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欧州大手保険グループの生命保険事業の収益構造について-2018年決算数値等に基づく結果報告-
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3―まとめ
生命保険会社の財務諸表上の営業利益等の収益構造を示す開示情報に関しては、日本においても、経常利益のうちの基礎利益やその内訳としての利源別の収益状況等が開示される等、過去から開示情報の充実に向けた取り組みが行われてきている。その結果として、少なくともこれらの概念については幅広く普及し、投資家向けの情報として定着してきている。ただし、せっかく開示されている情報ではあるが、投資家等の財務情報の利用者の観点からは、あくまでも参考情報に留まっており、それらを活用してのさらなる分析等が行われるようなものとはなっていないというのが現状のように思われる。
その意味で、欧州の大手保険グループにおいて、どのような形で営業利益等の収益構造の開示が行われているのか、それらがどの程度有用なものになっているのかについては、日本における有益な情報開示のさらなる充実を検討する上で一つの参考になるのではないか、ということで今回の報告を行っている。
併せて、昨今の低金利環境下での各社の保証利率と資産運用利回りとの関係やデュレーション・マッチングに関する情報開示を通じて、投資関係の損益やリスクを巡る状況に関してどのような情報が提供されているのかを報告することとした。
各社のグループ全体の収益構造については、各社の地域別の事業展開や商品戦略等に差異があることから、単純な比較はできない。特に、今回見てきたように、各社の情報開示が地域別又は商品タイプ別のいずれかの情報開示に留まっている場合には、一定程度各地域の数値がそれぞれの市場における主要な商品特性の状況を反映する形になっていたとしても、分析に必要な十分な情報開示が行われているとはいえない状況にある。
そもそも、今回報告対象としている欧州の大手保険グループの主たる保険監督当局等は異なる国であることから、財務諸表等における収益構造に関する情報に関して提供されている数値の算出方法、開示内容、開示様式等についても、統一されたものがあるわけではない。そのため、基本的には各社各様の方式での開示が行われているため、十分な会社間比較が行えるものとはなっていない。
ただし、上記の図表からもわかるように、グループ全体の数値だけをみても、一定程度の特徴を認識することは可能であり、これをさらにこれらの保険グループが事業展開を行っている地域・国毎に絞ってみれば、それなりに比較可能な参考情報が提供された形になっているものと思われる。
例えば、各社とも、「付加保険料&手数料」が大きなウェイトを占めており、これに「投資マージン」が続いている。ただし、次のページのAllianzの「営業利益の内訳項目の説明」にあるように、「投資マージン」は予定利息等が控除された数値であるのに対して、「付加保険料&手数料」はあくまでも収入だけを見た場合の数値であって、新契約費等の費用が控除された数値ではない(従って、日本の費差益とは異なるもの)であることには注意が必要である。
また、日本の生命保険会社において大きな収益源となっている保険引受マージン等の「技術マージン」については、欧州の大手保険グループにおいても、その位置付けが見直されて、ウェイトを上げてきているものと想定されるが、現時点では地域展開等の状況の差異を反映して、例えばアジアのウェイトが高いPrudentialではグループ全体の収入の26%(Prudential のアジアにおいてはこの比率は35%)と高い水準となっているが、AXAやAllianzでは1割程度に留まっている。
営業利益の内訳項目について、例えば、Allianzは以下のように説明している。
・「投資マージン」は、費用を控除したIFRS投資収入から、IFRS準備金に対する利息及び保険契約者の配当(主にドイツの生命保険事業に関する契約上及び規制上の要件を超える保険契約者の配当を含む)を控除したもの、として定義される。
・「付加保険料&手数料」には、保険料及び準備金ベースの手数料、ユニットリンク管理手数料、及び保険契約者の費差配当が含まれる。
・「技術マージン」は、リスク結果(危険保険料から準備金を超える給付を差し引いた金額から保険契約者への配当を差し引いたもの)、解約結果(解約手数料及び手数料の払戻し)及び再保険の結果から構成される。
・「費用」は、管理経費及びその他の経費だけでなく、新契約費及び手数料(技術マージンに配分される手数料の払戻しを除く)が含まれる。
さらに、今回のレポートでは示していないが、これらの数値の過去からの推移を見れば、収益構造におけるトレンドを一定程度窺い知ることもできることになるものと思われる。
ただし、各社の毎年の開示数値は適宜見直しが行われてきていることから、継続的な時系列比較が困難な場合も多いことも認識しておく必要がある。
実際に、AXA、Allianz及びGeneraliのここ数年の推移を見ると、以下及び次ページの図表の通りとなっている。これによれば、会計方針の変更等の影響を受けて、結構過去の数値の遡及的な変更も行われてきていることがわかる。
また、あくまでも、基礎利益や営業利益と費用の合計としての収入に対する構成比という簡便な方式による推移等を見ているので、必ずしも適切な状況を表せていないのかもしれないことには注意が必要である。
これまで、各社間比較や時系列比較の結果やその課題等にも触れてきたが、基本的には、これらの開示情報及びこれらに関連したさらなる詳細な内部管理のための数値等は、各社がグループ内での、地域間や商品間の収益性等の比較を通じて、戦略的な経営判断を行っていくための基礎数値としてワークしている形になっており、その意味で有益な情報を与えているものと思われる。
この点は、前回の基礎研レポートで報告した各社の新契約の収益性評価等のための開示情報と同様であり、同じことが既契約を含めた保有契約から得られる財務諸表上の収益構造や収益性の分析・評価のための開示情報についてもいえることになる。
「2|欧州大手各社の収益構造の比較」において、欧州大手保険グループの営業利益等の収益構造に関する情報開示の状況をみてきたが、これだけを見ると、日本に比べて特段に進んでいるわけでもないように思われるかもしれない。ただし、会社によっては(日本のディスクロージャー資料においては一般的でない)利益の源泉となる項目の内訳や商品タイプ別の情報等の開示も行われ、さらには各項目の前年との差異等についての説明も紙面を割いて行われている。
なお、「2|欧州大手各社の収益構造の比較」で提示されている数値は、あくまでも現在の法定や財務会計ベースの数値に基づいたものである。その意味で、生命保険会社の収益構造あるいは収益性の評価を行う上では、これだけでは十分なものとはなっていない。すなわち、現在の法定や財務会計ベースの数値は、基本的には過去法ベースのものなので、将来の収益状況を評価するための情報を必ずしも提供しているわけではない。その意味では、生命保険契約の収益モデルやその長期性を考慮した場合、何らかの形で、現在の保有契約から期待される将来収益の評価等も反映した開示情報が求められることになる。
欧州の大手保険グループは、前回及び前々回のレポートで報告したように、新契約価値や保有契約価値等について、EV(Embedded Value)に関する報告書等(「Embedded Value Report」、「Own Funds Report」等、こうした情報を含む報告書の名称も各社各様)で開示を行ってきているので、これらも併せてみていく必要があることになる。もちろん、日本の生命保険会社においても同様な開示を行っている会社もある。
これに関連しては、EV等の会社価値判断指標、欧州のソルベンシーIIやIAIS(保険監督者国際機構)によるICS(保険資本基準)等の資本基準、さらにはIFRS(国際財務報告基準)第17号(保険契約)等の会計基準において、それぞれの考え方に基づく経済価値ベースの指標等が開発されてきているが、欧州の大手保険グループの中には、これらの考え方に基づいた収益構造の分析等を開示している会社もある。
生命保険会社の収益性を評価するためには、本来的にはこうした経済価値ベースのアプローチに基づいた情報を含めて判断していくことが求められることになる。ただし、これらの指標等も、その作成のための負荷等に比べて、一般の投資家等による利用が必ずしも十分に行われていないのではないか、との意見も見受けられる。
いずれにしても、こうした各種の機関における検討状況やこれらの情報開示に伴う各種の課題等も踏まえながら、今後日本における生命保険会社の収益構造や収益性を評価するためのより良い情報開示や指標等がさらに開発されていくことが期待されることになる。
ただし、ここで敢えて述べておきたいのは、欧州大手保険グループの開示状況をみても理解できるように、生命保険会社の収益構造や収益性を評価するための簡便で単一の開示情報や指標等は存在しないと思われることである。結局のところは、投資家等は、複数の指標等に基づいて、幅広い観点から判断していかざるをえないと思われる。それでもそうした判断を行うための材料をできる限り理解されやすい形で提供していくことが、生命保険会社に求められているといえるだろう。
欧州の大手保険グループの有益で適切な情報開示の充実に向けた取組みについては、日本の生命保険会社にとっても参考になるものが多いと思われることから、今後とも、その動向については引き続き注視していくこととしたい。
(2019年06月10日「基礎研レポート」)
中村 亮一のレポート
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