2018年10月01日

欧州大手保険グループの2018年上期末SCR比率の状況について-ソルベンシーIIに基づく数値結果報告-

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3|Generali
(1)SCR比率の推移
Generaliは、会社ベースと監督ベースの2つのソルベンシー比率を開示しているが、2018年上期は、営業利益の計上による着実な資本形成があったが、市場環境の影響等により、監督ベースでは、自己資本が20億ユーロ減少したことの影響を受けて、2018年上期末のSCR比率は、2017年末に比べて、6%ポイント低下して、201%となった。

会社の内部モデルベースでも、同様の理由から、230%から221%に9%ポイント低下した。
GeneraliのSCR比率推移の要因(会社の内部モデルベース、2018年上期末への変化は監督ベース)
(2)感応度の推移
Generaliは、感応度について、半期ベースの数値は開示していない。

年間ベースでは、UFRを変化させた場合の影響についても開示している。2017年末では、「UFRを15bps引き下げた場合でもSCR比率は1%ポイントの低下にとどまる」ということで、影響が限定的であることが示されている。
Generaliの感応度の推移(2015年末と2016年末は会社の内部モデル、2017年末は監督ベース)
(3)トピック
会社は、完全な内部モデルの使用に向けて、引き続き監督当局のIVASSと交渉中としているが、2018年上期末でも両者の差異は20%ポイントとなっており、引き続き大きく乖離している。

なお、Generaliは、2015年から、国際的な事業展開の最適化を図ることに取り組んでいるが、これまでに、売却による10億ユーロのキャッシュ生成という目標に対して、署名ベースで15億ユーロのキャッシュ生成を達成したとしている。具体的には、この1年間で、以下の取引が行われている。

・取引完了  2017年7月 グアテマラの事業売却
        2018年2月 オランダの事業のASRへの売却
        2018年4月 パナマ及びコロンビアの事業売却  
        2018年7月 Generali PanEuropeのLCCG(Life Company Consolidation Group)への売却

・取引署名  2017年7月 日本における事業のランオフ開始
        2017年12月 チュニジアの事業売却    
        2018年4月 ベルギーの事業のAthora Holdingへの売却
        2018年7月 Generali Worldwide及びGenerali LinkのLCCGへの売却 

なお、これらの取引によるグループのSCR比率への影響は、例えば、オランダの事業売却で1.5%ポイント、ベルギーの事業売却で2.6%ポイント、Generali Worldwide及びGenerali Linkの売却により0.9%ポイントであるとしている。

さらに、Generaliは、7月にドイツの生命保険ユニットであるGenerali Leben1をViridium Groupに売却することを表明2している。これにより、金利リスクへのエクスポジャーを大幅に削減し、リスク資本収益率を改善させることができ、SCR比率が2.6%ポイント上昇すると想定している。

一方で、Generaliは、6月にFuture Groupとの間で、インドにおける保険会社の出資比率を49%に引き上げる契約を締結しており、インド市場を成長の可能性が非常に高いものであると位置付けている。

このように、Generaliは、事業の売却等を積極的に行い、地理的最適化を進める中で、資本ポジションを向上させてきている。

Generaliはまた、伝統的な新契約の保証利率を0%にするとの目標について、2018年上期で14bps(対2017年上期で▲11bps)、ユーロ地域に限れば1bpになったとしている。

さらに、保有契約の保証利率を1.5%にするとの目標については、2018年上期末で1.39%となり、達成されたとしている。この水準は2015年末に比べて、42bpsの引き下げとなっている。なお、このうち、Generali Lebenの合意と地理的最適化プログラムの影響が20bpsであるとしている。

このように、Generaliは戦略的な数値目標を立てて、その目標を着実に達成してきている。
 
1 Generali Lebenは、Generali Deutschlandの約4百万の保険契約の責任準備金の約36%を占めている。Generali Deutschlandは、2017年において、ドイツで9.6%の市場シェアを有し、160億ユーロの保険料収入がある。
2 このM&Aについては、ドイツの保険監督当局であるBaFinが、集中的に調査し、保険契約者の保護措置に関する懸念が生じないことを慎重に審査することを表明している。
4|Prudential
(1)SCR比率の推移
Prudentialは、営業利益の計上による資本創出により、2017年末から2018年上期末にかけても、自己資本が11億ポンド増加したことから、SCR比率は202%から209%に7%ポイント増加した。
PrudentialのSCR比率推移の要因
(2)感応度の推移
感応度については、2017年末と比べて、金利上昇による影響が若干小さくなっているが、一方で株式市場の変動による影響は大きくなっている。
Prudentialの感応度の推移
(3)トピック
会社はソルベンシーIIの算出に反映していない経済的資本のソースとして、(1)米国の分散効果、(2)アジアの認識の中止、(3)不動産の株主持分、(4)有配当資本、(5)米国における認められた慣行、を揚げている。

また、地域別にソルベンシー比率をみると、以下の通りとなっている。
Prudentialの地域別ソルベンシー比率
Prudentialもポートフォリオ管理を積極的に行ってきており、例えば、これまでに以下の対応を行ってきている。

・売却・撤退  英国の年金事業の引き受け停止、日本事業の売却、韓国事業の売却、NPHの売却、英国の年金ポートフォリオ120億ポンドの売却

・新規参入   カンボジア、ラオス、アフリカでの事業開始

Prudentialは、2018年4月に、Prudential plcから英国・欧州部門であるM&G Prudentialを分離して、2つの異なる投資特性を有する別々の上場会社にすることを公表している。これにより、Prudential plcは米国とアジアで事業展開する会社となる。また、2018年上期の報告において、Prudentialは、M&G Prudentialが分離された後のPrudential plc3は、香港の保険監督当局が新しいグループ全体の監督者になることを明らかにした。M&G Prudentialのグループ全体の監督者は、引き続き英国の保険監督当局であるPRA(健全性規制機構)が務めることになる。この分離については、2019年末までに完了することが想定されている。

Prudentialは、2018年4月に、併せて、英国の年金ポートフォリオの一部をRothesay Lifeに売却することを公表している。さらに、香港の子会社をアジアに移転するとしている。これらにより、2017年末ベースでは、SCR比率は6%ポイント増加することになる、としている。
 
3 分離後のPrudential plcは、英国に本社を置き、ロンドン証券取引所でpremium listingされ、香港でprimary listingされ、ニューヨークとシンガポールに上場している会社となる。また、英国又は欧州の顧客を持たないため、ソルベンシーII制度の対象外となる。
5|Aviva
Avivaも会社ベースと監督ベースの2つのソルベンシー比率を開示している。

Avivaの以下の数値は、会社の株主ビューによるもので、完全に区分された(ring-fenced)有配当ファンド(2017年末で33億ポンド)、職員年金制度(2017年末で15億ポンド)のSCRと自己資本が除かれている。 殆どの重要な完全に区分された有配当ファンドと職員年金制度は、SCRを上回るいかなる資本もグループで認識されておらず、ソルベンシーII資本ベースでは自立している。会社の株主ビューは、株主のリスク・エクスポジャーと適格自己資本でSCRをカバーするグループの能力をより適切に表している、としている。

(1)SCR比率の推移
Avivaの会社ベースのSCR比率は、2018年上期末に、基礎的な営業利益の計上により、資本形成が図られたものの、配当支払いに加えて、6億ポンドの株式買戻し計画が開始され、5億ポンドの債務返済が行われたことから、自己資本が12億ポンド減少したことを主因として、2017年末に比べて11%ポイント減少して、187%となった。
監督ベースの数値も、6%ポイント低下して、163%となった。
AvivaのSCR比率(会社ベース)推移の要因
(2)感応度の推移
感応度については、2018年上期末は、基本的には2017年末と大きくは変わっていないが、社債スプレッドの増加による影響が2017年末の▲2bpsから2018年上期末の▲8bpsに大きく上昇している。

なお、長寿リスクに対応した、年金死亡率の5%低下による影響が12%ポイントと大きなものとなっている。
Avivaの感応度(会社ベース)の推移
(3)トピック
Avivaは、2017年末のSCR比率がWorking Rangeとして設定している150%から180%の上限を上回っていたことから、2018年に、(1)6億ポンドの株式買戻し、(2)約9億ポンドの債務のレバレッジ解消、(3)約5億ポンドの追加M&A、を計画している。

このうち、「(1)6億ポンドの株式買戻し」については、7月末の段階において、3.76億ポンドの買戻しを行っていたが、9月に残りの2.24億ポンドの株式買戻しを行い、完了している。また、「(2)約9億ポンドの債務のレバレッジ解消」については、5月に5億ユーロのTier2債務の返済が行われたが、11月に5.75億ドルの制限付Tier1債務の返済が行われる予定になっている。「(3)約5億ポンドの追加M&A」については、これまでアイルランドのFriends Firstの買収に1.46億ユーロが使用されたが、年内に約4億ポンドが使用されることが計画されている。なお、未使用の予算は債務返済又は2019年に持ち越されるとしている。

Avivaは、2月にジョイントベンチャー持分の売却により、スペイン市場から撤退することを公表しているが、これにより、ソルベンシーIIの資本が150百万ポンド増加するとしている。

また、Avivaは英国のバルク年金やペンション市場に注力してきているが、ソルベンシーIIの下での資本の負荷を軽減するために、8月には、米国のPrudential Financialに対して、年金負債に関連する約10億ポンドの長寿リスクを出再している。
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中村 亮一

研究・専門分野

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