2019年09月17日

ドイツの生命保険監督を巡る動向(2)-BaFinの2018年Annual Reportより(統合監督)-

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9リスクモデリング
9.1内部モデルの対象を絞ったレビュー
欧州の単一監督メカニズム(SSM)の一環として、「内部モデルの対象を絞ったレビュー(TRIM)」というタイトルのプロジェクトが2015年に開始された。このプロジェクトでは、国家管轄当局とECBのモデル専門家が、 SSMの同様のエクスポージャーには、同じ資本要件が適用されることを確実にするために取り組んでいる。TRIMのもう1つの目的は、SSMモデルの監督を標準化及び強化することである。その意図は、金融危機によって揺るがされた内部モデルアプローチの使用に対する信頼を回復することである。

重要な結果
TRIMは、2018年に全ての分野で重要な成果を達成した。例えば、標準化された監督上の期待がモデルを使用して銀行に策定され、監督当局の監査人によって採用されるモデルレビューのアプローチが調和された。

プロジェクト中に開発された監督者の期待は、銀行との協議プロセスの一環として「内部モデルへのECBガイド」のドラフトで公開されている。一般的なモデルトピックの章に関する協議が完了した。この章の改訂版は、SSMの監査役会と理事会によって既に採用され、公開されている。

TRIMプロジェクトの一環としてのレビュー
TRIMプロジェクトに基づくモデルレビューは、モデルタイプ毎に段階的に実施される。このプロセスは2017年と2018年に開始され、住宅ローンや消費者ローンなどのデフォルト率の高いポートフォリオにおける市場及びカウンターパーティリスクと信用リスクのモデルが導入された。これに続いて2018年に、銀行への融資など、デフォルト率の低いポートフォリオの信用リスクのモデルレビューが行われた。これらのレビューは2019年も継続される。TRIMプロジェクトの一環として、合計200件のレビューが計画されている。2018年末までに、60%以上が完了した。

プロジェクトの作業は2019年も継続される。さらに、国家管轄当局のモデル専門家とTRIMプロジェクトで設立されたECBとの間の協力を継続及び強化するための条件が作成される。

9.2内部モデルに関するEIOPA比較研究
EIOPAは各国の管轄当局とともに、内部モデルの監督の一貫性と収束性を高めるために比較研究を組織している。

市場と信用リスクの比較研究
2018年の内部モデルに関する2番目の比較研究(市場と信用リスクの比較研究-MCRCS)は、投資の市場と信用リスクを対象としている。主に欧州8カ国の保険グループからなる合計19の会社が2017年12月31日時点で調査に参加し、これにより監督当局によって承認された関連モデルのほぼ完全なカバー率を達成した。この研究では、ドイツで承認された全ての関連モデルが代表された。

これらの研究は、ポートフォリオに適切に組み合わされた合成金融商品を使用して、モデルキャリブレーションの体系的な分析を行うことを主な目的として、定期的に実施される。単純化した形式では、これらは欧州の保険市場全体及び個々の国内市場の投資の構造を表している。この調査は、特定の投資と特定のビジネスモデルの特定の機能からの意図的な抽象化に基づいている。ただし、結果が解釈されるときに個々のリスクプロファイルが考慮され、これがBaFinの内部モデルの継続的な監督に組み込まれる。EIOPAは、2019年3月18日に、研究の実施方法の概要とその結果を発表した。

損害保険引受リスク比較研究
2018年に実施された別の比較研究では、損害保険の引受リスクカテゴリのモデル結果を分析した(損害保険引受リスク比較研究-NLCS)。この種の最初の研究であるため、パイロットと見なすことができる。参加者は、14カ国からの35の保険会社で構成されている。

調査の範囲では、カタストロフィリスクを除外し、4つのセグメントの分析に焦点を当てている:自動車第三者賠償責任、その他の自動車(ドイツではこれは通常、衝突損害保険)、火災及びその他の財産損害及び一般的な第三者賠償責任。プロジェクトグループは、2016年12月31日及び2017年12月31日時点でデータの提出を要求した。このプロセスでは、セグメント間の違いを説明できる背景情報を含めることに特に重点を置いた。NLCSは、保険商品、ポートフォリオミックス(リテール、商業、インダストリアルの顧客など)、又は責任限度など、場合によっては大幅に異なるセグメントのモデル結果を比較するという点で、MCRCSと構造が異なる。実質的な情報価値を犠牲にすることなく、MCRCSの研究と同じ方法で特定のポートフォリオから抽象化することはできない。プロジェクトグループは、2019年半ばまでに調査を完了する。参加者のグループを拡大した将来版も、既に進行中である。

両方の研究は、2018年にEIOPAが最初に公開した「EIOPA監督収束計画」の文脈で理解されるべきである。内部モデルはこの計画の優先分野の1つである。BaFinはこの作業を積極的に支援する。

|持続可能性(Sustainability
持続可能性について、BaFinは、2017年のAnnual Reportでは「環境及び気候のリスク(Environmental and climate risks)」というタイトルで報告していた。

BaFinは、情報、リスク管理及び規制のコアトピックに焦点を当て、これらの問題を扱う初期のサステナビリティプログラムを2018年3月に決定した。さらにBaFinは、持続可能性の問題に対処する内部のクロスディレクターネットワークも確立した。

BaFinは、欧州委員会での分類法、開示要件、持続可能性のベンチマーク及び保険流通指令(IDD)及びMiFID IIに基づく流通活動へのESG選好の組み込みに焦点を当てた多数の立法案について、通常肯定的な見方をしており、比例、分類の詳細レベル、既存の規制との整合性など、詳細には改善の余地があると考えられるものの、特に分類と開示要件を歓迎している、と述べている。

BaFinはまた、2018年にソルベンシーIIの下での定量的問題に関するEIOPA意見の作成に協力している。2019年に完了する予定の意見は、特に、持続可能な投資及び保険会社の引受方針に対する既存のインセンティブ又はおそらく見当違いのインセンティブを詳しく調べることを意図している。

さらに、BaFinは、2019年5月9日に「持続可能な金融」に関する会議を開催し、高い地位にいる政治家、科学界の代表者、金融業界を招待する、と述べていた。

10持続可能性
主要な気候、環境、そして社会の変化は、金融会社又は金融市場全体にとって重大なリスクを伴う可能性がある。BaFinは、情報、リスク管理及び規制のコアトピックに焦点を当て、これらの問題を扱う初期のサステナビリティプログラムを2018年3月に決定した。BaFinは、持続可能性の問題に対処する内部のクロスディレクターネットワークも確立した。

2018年5月に、欧州委員会は、主に分類法、開示要件、持続可能性のベンチマーク、及び保険流通指令(IDD)及びMiFID IIに基づく流通活動へのESG選好の組み込みに焦点を当てた多数の立法案を発表した。BaFinは通常、これらの提案に対して肯定的な見方をしている。比例、分類の詳細レベル、既存の規制との整合性など、詳細には改善の余地があると考えられていたにもかかわらず、特に分類と開示要件を歓迎した。

さらに、BaFinは、EIOPAとESMAが2019年4月までに対応を必要とした欧州委員会の任務を遂行するのを支援した。それは、持続可能性リスクを保険会社と投資会社の事業組織、事業運営、リスク管理にどのように組み込むべきかという問題を含んでいる。MiFID IIに従ってターゲット市場を決定する際には、持続可能性の要因も考慮する必要がある。

BaFinはまた、2018年にソルベンシーIIの下での定量的問題に関するEIOPA意見の作成に協力した。2019年に完了する予定の意見は、特に、持続可能な投資及び保険会社の引受方針に対する既存のインセンティブ又はおそらく見当違いのインセンティブを詳しく調べることを意図している。

Network for Greening the Financial System(NGFS)(気候変動に関する金融リスクを検討するための中央銀行・金融当局ネットワーク)の一環として、BaFinは気候リスクと気候変動とエネルギーシステムの変化がマクロ経済と金融の安定性に与える影響に関連するミクロプルーデンスな問題を扱っている。

2019年5月9日にBaFinは、「持続可能な金融」に関する会議を開催し、高い地位にいる政治家、科学界の代表者、金融業界を招待する。イベントに付随して、BaFinPerspectives出版シリーズの新号が、BaFinの内部及び外部の著者による持続可能性に関する記事を特集し、www.bafin.deで公開される。

|財務会計及び報告(Financial accounting and reporting
6-1.IFRS 9
2018年、欧州銀行協会(EBA)は、新しい財務報告基準IFRS第9号の影響について信用機関を調査し、2018年12月20日にリリースされたレポートで結果を公開した。これによると、IFRS第9号適用後のCET1(Common Equity Tier1 capital)比率の変化は、平均51bps減少し、金融機関の引当金の平均増加率は9%だった。

6-2.IFRS 17
IFRS 第17号は、国際会計基準審議会(IASB)が2017年5月に基準を公開して以来、論議を呼んでいる議論のトピックである、と述べている。

11財務会計及び報告
IFRS9
2018年、欧州銀行協会(EBA)は、新しい財務報告基準IFRS第9号の影響について信用機関を調査し、2018年12月20日にリリースされたレポートで結果を公開した。EBAは以前に2017年と2016年にIFRS第9号の影響評価を実施したが、それらは推定に基づいていた。

2018年1月1日にIFRS 第9号が発効して以後初めて、分析は監督報告システムの実際のデータに基づいていた。データの分析により、2017年の2回目の影響評価で機関が提供した推定値が広く確認された。IFRS第9号の適用後のCET1比率の変化は、平均51bps減少し、金融機関の引当金の平均増加率は9%(前年:▲42bps、+ 13%)だった。EBAは、新しい基準の適用とその監督上の重要数値への影響について、引き続き分析と報告を計画している。BaFinは、関連するEBAワーキンググループの一部として、これらの追跡調査に関与している。

IFRS 第17号
IFRS 第17号は、国際会計基準審議会(IASB)が2017年5月に基準を公開して以来、論議を呼んでいる議論のトピックである。

IASBは、トレーニングと情報資料を提供し、移行リソースグループを設立することにより、実装の承認を獲得し、その実装に対する信頼を確立しようとしている。このグローバルグループのメンバーには、保険会社と監査会社の代表者及び証券監督者国際機構(IOSCO)、保険監督者国際機構(IAIS)、国際アクチュアリー会(IAA)からのオブザーバーが含まれている。

議論を開始するまでに、IASBは、保険会社が基準を実装しやすくし、投資家やその他の利害関係者とのコミュニケーションを容易にするために、基準に実質的及び技術的な変更を加えるよう促した。IASBは、特定の修正に関する情報を含む文書を2019年半ばに公開する予定である。

さらに、IASBは、IFRS第17号の最初の適用日を2021年1月1日から2022年1月1日に延期することを決定した。これは、また認識と測定における不整合及び矛盾を防ぎ、年次財務諸表において現実にできるだけ近い形で表示が行われるようにするために、IFRS 第9号の最初の適用日を延期することを意味している。

 

3―まとめ

3―まとめ

以上、今回は、BaFinの2018年のAnnual Reportの「統合監督(Integrated supervision)」の章に記載されている項目のうち、「1.英国のEU離脱(Brexit)」、「6.デジタル化(Digitalisation)」、「8.国際監督(International supervision)」、「9.リスクモデリング(Risk modelling)」、「10.持続可能性(Sustainability)」及び「11.財務会計及び報告(Financial accounting and Reporting)」の6つの項目における生命保険監督が関係してくる記述内容について報告した。

次回のレポートでは、第5章「保険会社及び年金基金の監督」の章のうちの「1.監督の基盤」の中から、保険会社の資本規制等の財務監督に関係する項目を中心に報告する。
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中村 亮一

研究・専門分野

(2019年09月17日「保険・年金フォーカス」)

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