2018年10月16日

米国における国際保険基準法制定を巡る動きについて-NAIC等の支持を受けて、成立に向かうのか-

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4―今回の法案に対する保険関係団体の反応

今回の法案については、保険関係団体の間でも反応は分かれていた。PIC(米国損害保険協会)等の多くの保険関係団体は、支持を表明してきており、7月10日の下院での通過を受けて、歓迎する声明を公表している。

これに対して、ACLI(米国生命保険協会)とRAA(米国再保険協会)は、これまで法案を全面的に支持していたわけではなく、今回の下院での法案通過を受けても、声明を公表していない。

このように、今回の法案はある意味で、保険業界を2分した形になっている。

1|NAMIC(National Association of Mutual Insurance Companies:全米相互保険会社協会)
NAMICは、「下院が国際保険基準法を通過させたことを歓迎する」との声明を公表5している。

NAMICの政府業務担当上級副会長Jimi Grande氏は、「今日のH.R.4537(国際保険基準法)の成立は、アメリカの保険消費者及び州ベースの米国保険規制制度にとって大いなる勝利である。」とし、「このように大きく分裂した議会で、両サイドからの圧倒的な支持は、この大いに必要とされる法律を取り上げ、通過するという明確な信号を上院に提示することになる。」と述べた。

2018年7月10日
NAMIC は下院が国際保険基準法を通過させたことを歓迎する

全米相互保険会社協会(NAMIC)は、国内の州ベースの保険規制が国際基準設定機関によって脅かされるのを防ぐ法案が本日下院を通過したことを歓迎した。

「今日のH.R.4537(国際保険基準法)の通過は、米国の保険消費者及び州ベースの米国保険規制制度にとって、記念碑的な勝利である。」とNAMICの政府業務担当上級副会長Jimi Grande氏は述べた。「150年以上にわたり、この制度は、会社のソルベンシーと消費者保護を保証するためのゴールド・。スタンダードだった。いくつかの不透明な国際基準設定プロセスを通じて、不必要で不適切な新しい規制を米国の監督当局に課すことは、市場の歪みを生み、不必要に国内の保険会社と保険契約者のコストを増加させる。」

Sean Duffy下院議員(R-Wis)及びDenny Heck下院議員(D-Wash)によって導入されたH.R.4537は、米国政府当局者が、成功した州ベースの保険契約者中心の保険規制制度が、国際的な議論のモデルと基礎となることを確実にする、強い統一された意見を維持することを保証する。この法案は、下院金融サービス委員会によって56対4の投票で可決され、議員が記録投票を行うことを拒否するような圧倒的なマージンで、本日下院本会議を通過した。

「このように大きく分裂した議会で、両陣営からの圧倒的な支持は、上院に対して、この大いに必要とされる法律に取り組み、通過させるべきとの明確な信号を送ることになる。」とGrande氏は述べた。

2|PIC(Property Casualty Insurers Association of America:米国損害保険協会)
声明6の中で、PCIの連邦政府関係担当上級副会長のNat Wienecke氏は、次のように述べて、同じく支持を表明している。

「この重要な超党派立法は、保険の州規制の優位性を強化する。新たな課題に対応するために進化するにつれて、国際保険協定が我々の基準を認識することを保証する。この法案は、州保険監督当局が国際的な保険基準を策定する上での適切な役割を認識し、議会がそのような交渉についての監督を行う適切な通知を受け取るようにする。PCIは上院に対し、この法案を受け取り、最終法案を大統領の机に送付するように要請する。」

2018年7月10日
PCIは国際保険基準法に対する超党派の下院での支持を歓迎する

ワシントン-米国損害保険協会(PCI)の連邦政府関係担当上級副会長Nat Wienecke氏は、H.R.4537(国際保険基準法)の圧倒的な支持での下院通過を賞賛する次の声明を発表した。この法案は、発声投票で下院を通過した。

「PCIは、国際保険基準法を支持したことに対して、両陣営の議員に拍手を送る。」とWienecke氏は語った。「この重要な超党派法案は、保険の州規制の優位性を強化する。H.R.4537はまた、国際的な保険協定が新たな課題に対応するために進化するとき、我々の基準を認識することを保証する。」

「この法案は、国際的な保険基準を策定する上での州保険監督当局NAICの適切な役割を認識し、議会がそのような交渉についての監視を行うために適切な通知を受け取ることを規定している。」

「PCIは上院に対し、この法案に取り組み、通過させ、最終法案を大統領の机に送るように要請する。」

3|PIA(National Association of Professional Insurance Agents:全米プロフェッショナル保険代理店協会)
声明7の中で、PIAの政府関係担当副会長のJon Gentile氏は次のように述べて、賛成の意を示している。

「国際交渉は、国内保険業界及びその消費者にとって深刻な結果をもたらす可能性がある。保険業界の規制を有害な国際的な進展から守り、破壊的な国際保険協定が我々の成功した国内制度を傷つけるのを防止する役割を議会に与えるこの常識的な法律をもたらしたことに対して、Duffy 下院議員と Heck下院議員に感謝する。」

2018年7月10日
PIAは、有害な国際協定から米国の保険規制制度を保護する法案を通過させたことを賞賛する

ワシントン 全米プロフェッショナル保険代理店協会(PIA)は、Sean Duffy 下院議員(R-WI) と Denny Heck 下院議員(D-WA)が提案した2018年国際保険基準法(H.R.4537)が、本日下院を通過したことを喜ばしく思う。この法案は、米国の州ベースの保険規制制度を維持する一方で、議会に国際的な保険基準設定交渉の監視と透明性を与えることを目的としている。それは声明投票で通過した。

「国際交渉は、国内保険業界及びその消費者にとって深刻な結果をもたらす可能性がある。」とPIAの政府関係国家副会長のJon Gentile氏は述べた。「破壊的な国際保険協定が我々の成功した国内制度を傷つけるのを防止する役割を議会に与えつつ、州の保険規制を有害な国際的な進展から守ろうとする、この常識的な法律をもたらしたことに対して、Duffy 下院議員と Heck下院議員に感謝する。」

H.R.4537は、国際基準基準協定の交渉を通じて、議会との協議と州保険コミッショナーとの協調を要求している。PIAは、軽率な協定の米国における実施を止める議会の権力の規定を含む、議会の審査のための権限を付与する法案を強く支持している。

「この法案は、消費者や州保険規制を志向している。」とGentile氏は語った。「PIAは、Duffy下院議員とHeck下院議員と協力して開発を進めることを嬉しく思っており、これが上院を通過するのを見るために積極的に務める。」と述べた。

4|IIABA又はBig "I"(Independent Insurance Agents & Brokers of America:米国独立保険代理
店ブローカー協会)
Big "I"も、以下のように述べて、国際保険基準法の下院通過を歓迎する声明を公表8した。

法律は、「国際的な保険交渉に参加する連邦政府職員のための重要な保障措置を作成することにより、州の保険制度の侵食を防ぐ。」とし、「このような相互接続された世界では、一貫性を持って交渉に取り組み、現行の州ベースの制度を損なわないことが重要である。」とした。

2018年7月10日
Big "I" は国際保険基準法の通過を歓迎する

法律は、国際的な保険交渉における州ベースの保険制度を保護している。

ワシントンDC、2018年7月10日 – 米国独立保険代理店ブローカー協会(IIABA又はBig "I")は、Sean Duffy下院議員 (R-Wisconsin)と Denny Heck下院議員(D-Washington)によるHR 4537(2018年国際保険基準法)を米国下院が通過させたことについて、賞賛を送る。

「H.R.4537は、国際的な保険交渉に参加する連邦政府職員のための重要な保障措置を作成することにより、州ベースの保険規制制度の侵食を保護する。」とBig “I"の外部、産業及び政府事項担当上級副会長Charles Symington氏は言う。「このような相互接続された世界では、一貫性を持って交渉に取り組み、現行の州ベースの制度を侵食させないことが重要である。」

Duffy法案は、現在の米国の保険基準が、交渉において米国を代表する誰もの目的であることを要求している。この法案は、カバード・アグリーメントを含む全ての国際的な保険基準に関する議会の審査を強化するものである。最も重要なことは、法案は、米国の交渉担当者は、交渉の過程を通じて、州の保険監督当局と密接に協議し、協調することも求めている。

Symington氏は、「Big 'I'は、Duffy下院議員とHeck下院議員の立法化におけるリーダーシップに感謝し、この常識的な法律に対する今日の下院の行動に感謝している。」、「我々は、州ベースの保険制度を強化し、現代化するために、議会と協力し続けることを楽しみにしている。」と述べた。

5|NCOIL(National Conference of Insurance Legislators:全米保険議員協議会)
NCOILは、以下の声明9をリリースして、「この法律が、国際的な保険基準の監督と透明性を強化し、およそ75年間繁栄してきた州の保険制度を維持するために必要である。」として、今回の法案の下院通過を歓迎するとともに、上院での速やかな通過を促した。

2018年7月26日
NCOILは、H.R. 4357の下院の超党派での通過を歓迎し、上院での速やかな通過を促す

NCOILのCEOコミッショナーのTom Considine氏は、下院本会議でのH.R. 4537の通過を賞賛し、上院に対し、同じことをして、大統領に法律を送るように強く促した。

NCOILは、この法律が、国際的な保険基準の監督と透明性を強化し、約75年にわたって繁栄してきた州ベースの保険規制制度を維持するために必要であると考えている。NCOILの議員は、6月に連邦のカウンターパートを訪問し、この法律の支持を共有した。上院はこの法案を速やかに通過させ、大統領に送る必要がある。

今年の初めに、NCOILの議員は、長年に亘って3度目に、州ベースの保険規制制度を保護するために、議会議員とその職員とともに、DC教育フライインに参加した。

6|ACLI(American Council of Life Insurers:米国生命保険協会)及びRAA(Reinsurance Association of America:米国再保険協会)等
ACLIとRAAは、共同で、7月6日にSean Duffy下院議員(R-WI)とDenny Heck下院議員(D-WA)に送ったレターの中で、「法案は、米国の州ベースの保険規制制度を尊重しているが、米国の基準交渉者に対する制限があまりにも厳しすぎる。」と述べた。さらに、「もし法案が成立すれば、米国の業界が国際競争力を失い、将来の脅威から自らを守ることができない、と考えている。」と述べた。

なお、2017年12月13日の下院金融サービス委員会におけるこの法案に対する56対4の大差での投票において、反対票を投じた議員の一人である Ed Royce下院議員(R-CA)は、「この法案は、違憲で反競争的である。」とし、「50以上の州規制当局とNAICは、世界経済における国際交渉に参加する権限や能力を持たない。議会は代わりに、ドッド・フランク法によって設立されたFIO(連邦保険局)が、国際的な保険分野において、強力で一貫した米国の声を提供するのを助けるために努力すべきだ。」と述べている。
 

5―まとめ

5―まとめ

以上、今回のレポートでは、米国における国際保険基準法制定を巡る動きについて、報告してきた。

国際保険基準法は、いわば「国際的な各種規制や基準の策定の動きが、米国における州ベースの保険監督制度を脅かしてきているとの問題意識の下に、改めて米国の主権を保護することを確実にするため」に、制定が目指されているものである、と言えるだろう。

この法案に反対している人々は、「連邦政府がこれまでの州法を覆す世界的な保険市場を創造する能力を制限する」ことになると述べている。一方で、法案に賛成する人々は、このような人々を、「米国法を覆す国際機関の各種見直しを歓迎するグローバリスト」として批判している。こうした対立は、保険業界を、より大規模でグローバル志向のメンバーと、より小規模な米国内に焦点を当てたメンバーとに2分する構造を作り上げている。

現在の状況から判断すれば、国際保険基準法については、引き続き反対意見があるものの、いずれは成立することが想定されているように思われる。成立すれば、これはドッド・フランク法が規定した考え方の修正を意味することになる。

1年半前に、トランプ政権が誕生したことで保険会社に対する規制がどのような影響を受けていくことになるのかという点について、基礎研レポート「トランプ政権による保険会社規制への影響について-国内・国外(EU、IAIS)問題への対応-」(2017.4.4)で報告した。その中で、「基本的な流れとしては、規制緩和、米国第一、国内優先等というトランプ政権の方針に基づいて、これまでの規制強化やグローバル化の中で進められてきた各種の改革を見直す」ということが行われていくことが想定される、と述べていた。

今回の法案は、まさにトランプ政権の「America First(米国第一)」政策を具現しているものであると言えるだろう。そして、また同じくこのレポートで触れていたように、今回の法案に関しては、「グローバルな保険会社と国内保険会社との意見の対立」が見られる形になっている。

今回の報告を通じて、改めて、米国の州監督当局や多くの保険関係者が、基本的には自国の州ベースの保険規制制度に対して大きな信頼を有しており、欧州主導での国際的な基準設定の動きに対して、慎重な姿勢を見せていることが窺い知れる。

今回の国際保険基準法が成立した場合、それが今後の国際的な各種規制や基準の策定における米国のスタンスに明示的な形で、どのような影響を与えていくことになるのかについては、大変興味深いものがある。

米国の保険監督制度を巡る動きについては、日本を含めた各国が強い関心を有している事項であることから、今後とも引き続き注視していきたい。
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中村 亮一

研究・専門分野

(2018年10月16日「基礎研レポート」)

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【米国における国際保険基準法制定を巡る動きについて-NAIC等の支持を受けて、成立に向かうのか-】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

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