2019年10月10日

低迷が続く長期金利の行方~今後の注目点と見通し

経済研究部 上席エコノミスト 上野 剛志

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2.日銀金融政策(9月):次回会合での点検を強調

(日銀)維持
日銀は9月18日~19日に開催された決定会合において金融政策を維持した(原田、片岡両審議委員は、引き続き、長短金利操作とフォワードガイダンスの方針に対して反対を表明した)。声明文では、景気の総括判断を「基調としては緩やかに拡大している」に据え置き、今後の回復シナリオも維持した。一方で、7月に追加した「モメンタムが損なわれる惧れが高まる場合には、躊躇なく、追加的な金融緩和措置を講じる」との文言を維持したうえで、「モメンタムが損なわれる惧れについて、より注意が必要な情勢になりつつある」と指摘。次回の会合で、「経済・物価動向を改めて点検していく考えである」との文言を追加した。
 
会合後の総裁記者会見では、上記文言があえて追加されたことを受けて、追加緩和に関する質問が相次いだ。黒田総裁は「前回会合時よりも金融緩和に前向きになっている」と述べる一方で、次回会合での追加緩和の可能性については、「海外経済の減速の動きが続いていて下振れリスクが高まりつつあるとみているので、金融緩和についても、次回の展望レポートをまとめる会合で、十分、経済・物価情勢をよく点検していく」との言及に留めた。結果的に「何もしない」可能性についても排除せず、追加緩和の有無に関する言質を取らせなかった。

追加緩和に踏み切る際の手法についても、「具体的に何をどうするかということは、そのときの金融政策決定会合において議論して、プラスの効果とマイナスの副作用等を十分勘案して、適切な緩和措置を行う」と明言を避けたが、「追加緩和を仮に議論する場合でも、現在の長短金利操作付き量的・質的金融緩和という全体の枠組みを変更する必要があるとは思っていない」と枠組み変更に否定的な見解を示し、従来から挙げている4つのオプション(短期政策金利の引き下げ、長期金利操作目標の引き下げ、資産買入れの拡大、マネタリーベースの拡大ペースの加速)とそれらの組み合わせや応用を選択肢として挙げた。

イールドカーブについては、「超長期の金利が下がり過ぎると年金とか生保の運用利回りが下がるのではないかということで消費者のマインドに影響があり得る」と指摘したうえで、「もう少し立った方が好ましい」と言及。「適切なイールドカーブになるように、国債買入れについて必要な調整は行っていく」との方針を示した。

また、低下が進んできた長期金利についても、「海外の金利が下がったときに、それを反映してわが国の金利も下がるということを全部止めなくてはならないというのも、国債市場の機能が十分発揮されている面もありますので、少し変」としつつ、「操作目標としてゼロ%程度と申し上げているわけですから、それを外れる状況をいつまでも容認するということはなく、(中略)、今後とも
必要に応じて修正していく」と述べた。
 
なお、その後24日に行われた記者会見において、黒田総裁は、「追加緩和策を仮にやるということになれば、当然、短中期の金利は更に下げる必要がある」と追加緩和の具体策について踏み込んだ説明をした。さらに、「超長期の金利は下げる必要がないどころか、むしろ上がってもおかしくないのかもしれないと、ただそのようにどうやってするのかという話ですが、そこは従来から申し上げている通り、国債の買入れプログラムを適切に修正していくことによって、超長期の金利が下がり過ぎることは回避できる」と、短中金利引き下げの際にも超長期金利の低下は抑制する方針を示した。
(今後の予想)
10月末決定会合での追加緩和の有無は、市場動向やその背景にある米中摩擦の動向次第となる。日銀の緩和余地は乏しいため、市場が比較的安定していれば、フォワードガイダンスの強化・延長4程度の措置に留めると予想する(メインシナリオ)。

一方、市場が緊迫化し、大幅な円高が進行している場合には、ある程度副作用が増大することを覚悟のうえで、マイナス金利深堀り(副作用緩和策とセットで)、ETF買入れ増額、国債買入増額(ただし、超長期ゾーンは金利低下抑制のために減額)などを組み合わせた本格的な追加緩和に踏み切ることになると見ている。
短期政策金利の見通し/長期金利誘導目標の見通し
 
4 「当分の間、少なくとも2020 年春頃まで、現在のきわめて低い長短金利の水準を維持することを想定」としている金利に関するフォワードガイダンスについて、期間を延長したり、「現行またはそれ以下の水準に維持する」との文言に変更したりすることが考えられる。
 

3.金融市場(9月)の振り返りと予測表

3.金融市場(9月)の振り返りと予測表

(10年国債利回り)
9月の動き 月初-0.2%台後半でスタートし、月末は-0.2%台前半に。
月初、米中摩擦を背景とする世界経済減速懸念などから、4日に一時過去最低の-0.30%に肉薄したが、米中摩擦や香港・ブレグジット情勢の緊張緩和を受けて、6日に-0.2%台半ば、10日には同前半へと上昇。さらに、16日には米中協議進展期待に加え、ECB追加緩和後に緩和の限界が意識されたことから-0.1%台後半へと急上昇した。一方、その後19日には、日銀政策決定会合後の声明文を受けてマイナス金利深堀り観測が強まり、-0.2%台に再び低下。さらに欧州経済指標悪化を受けた24日には-0.2%台半ばに低下した。月末には日銀の国債買入れ減額方針公表への警戒からやや上昇し、-0.2%台前半で終了した。
日米長期金利の推移(直近1年間)/日本国債イールドカーブの変化/日経平均株価の推移(直近1年間)/主要国株価の騰落率(9月)
(ドル円レート)
9月の動き 月初106円台前半でスタートし、月末は107円台後半に。
月初、106円台前半で推移した後、米中摩擦や香港・ブレグジット情勢の緊張緩和を受けてリスクオンの円売りが進み、6日には107円台に。トランプ米大統領が中国に対する追加関税発動を延期したことなどからさらにリスクオンの円売りが入ったことで、12日には108円台を回復した。その後は日米の金融政策決定会合を無難に通過し、概ね108円台前半での推移がしばらく続いたが、トランプ大統領発言などから米中協議への期待が後退し、24日には107円台に下落。月末にかけて、107円台後半を中心とする推移が続いた。
ドル円レートの推移(直近1年間)/ユーロドルレートの推移(直近1年間)
(ユーロドルレート)
9月の動き 月初1.09ドル台後半でスタートし、月末は1.09ドル台前半に。
月初、予想を上回るユーロ圏の経済指標を受けて、4日に1.10ドル台へ上昇し、しばらく1.10ドル台での推移が継続。12日にはECBによる追加緩和を受けて一時1.09ドル台へと下落したものの、緩和の限界が意識されたことで上昇に転じ、13日には1.11ドル付近へ。一方、サウジアラビアの石油施設が攻撃されたことでリスクオフのドル買いが入り、16日には1.10ドル台前半に下落。月の終盤は、ユーロ圏の経済指標悪化に伴ってユーロが弱含み、1.09ドル台での推移となった。月末も1.09ドル台前半で終了した。
金利・為替予測表(2019年10月9日現在)
 
 

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経済研究部   上席エコノミスト

上野 剛志 (うえの つよし)

研究・専門分野
金融・為替、日本経済

(2019年10月10日「Weekly エコノミスト・レター」)

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