣行が特定された場合、評議会は、関連する金融規制機関と協議の上、潜在的なリスクを評価し、更なる見直し又は行動の必要性を判断する。

評議会の分析は、一般的に以下の4つを分析する枠組み問題に焦点を当てている。

1) 潜在的なリスクのトリガー(例えば、特定の種類の金融資産の評価額の大幅な減少又は大幅な信用損失)

2) 潜在的なリスクの悪影響が金融市場又は市場参加者にどのように伝達されるか(例えば、関連する資産価格の下落から生じる潜在的リスク又は資金調達又は取引圧力への直接的又は間接的なエクスポージャーを通じて)

3) 潜在的なリスクが金融システムに及ぼし得る影響(例えば、他の会社及び市場に対する悪影響の規模及び大きさ、ならびにそのような影響が市場参加者の間で集中又は拡散する可能性があるかどうか)。

4) 潜在的なリスクの悪影響が、米国経済の非金融部門に損害を及ぼす可能性がある形で(例えば、非金融会社への信用供与の縮小又は中断を通じて)、金融システムを損なう可能性があるかどうか。

(2-2) 2段階のアプローチ
評議会が活動ベースのアプローチの第1段階で米国の金融安定性に対する潜在的なリスクを特定した場合、第2段階で、評議会は、特定された潜在的なリスクに対処するための適切な措置の実施を求めるために、連邦及び州レベルで関連する金融規制機関と協働する。

規制当局が特定のリスクに対処するために取ることができる措置は、当局とリスクの緊急性によって大きく異なる。評議会は、特定した潜在的なリスクに対処するため、これらの規制当局の専門知識と規制・監督上の権限を活用するよう努める。

なお、評議会は、特定された潜在的リスクに対処するために取るべき適切な措置は、規制当局間の情報共有のような比較的非公式な措置の形をとることが一般的であるが、適切と判断される場合には、評議会が規制当局又は公衆に勧告を公表するなど、より正式な措置を含むこともあると予想している。
 

3―今回のFSOCによる最終ガイダンスに対する関係者の反応

3―今回のFSOCによる最終ガイダンスに対する関係者の反応

今回のFSOCによる最終ガイダンスを受けての、保険監督当局であるNAIC(全米保険監督官協会)と保険業界団体のACLI(米国生命保険協会)の反応は、以下の通りである。
1|NAICNational Association of Insurance Commissioners:全米保険監督官協会)の反応
NAICは、今回のFSOCの最終ガイダンスの発行に関して、以下の内容の声明3を公表している。
 

NAICは、システミックリスクに対する活動ベースのアプローチをFSOCが採用したことを支持する

金融安定監督評議会(FSOC)が発行したガイダンスは、システミックリスクを特定するための活動ベースのアプローチと、懸念事項に対処するために規制当局と協力することの重要性を適切に優先している。また、指定された会社に対してより堅牢な出口ランプを確保し、指定の理由に対する透明性を高める。NAICはこれらの変更を長年支持しており、FSOCが採用した改訂を高く評価している。

NAICはこれまでSIFI制度の廃止を求めてきており、今回の最終ガイダンスにおいては、会社、商品及び市場のリスクに関してより多くの情報と専門知識を有している州規制当局の位置付けが評価され、今後の役割が期待されていることから、歓迎するコメントを述べている。
2|ACLIAmerican Council of Life Insurers:米国生命保険協会)の反応
ACLI(米国生命保険協会)も、今回のFSOCの最終ガイダンスの発行に関して、以下の内容の声明を公表4している。
 

新しいFSOCガイダンスは監視を改善し、消費者を保護する

ワシントン米国生命保険協会(ACLI)の会長兼CEOであるSusan Neely 氏は、ノンバンク金融会社の指定について、金融安定監督評議会(FSOC)によって承認された新しい解釈ガイダンスについて、本日、以下の声明を発表した。

「FSOCが本日承認した解釈ガイダンスを強く支持する。FSOCは、活動ベースのアプローチを適用することで、金融の安定性を促進し、消費者の経済的利益を保護するためにはるかに強力な立場になるだろう。」

「新しいガイダンスは、FSOCが特定されたリスクに対処する際に、州の保険規制当局の専門知識に依存することも約束している。強力な監視と規制により、州の保険規制当局は生命保険会社の財務力を確保する上で重要な役割を果たす。」

「生命保険会社の使命は、繁栄の時代と経済的ストレスの時代を通じて、消費者に金融の安全と安心を提供することである。FSOCの新しいガイダンスは、この使命に沿っており、国民の金融システムに対する消費者の信頼を強固にする。」

 

4―まとめ

4―まとめ

以上、ここまで、FSOCによるノンバンク金融会社のSIFI指定に関する最終ガイダンスの内容及びそれに対する関係者の反応を報告してきた。

保険セクターにおけるシステミックリスクの評価のあり方等については、グローバルなベースでも、IAISでその見直しが検討されてきたが、11月14日にIAISにより「保険セクターにおけるシステミックリスクのための包括的枠組み」が公表5され、2020年から実施されることとなった。また、FSB(金融安定評議会)は、同日に公表した文書6において、「FSBは、IAIS及び各国当局と協議の上、G-SIIs(Global Systemically Important Insurers:グローバルにシステム上重要な保険会社)の指定7を2020年初頭から一時停止(suspend)することを決定した。」とし、さらに、「FSBは、2022年11月に、当初数年間の包括的枠組みの実施状況に基づき、IAIS及び各国当局と協議の上、年次のFSBによるG-SIIsの特定を廃止(discontinue)すべきか、再開(re-establish)すべきかを再検討する。」と述べた。

今回のFSOCによる最終ガイダンスは、こうしたIAISでの検討の方向性とも平仄の合ったものとなっている。新しい解釈ガイダンスにより、特定の会社が提示するリスクを優先させるのではなくて、特定の事業活動がもたらすリスクや業界全体がどのようにリスクをもたらすのかという観点からのアプローチに焦点が当てられるようになる。また、特定の会社をSIFIに指定するためには、厳密な費用収益分析等やより効率的で効果的な指定プロセスを通じて、より高い信頼性、確実性、透明性を持って、FSOCが説明していくことが求められてくることになる。従って、そのハードルは相当に高くなったことから、実質的には殆ど想定されないものと考えられることになる。

FSOCによる今回の最終ガイダンスの発行により、米国におけるSIFI指定問題は一応の決着を見た形になっているが、今後ともシステミックリスクの規制を巡る動向については、引き続き注視していくこととしたい。
Xでシェアする Facebookでシェアする

中村 亮一

研究・専門分野

(2019年12月17日「保険・年金フォーカス」)

公式SNSアカウント

新着レポートを随時お届け!
日々の情報収集にぜひご活用ください。

週間アクセスランキング

レポート紹介

【FSOC(金融安定監督評議会)が新たなノンバンクSIFI指定最終ガイダンスを発行-ガイダンスの概要と関係者の反応-】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

FSOC(金融安定監督評議会)が新たなノンバンクSIFI指定最終ガイダンスを発行-ガイダンスの概要と関係者の反応-のレポート Topへ