2018年10月16日

米国における国際保険基準法制定を巡る動きについて-NAIC等の支持を受けて、成立に向かうのか-

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1―はじめに

現在、米国の議会では、州ベースの保険規制制度を維持し、国際的な保険基準交渉に関する監視と透明性の強化を提供することを意図した「国際保険基準法(International Insurance Standards Act)」1という名称の法案が審議されている。法案は、7月10日に下院を通過し、現在は上院での審議が行われている。

今回のレポートは、この国際保険基準法を巡る動きについて、報告する。  

2―国際保険基準法とは

2―国際保険基準法とは

1|概要
国際保険基準法H.R.4537は、2017年12月4日に、Sean Duffy下院議員(R-WI)とDenny Heck下院議員(D-WA)によって提案され、下院において議論されてきたものである。その内容は、州ベースの保険規制制度を維持し、国際的な保険基準交渉に関する監視と透明性の強化を提供することを意図している。

具体的には、法案は、米国を代表する機関によって締結された協定は、保険規制に関する既存の連邦法及び州法による認識に加えて、連邦法及び州法と整合的でない限り合意されない、ことを求めている。さらに、交渉に参加している連邦機関は、交渉過程を通じて州の保険コミッショナーと調整し、協議しなければならない。また、議会は、進行中の交渉を通じて、そして協定を締結する前に、交渉が行われる予定であることについての協議を受けなければならない。最後に、議会に対して、カバー・アグリーメントに対しても適用される「迅速に処理される」不承認プロセスを実施する権限が認められる。
2|背景
生命保険、損害保険、再保険、健康保険を含む全ての種類の米国の保険会社は、主に州によって規制されている。議会と州は時折、州ベースの保険規制の有効性をレビューし、より一層の規制の一貫性を達成するために調整された努力を行ってきた。1945年に、議会は、マッカラン・ファーガソン法(McCarran-Ferguson Act)を可決し、連邦法が明示的に規定している場合を除いて、保険に対する州の規制権限を確認した。

ドッド・フランクのウォール街改革と消費者保護法(ドッド・フランク法)(Dodd-Frank Wall Street Reform and Consumer Protection Act)は、州ベースの保険規制構造の優位性を確認したが、それはまた、米国財務省に連邦保険局(FIO)を設立し、FIOのディレクターに国際協定の交渉の間、米国の保険会社の利害を代表し、貿易交渉の間に米国通商代表部(USTR)に助言を行う責任を与えた。

米国の州ベースの規制の枠組みは、世界で最も強力で最も堅牢な保険規制のアーキテクチャである。他のいかなる保険規制制度も、消費者保護、ソルベンシー保護、市場遂行保護、破綻保護の4つの相互接続された側面と、保険契約者保護への州ベースの焦点とを結び付けていない。現在の米国の交渉プラットフォームの批判者は、国際保険基準交渉は、米国において欧州の保険基準を実施するための「バックドア」方法として使用できると主張している。欧州の保険規制モデルは、銀行中心であり、米国の保険規制制度よりも保険契約者に友好的でない。H.R.4537は、交渉過程を通じての透明性を強化し、国際交渉が現在の米国の保険規制フレームワークの優位性を認識することを確実にするために、議会に対して承認権限を与えている。
 

3―国際保険基準法制定を巡るこれまでの動き

3―国際保険基準法制定を巡るこれまでの動き

国際保険基準法H.R.4537は、2017年12月4日にSean Duffy下院議員(R-WI)とDenny Heck下院議員(D-WA)によって提案され、下院において議論されてきたものである。

この法案については、これまで、これを支持する意見と反対する意見があり、必ずしも成立に向けて順調に進んできたというわけではなかった。

ここでは代表的なケースとして、NAIC(National Association of Insurance Commissioners:全米保険監督官協会)とシンクタンクRstreetの意見を紹介する。
1|NAICによる法案支持の意見
この法案については、現行の州ベースの保険規制制度を肯定し維持すること及び今後の国際的な保険規制の議論における州保険監督当局のより一層の関与を規定していることから、NAICが強力に支持をしている。

これまでも何回か意見表明を行っているが、直近では、9月17日に、共和党と民主党の上院院内総務宛にレター2を送り、上院での早期の承認に向けての理解を得るべく働きかけを行っている。

具体的には、以下の4点を挙げて、今回の法制化の必要性を訴求している。
1.米国保険規制制度の認識
(今回の法案である)H.R.4537の第3セクション(a)(1)項は、連邦代表が、米国の保険規制制度をその提案を満たすものとして認識する国際基準又は協定にのみ同意する、ことを要求している。法案は、米国の適切な保険規制要件を決定するために、国際機関よりも国内の議員や規制当局の能力を維持することによって、S2155「経済成長、規制緩和、消費者保護法」に見られる国際的な保険規定を補強し、補完している。

それは、外国の参加者に対して、米国を代表する人たちが米国の規制アプローチの中核的な側面を自由に交渉することができないため、米国の連邦と州の関係者と協力して、米国の制度と互換性のある基準を策定する必要がある、ことを明らかにする。

(参考)S.2155「経済成長、規制緩和、消費者保護法」
2018年5月24日、トランプ大統領によって署名されて成立したS.2155「経済成長、規制緩和、消費者保護法」は、米国財務省長官、米国連邦準備制度理事会(FRB)及び連邦保険局(FIO)のディレクターは、彼らが参加する世界的な保険規制又は監督フォーラムによる保険提案のポジションを取る時には、全米保険監督官協会(NAIC)を通じて、州保険監督当局との「合意形成を達成する」ことを要求している。また、保険監督者国際機構(IAIS)のワーキンググループ及び委員会会議への一般観察者のアクセス向上を支持し擁護することを含め、同じ連邦政府機関が、参加する世界的な保険又は国際基準設定の監督又は監督フォーラムにおいて「透明性の向上を支援する」ことを要求している。
2.国際的議論における保険監督当局の全面的参加
H.R.4537の第4セクションは、連邦政府が、発生する可能性がある場合にはいつでも、国際的な保険基準設定の議論において、州の保険監督当局(又は被指名人)と「密接に協議し、調整し、含めるように努める」ことを要求している。

州の保険監督当局は、これまで国際的な問題について連邦政府機関と協力する大きな努力を行ってきたにもかかわらず、歴史的に、交流の深さが欠如しており、IAIS以外のフォーラムにおける国際的な保険議論に参加できず、失望させられてきた。さらには、近年は、重要な会議から外されたり、オブザーバーとしての役割に追いやられてきた。

他の国からのカウンターパートが国際保険基準設定交渉のテーブルに付いているので、米国の保険監督当局がこれらの議論に完全に参加できるようにすることが適切かつ必要である。
3.IAISにおけるFIOの役割の明確化
H.R.4537は、IAISにおいては、連邦保険局(FIO)が米国連邦政府を代表し、州保険監督官ではないことを明確にしている。

FIOは、米国の州の保険監督当局によって行われるコミットメントとみなされる可能性のある国際的な規制基準設定問題にコミットしてはいけない。FIOがIAISにおいて、各州ではなく、連邦政府を代表していることを明確にすることによって、法制化はIAISにおけるFIOの役割と米国保険業界の主要規制当局との間に明確な境界線を提供することになる。
4.カバード・アグリーメント・プロセスの改善
カバード・アグリーメント・プロセスに対処しなかったS.2155とは異なり、H.R.4537は将来のカバード・アグリーメントに対して、より高い透明性と議会の監視を適用する。

州規制当局は、今回のカバード・アグリーメント・プロセスに直接的かつ有意義な参加を約束したが、スタッフや仲間の規制当局に相談することができず、厳重な機密保持を条件に、単なるオブザーバーに追いやられた。

今回の法案は、州の保険監督当局のより堅実な参加を提供することに加えて、H.R.4537は、カバード・アグリーメント案の議会による不承認の仕組みを提供する。H.R.4537の第7セクションは、90日の期間内に、カバード・アグリーメントに関して、上院と下院で提出され、審議される、不承認決議の仕組みを確立している。

なお、共和党と民主党の上院院内総務宛レターについては、NAICの国際的な保険交渉に対するスタンスや考え方を窺い知ることができるので、全文を示すと以下の通りとなっている。
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中村 亮一

研究・専門分野

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