2019年07月12日

EUと米国の間の再保険規制を巡る動きについて-NAICが再保険クレジットモデル法の改正を承認-

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4―今回のNAICの承認に向けての動きとその結果

1|NAICの再保険モデル改正案の概要
改正案の主な内容8は、概ね以下の通りである。

・新たに、相互管轄区域(Reciprocal Jurisdiction:RJ)という区分を設け、RJに所在しかつ一定の要件(最低資本・ソルベンシー要件、報告要件、再保険金の迅速な支払いの励行等)を満たす再保険者(assuming reinsurer)への出再にcredit(出再効果)を認める(つまり、再保険担保撤廃を認める)。

・(1)米国と条約又は国際合意(カバード・アグリーメント等を想定)を結んだ非米国管轄区域及び(2)一定の追加要件(米国の再保険者に対し担保要件、拠点設置要件を設けないこと、米国本拠の保険グループはQJのグループ監督には服さないこと等)を満たしたQJがRJに該当する。
 
8 日本損害保険協会による資料「EU・米国カバード・アグリーメント締結を受けた 全米保険長官会議(NAIC)による再保険担保の撤廃に向けた検討について」に基づいている。
http://www.sonpo.or.jp/efforts/international/regulations/usa/pdf/qj/2018_0206.pdf
|これまでの議論のポイントと今回の結論に至るまで
今回のモデル法改正の過程で議論になっていたポイントについては、前回のレポートで報告した通りである。

今回の改正では、1) カバード・アグリーメントに含まれる再保険担保債務の違反の種類、2) 再保険担保に関する法律をどのように解釈するかについて州保険監督者に与えられる裁量権、について焦点が当てられていた。なかでも、カバード・アグリーメントの実施における一貫性の確保という観点から、「州保険コミッショナーの裁量」問題への対応が問題になっていた。

また、米国に所在する再保険会社を含むEU及び非EUの再保険会社に対する同等性の取扱いの確保が懸念されていた。

(1) 2018年6月11日のモデル法案に対する反応
NAICの2018年6月11日のモデル法案の下では、各EU加盟国の合意への遵守を決定する上で、州コミッショナーに裁量が与えられていた。また、再保険会社は、自らが事業展開しようとする各州への同意の確認書を提出するよう義務付けられていた。

とりわけ特定の管轄区域を相互の管轄区域とみなすための要件を決定する際に、改定されたモデルの実施における個々の州の保険コミッショナーの裁量を許可するかどうかとその範囲が焦点となっていた。モデル法とモデル規則の実施において個々の州の保険コミッショナーの裁量権を与えることは、州に基づく保険規則制度が所与のものとした場合には慣習的である。ただし、カバード・アグリーメントの履行及びより広範な市場における再保険活動の規制において、より厳格な整合性に対する強い要望が挙げられていた。

(2) 2018年11月9日のモデル法案に対する反応
2018年11月9日の改正案に対しては、NAICの推奨改訂のリストとして、以下の項目が挙げられた9

相互管轄権の承認:EUの管轄権を相互管轄権として認識すべきかどうかについての判断を下すために、州の保険コミッショナーの裁量に関して追加の改訂が必要かどうか。
二国間協定の遵守の決定:各EU加盟国が二国間協定を遵守しているかどうかを判断するために、州の保険コミッショナーの裁量に関して追加の改訂が必要かどうか。
追加要件を課すコミッショナーの裁量:EUの再保険会社に課されている追加要件に関して追加の修正が必要かどうか。
発効日:どの再保険協定と契約が対象となるかについてのモデル改正における発効日規定に関して追加の改訂が必要かどうか。
プロセスのサービス:再保険会社が事業を行う予定の各州に、プロセスのサービスへの同意の確認を提出することを要求することに関して、追加の改訂が必要かどうか。
その他の問題:モデル草案を二国間協定により一致させるために追加の技術的改訂が必要かどうか。

NAICは、財務状況委員会と再保険タスクフォースに対して、上記の問題を解決し、5月上旬までに採択を最終決定することを目的として、4月のNAIC春季大会での完全な議論を見込んで、3月中旬までに再保険モデルの新しい草案を発表するように求めていた。

これを受けて、再度、モデル法及びモデル規制の改正案(修正案)が公表(2019 年3月7日)され、市中協議に付されていた(2019年4月1日締切)。
(3) 2019年3月7日のモデル法案に対する反応を受けての対応
これに対して、NAICは4月の春季大会で最終案の同意を得ることができず、3月7日に寄せられたコメントを反映するために、ドラフトに対してもう1セットの改訂を行うことを目指すこととなった。

最終的な修正は、カバード・アグリーメントへのモデル法の適合性に関して欧州委員会及び米国財務省が提起した懸念の殆どに対処しようとした。

例えば、この新しい修正案は、EU管轄が相互管轄として認識されるべきかどうかについての決定を下すためのコミッショナーの裁量を排除している。

また、各EU加盟国がカバード・アグリーメントを遵守しているかどうかを判断するためのコミッショナーの裁量及びEUの再保険会社に追加の要件を課すための裁量も排除された。

こうした動きを経て、6月の総会でモデル法が最終的に承認された。
3|今回のモデル法の改正の効果及びカバード・アグリーメントによる影響
そもそも、カバード・アグリーメントの締結により、EUは約400億ドルの再保険担保を撤廃することができることになる。一方で、米国財務省は、これにより、EUで事業展開する米国の(再)保険会社に規制上の透明性を提供し、米国の保険会社や保険契約者のコストを低減させることになると述べている。具体的には、米国の再保険会社は、米国の親会社がグループレベルのガバナンス、ソルベンシー資本及びソルベンシーIIの報告要件の対象となることなく、EU内で業務を行うことができることになる。ただし、米国の保険会社にとっては、具体的な数値で示されるメリットはない。

今回の改正により、モデルは、再保険担保要件に関するEUとのカバード・アグリーメントの条項と一致するようになる。また、EU以外のNAIC認定管轄区域(QJ)(バミューダ、日本及びスイス)に属する再保険会社に、同様の再保険担保削減の可能性が与えられることになる。
4|英国との再保険取引
2018年10月に、NAICはBrexit(英国のEU離脱)に備えて、米国と英国が別のカバード・アグリーメントを締結する協議に入ったことを発表した。さらに、2018年12月12日には、米国財務省、米国通商代表部(USTR)及び英国財務省は、2国間の(再)保険取引を締結したと発表した(その後90日間の待ち期間(Lay-over period)を経て、正式に署名されることになる)。なお、このカバード・アグリーメントは、米国とEUの間のカバード・アグリーメントと同じ3つの分野、即ち、再保険、グループ監督及び監督者間の情報交換に対応している。
5|各州に求められる今後の対応
今後、各州は、EUとのカバード・アグリーメントの調印(即ち2017年9月22日)後5年以内にカバード・アグリーメントの規定を遵守するように、今回のモデル法に従って、州法の改正等を行う必要がある。もし、EUの再保険会社に依然として担保を課す州法があれば、連邦保険局(FIO)はこれに対して42ヶ月以内に優先権を使用する権限を有している。即ち、米国財務省は議会に要請して、州の規制に優先する法律を可決する権限が与えられており、これが通過すれば、米国の保険法が州の管理外に置かれることになる。

NAIC会長兼メイン州保険コミッショナーのEric A. Cioppa氏は、「今回の変更は、外国で事業展開している米国の保険会社のいかなる異なる取扱いも解決するという米国保険監督当局のコミットメントを強調している。」、「私は同僚に州議会と協力してこれらの最新の改正を迅速に通過させるように推奨する。」と述べた。

通常、モデル法を反映する州法の改正は3年程度かかることもあることから、優先権の行使を回避するための2022年9月の締切りが迫っている状況の中での今回のNAICによる承認であった。
 

5―まとめ

5―まとめ

以上、今回のレポートでは、前回のレポート以降のNAICを中心とした再保険規制に関する検討の状況について報告してきた。

今回のモデル法のNAICによる承認を受けて、今後は、各州保険監督当局の対応等が注目されていくことになる。

さらには、今回のレポートでも、前回のレポートと同様に、再保険規制の見直しに関する動きについてのみ述べてきたが、カバード・アグリーメントは米国におけるグループ資本規制の策定についても触れている。これについても現在NAICにおいて検討が進められているところである。

これらの動向についても、引き続き注視し、必要に応じて報告を行っていくこととしたい。
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中村 亮一

研究・専門分野

(2019年07月12日「保険・年金フォーカス」)

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