2019年06月05日

策定から2年が過ぎた地域医療構想の現状を考える(下)-都道府県の情報開示・情報共有を中心に

保険研究部 上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任 三原 岳

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図3:地域医療構想の調整で用いられている資料の開示状況 2|公開度合いの検証の結果(1)~調整会議に提出された資料~
まず、調整会議に提出された資料の公開度合いをチェックすると、図3の通り、2018年度で63.9%の218区域、2017年度で209区域の61.3%であり、3~4割程度の構想区域で資料が公開・共有されていないことになる。さらに、70.2%(33都道府県)だった策定プロセス時点と比べると、「資料あり」の比率は少し悪化していた。

では、これらの結果をどう考えるべきだろうか。全体として6割程度の情報が開示されており、一見すると前向きのように映る。

しかし、2017年度の資料についてはリンク切れで入手できない構想区域が散見され、資料を開示・共有しようという意識を欠くケースが見られた。これはウエブサイトの更新による影響と推察され、2017年度の「資料あり」の数字が2018年度よりも3ポイントほど低いのは、このためである。

さらに策定プロセスの時点よりも「資料あり」の数字が悪化している点を加味すると、調整会議に提出した資料について、都道府県の情報開示・情報共有のスタンスは積極的だったとは言えない。
3|公開度合いの検証の結果(2)~調整会議の議事録公開~
続いて調整会議の議事録についての公開度合いを見る。最初に、議事録の「あり」「なし」をチェックし、その上で「議事録が全文(やり取りが分かる詳しい概要を含む)または一部か」「議事録は実名または匿名か」を検証した。

その結果は表2の通りであり、「議事録あり」は2018年度で221区域の64.8%、2017年度で211区域の61.9%だった。つまり、6割近くの地域で議事録が公開されており、これを策定プロセスと比較すると、開示していたのは63.8%(30都道府県)だったので、ほとんど変わらなかったことになる。
表2:地域医療構想の調整に関する議事録の開示状況
次に、開示されている議事録の内容である。議事録の有無に関する検証に際しては、1~3行程度で結果を短く紹介しているケースについても「議事録あり」にカウントしたため、開示されている情報の「質」を把握するのが目的である。

具体的には、開示されている議事録について、「全文(やり取りが分かる詳しい概要を含む)か一部か」をチェックすると、2018年度で46.3%の158区域、2017年度で42.2%の144区域が「全文(やり取りが分かる詳しい概要を含む)」だった。さらに、これを策定プロセスと比べると、34.0%(16都道府県)だったので、やや改善したことになる。実際、策定プロセスでは積極的に情報を開示・共有していなかったいくつかの県が調整プロセスに際して議事録を全文か、やり取りが分かる程度まで詳しく開示するようになっており、改善の形跡が見受けられた。

しかし、「実名か匿名か」という点で見ると、実名は2018年度、2017年度ともに4分の1程度の区域にとどまっており、策定プロセスの時点とほとんど変わらなかった。
4|神奈川県、熊本県の好事例
情報開示・情報共有に積極的だったケースとしては、神奈川県と熊本県を挙げることができる。両県は地域医療構想の策定、調整プロセスについて、議論に用いた資料だけでなく、議事録を全文、実名で公開しており、殆ど全ての情報を入手できる。さらに、情報を欲している人にとっての使い勝手を意識しており、構想区域ごとに調整会議の資料、議事録を統一的、総覧的にチェックできるポータルサイトを作っている。
5積極的とは言えない都道府県のスタンス
しかし、こうした模範的な事例は極めて少数派であり、資料・議事録の開示に関する都道府県のスタンスは積極的だったとは言えない。

留意すべきなのは図3や表2で示した数字の限界である。検証の過程では「2017年度の第1回調整会議の資料、議事録は公開されているけど、第2回は非開示」「2018年度の第2回は詳細に議事録を公開しているが、第1回は概要だけ」「ウエブサイトでは第2回の資料、議事録が出ているのに、第1回が開催された形跡が見受けられない」といった事例が数多く見られ、定量化に際しては「同じ年度で1回でも資料、議事録が公開されていれば、『あり』にカウントする」「1~3行程度だけでも開催結果を開示している場合、『議事録あり』で計算する」といった形で、一定程度の基準を設けざるを得なかった。

このため、「6割の都道府県が資料、議事録を開示しており、都道府県が情報開示・情報共有に前向きだった」と一概に言い切れない面がある。以下、定量的な分析では把握し切れない不十分な事例を幾つか明らかにしていく。
 

4――不十分な情報開示・情報共有の事例

4――不十分な情報開示・情報共有の事例

1ウエブサイトから探しにくい議事録の事例
本題に入る前に、ある構想区域の議事録で見掛けた以下の発言をご覧頂きたい。公表されている議事録が匿名なので、発言者の名前は判然としないが、外部委員として調整会議に名を連ねる民間医療機関の関係者による発言と思われる。
 
住民にどのように提示すればよいかをお考えいただきたい。ここでは各病院のベッド数の削減を協議しているが、国の示された数字にわれわれがどう合わせていくかという議論でしかない。現場で誰が説明するのか。我々が「国の方針ですから」と言ったところで、住民からは「えっ」という反応しか返ってこない。

実際の発言よりも少し短くしているが、病床削減に対する住民の反対が起きる可能性を示している点で、非常に重要な指摘である。だからこそ情報開示・情報共有が重要になると言える。

しかし、この議事録を当の住民が目にする機会は少ないと思われる。調整会議の資料、議事録を開示している県のウエブサイトから入ろうとすると、議事録のリンク先は切れており、この議事録を探し当てるまでにはウエブサイト内の検索欄で「●●区域 地域医療構想調整会議 ××年度」と複数回、入力しなければならなかった。こうした手間暇(機会費用)を支払う住民は恐らく皆無であり、「情報が開示/共有されている」とは言えないだろう。

実は、こうした事例には枚挙に暇がない。例えば、「地域医療構想に基づくあるべき医療提供体制の構築は、県民の協力がなければ実現できません」と地域医療構想で書いていた某県のウエブサイトでは「事務局から資料に基づき説明がなされ、審議が行われた」と報告しているだけであり、審議の詳細や資料が公開されていない。実際、地域医療構想の策定から2年が過ぎたのに、調整会議に関する議事録や資料をウエブサイトで過去、全く開示していない県が4つも存在する。
21~3行しか結果を公表していない「議事録」の事例
議事録についても、開示・共有されている情報の「質」に問題がある。先の検証で述べた通り、6割程度の構想区域で議事録が開示されていたが、やり取りが分かる程度まで情報を出しているケースは4割程度にとどまり、その差の2割は「行政が説明した事実だけを1~3行だけ紹介し、その間のやり取りは開示していない」「文脈や流れを整理しないまま、調整会議で出た意見を列挙している」といったケースになる。

これらは集計の区分上、いずれも「議事録あり」にカウントしたが、1~3行程度の開催結果や雑然とした発言録だけで、情報を開示・共有しているとは言えないだろう。
3開催告知では「公開」なのに、情報を公開していない事例
ウエブサイトを見ると、調整会議の開催を知らせる際には「会議の取り扱い:公開」としているのに、資料や議事録を公開していないケースが数多く散見された。

筆者自身の意見としては、全ての会議を闇雲に公開すれば良いとは思っていない。個別病院の経営判断に直結する微妙な話題については、関係者が数多く参加する公開の場で取り上げるのは難しいため、会議自体を非公開で開催したり、関係者が非公式に下打ち合わせしたりする必要性は理解できる。現に議事録を全文、実名で公開している構想区域でも、2部構成にして後半を非公開にしているようなケースがあった。

しかし、それでも税金で運営されている調整会議は公開を原則とすべきであり、傍聴可能な会議の資料や議事録をウエブサイトで公開しないのは奇異に映る。
4統一感を欠く情報開示・情報共有の事例
情報を開示・共有する方法に統一感が見られない事例も数多く見られた。例えば、「第1回の資料・議事録がないのに、第2回の分だけが掲載されている」「過去2~3回分の資料・議事録は掲載しているのに、その以前は入手できない」「一部の資料や議事録のリンク先が切れている」「2017年度分は全文、実名で丁寧に公開しているのに、2018年度分は議事概要、匿名に変わった」「2017年度の会議録が依然として『準備中』になっている」といった事象が数多く見られた。

このほか、区域ごとに公開度合いが異なるケースも多く、「A区域は資料・議事録を公開しているのに、B区域は全く開示していない」「他の区域は全て資料・議事録を開示していないのに、C区域だけ開示している」といったケースが数多くあり、先に触れた通り、ウエブサイト内の検索欄で「●●区域 地域医療構想調整会議 ××年度」と入力しなければならなかった。これは調整会議の運営を保健所や出先機関が担っている関係で、統一的な運用がなされていないことを示す。

以上のような状況は情報を入手したい人間にとって、相当なフラストレーションになり、結果的に都道府県のスタンスが問われることになりかねない。
 

5――不十分な情報開示・情報共有の問題点

5――不十分な情報開示・情報共有の問題点

議事録の公開が不十分な点は調整会議を活性化できない原因にもなり得る。以下、「都道府県職員が見落とした情報にこそ、価値が眠っている可能性がある」「民間医療機関の経営者など外部委員の手間暇(機会費用)を考慮すべきだ」という2つの点で考察を深めたい。

まず、前者から述べよう。例えば、都道府県の職員が議事録を整理する際、「特に発言・質疑なし」と判断したとしても、そこには調整会議に参加する外部委員の関心事を把握する上で、重要な手掛かりが眠っているのではないだろうか。その一例として、全文、実名で公開されている議事録を読むと、調整会議に参加している民間医療機関の経営者が「病床機能報告と必要病床数の違いは何か」「必要病床数の計算式はどうなっているのか」などと、制度の考え方や運用を担当職員に尋ねているケースが散見された。これらは民間医療機関から見れば経営を左右しかねない不安材料であり、調整会議の席で確認したのかもしれない。

つまり、こうした発言や質問が出ていること自体に価値があり、その不安を払拭するのが担当職員の腕の見せ所である。議事録上では「特に発言・質疑なし」とされる調整会議で果たして、本当にこうしたやり取りがなかったのだろうか。

さらに、筆者が都道府県の職員だとすると、「発言や質疑がなかったこと自体が問題なのではないか」という不安に駆られることであろう。これだけ民間医療機関の経営や住民の健康・生活に影響する案件について、民間医療機関の経営者や市町村の担当者から一切、意見や質問が出ないこと自体が不思議だからである。そうなると、国から示されている膨大な資料の説明に時間が費やされ、実質的な議論に時間を割けなかったことが原因かもしれないし、盛り沢山の資料を直前に送付してしまったため、外部の委員が読み解く時間を取れなかったことも考えられる。こうした点が原因だとすると、都道府県の職員は調整会議の外部委員、中でも民間医療機関の関係者の信頼を勝ち取る好機を逸しているのかもしれない。

もう一つの「民間医療機関の経営者など外部委員の手間暇(機会費用)を考慮すべきだ」という点では、調整会議の外部委員の立場で考えると見えて来る。例えば、調整会議に名を連ねている民間医療機関の経営者は診療や経営に充てる時間を割いており、これは他の委員も大同小異である。会議に参加する時間だけでなく、資料を読み解く時間、移動時間などを考えれば、相当な手間暇(機会費用)を払っていることになる。

それにもかかわらず、自らの発言・質疑が「特になし」と編集・総括されていることを知ったら、どう思うだろうか。恐らく調整会議に出席し、そこで発言する手間暇(機会費用)を惜しむことであろう。その結果、調整会議の議論は実効的にならず、民間医療機関による陳情の場か、都道府県が国の事務連絡をお知らせする場にとどまってしまう危険性がある。

もちろん、都道府県が調整会議で出た意見を編集し、政策立案の参考になるように構造的に整理することは重要である。現に調整会議で出た意見を「基本理念」「がん医療対策」「在宅医療対策」などと整理し、県の意見や対応策を記載した資料を開示・共有しているケースが見受けられた。

ただ、調整会議の発言が重要か否か判断する主体は本来、情報の受け手である住民や民間医療機関である。原則として調整会議で出た意見や質問は編集せずに開示すべきである。
 

6――おわりに

6――おわりに

(注:地域医療構想を巡る)論議の進捗には依然として大きなバラつきがあるので、国が調整会議の議論に介入すべきではないか――。4月24日の社会保障審議会(厚生労働相の諮問機関)医療部会では、こんな意見が一部の委員から出たという10。筆者の目から見ると、地域の自主性に力点を置く地域医療構想の大前提を覆す問題発言である。その場でも「国による一律の関与は困難ではないか」という反論があり、大勢を占めるに至らなかったが、都道府県が主体性を発揮しなければ、こうした形で国の統制強化を求める議論が強まるのは避けられない。実際、5月31日の経済財政諮問会議では病床数の適正化に向けて、国の主導性発揮を促す意見が相次いだ11

しかし、地域医療構想は本来、都道府県の自主性を重視した制度設計になっており、都道府県としては調整会議の議論が実りある形になるよう、将来の医療需要や地域の現状など医療機関が欲する情報を開示し、議論に用いたデータや議論の内容を共有していくことが必要になる。確かに調整会議の資料や議事録を開示したと言っても、必要な調整が進むとは限らないが、合意形成を図る上で情報開示・情報共有は大前提である。

増してや、(上)で述べた通り、公立・公的医療機関の役割を限定する方法は全ての地域で通用しない以上、民間医療機関との信頼関係構築が不可欠であり、情報開示・情報共有は一つの基盤である。さらに実際に病床を削減することになった場合、事前に情報を開示・共有することで、住民の不安や不満を和らげる効果も期待できる。

今後、住民や民間医療機関を含めた地域の関係者の間で、どうやって合意形成を図るか。その際、どんな情報を提供し、どういう形で議論の経過をオープンにしていくか。都道府県の対応が問われる。
 
10 2019年5月7日『メディ・ウオッチ』、2019年4月24日『m3.com』を参照。現時点では議事録が公開されていないが、2つの記事では発言が細部で異なるため、大意を取った。
11 2019年5月31日の経済財政諮問会議では、根本匠厚生労働相が取り組みの加速化に向けた方策として、①都道府県に対し、公立・公的医療機関の役割を定めた具体的対応方針の再検証を2019年央に要請するとともに、要請対象の医療機関を公表し、都道府県が遅くとも2020年秋をメドに再協議・同意を終了する、②①の医療機関を含む区域から、国が重点的に支援する区域を設定、都道府県と連携しつつデータ分析や再編統合の方向性について直接助言、③病床のダウンサイジング支援の追加的方策――といった施策を打ち出した。これに対し、麻生太郎副総理兼財務相や民間議員から都道府県の権限強化などを求める意見があり、安倍晋三首相が地域医療構想の「確実な実行」を根本厚生労働相に指示した。2019年5月31日経済財政諮問会議資料、大臣記者会見要旨、首相官邸ホームページを参照。
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保険研究部   上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任

三原 岳 (みはら たかし)

研究・専門分野
医療・介護・福祉、政策過程論

経歴
  • プロフィール
    【職歴】
     1995年4月~ 時事通信社
     2011年4月~ 東京財団研究員
     2017年10月~ ニッセイ基礎研究所
     2023年7月から現職

    【加入団体等】
    ・社会政策学会
    ・日本財政学会
    ・日本地方財政学会
    ・自治体学会
    ・日本ケアマネジメント学会

    【講演等】
    ・経団連、経済同友会、日本商工会議所、財政制度等審議会、日本医師会、連合など多数
    ・藤田医科大学を中心とする厚生労働省の市町村人材育成プログラムの講師(2020年度~)

    【主な著書・寄稿など】
    ・『必携自治体職員ハンドブック』公職研(2021年5月、共著)
    ・『地域医療は再生するか』医薬経済社(2020年11月)
    ・『医薬経済』に『現場が望む社会保障制度』を連載中(毎月)
    ・「障害者政策の変容と差別解消法の意義」「合理的配慮の考え方と決定過程」日本聴覚障害学生高等教育支援ネットワーク編『トピック別 聴覚障害学生支援ガイド』(2017年3月、共著)
    ・「介護報酬複雑化の過程と問題点」『社会政策』(通巻第20号、2015年7月)ほか多数

(2019年06月05日「基礎研レポート」)

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