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2018年05月02日
欧州大手保険グループの地域別の事業展開状況-2017年決算数値等に基づく現状分析-
1―はじめに
欧州大手保険グループの2017年決算数値が、2018年2月から4月にかけて、投資家向けのプレゼンテーション資料やAnnual Reportの形で公表されている。今回のレポートでは、2017年決算に関わる各社の決算数値等に基づいて、欧州大手保険グループの生命保険事業を中心とした地域別の事業展開の状況について報告する。
欧州大手保険グループを巡る経営環境は、世界的な金融緩和の長期化に伴う低金利環境の継続に加えて、2016年1月にスタートしたソルベンシーIIをはじめとした各種の規制の強化への対応、2021年1月以後に開始する事業年度から適用が想定されている新たな保険契約会計基準への対応等、困難な課題を抱えている状況にある。ただし、各社ともこうした環境下で、基本的には積極的な海外事業展開等を進め、収益基盤の拡大を図ってきている。
昨年及び一昨年の基礎研レポートでは、各社の2015年及び2016年の生命保険事業について、地域別の業績や投資関係損益を巡る状況等に焦点を当てて報告した1。
これまでの基礎研レポートでも述べたが、以下の報告においては、例えば、分析用に開示されている保険料や営業利益2のベースや地域別の区分の考え方が、各社によって異なっており、各社の公表データのベースも必ずしも統一されていない。さらに、2017年については、2016年までとは異なり、セグメント情報の提供において、必ずしも生命保険事業と損害保険事業を区分していない会社もあったり、さらには各種の規制の動向等も踏まえて、これまでとは異なる経営指標や評価基準に基づく開示内容に変更している会社もあり、これまでの2年間と同様な考え方に基づいて、2年間を超えての中期的な比較分析が行えなかった。
以上のような理由から、今回の分析については、各種制約下で、各社間比較等も必ずしも十分なものとはなっていないが、筆者の判断で各種前提を置いて、一定比較可能な数値を作成して分析を行っている。
1 なお、2017年末のソルベンシーの状況については、筆者による、保険・年金フォーカス「欧州大手保険グループの2017年末SCR比率の状況について-ソルベンシーIIに基づく数値結果報告(1)及び(2)-」(2018.4.10及び16)を参照していただきたい。
2 各社によって、Operating ProfitやUnderlying Profit等と英語の名称が異なるものを、このレポートでは、必ずしも正確ではなく、厳密な意味での同等な比較にはなっていないが、また本来的には「基礎利益」等と表現することがより適切なケースもあるかもしれないが、以下では全て「営業利益」として表現している。
欧州大手保険グループを巡る経営環境は、世界的な金融緩和の長期化に伴う低金利環境の継続に加えて、2016年1月にスタートしたソルベンシーIIをはじめとした各種の規制の強化への対応、2021年1月以後に開始する事業年度から適用が想定されている新たな保険契約会計基準への対応等、困難な課題を抱えている状況にある。ただし、各社ともこうした環境下で、基本的には積極的な海外事業展開等を進め、収益基盤の拡大を図ってきている。
昨年及び一昨年の基礎研レポートでは、各社の2015年及び2016年の生命保険事業について、地域別の業績や投資関係損益を巡る状況等に焦点を当てて報告した1。
これまでの基礎研レポートでも述べたが、以下の報告においては、例えば、分析用に開示されている保険料や営業利益2のベースや地域別の区分の考え方が、各社によって異なっており、各社の公表データのベースも必ずしも統一されていない。さらに、2017年については、2016年までとは異なり、セグメント情報の提供において、必ずしも生命保険事業と損害保険事業を区分していない会社もあったり、さらには各種の規制の動向等も踏まえて、これまでとは異なる経営指標や評価基準に基づく開示内容に変更している会社もあり、これまでの2年間と同様な考え方に基づいて、2年間を超えての中期的な比較分析が行えなかった。
以上のような理由から、今回の分析については、各種制約下で、各社間比較等も必ずしも十分なものとはなっていないが、筆者の判断で各種前提を置いて、一定比較可能な数値を作成して分析を行っている。
1 なお、2017年末のソルベンシーの状況については、筆者による、保険・年金フォーカス「欧州大手保険グループの2017年末SCR比率の状況について-ソルベンシーIIに基づく数値結果報告(1)及び(2)-」(2018.4.10及び16)を参照していただきたい。
2 各社によって、Operating ProfitやUnderlying Profit等と英語の名称が異なるものを、このレポートでは、必ずしも正確ではなく、厳密な意味での同等な比較にはなっていないが、また本来的には「基礎利益」等と表現することがより適切なケースもあるかもしれないが、以下では全て「営業利益」として表現している。
2―欧州大手保険グループの各社間比較-全体の業績と地域別業績について-
欧州大手保険グループとしては、欧州の主要国を代表する保険グループとして、昨年の基礎研レポートと同様にAXA(フランス)、Allianz(ドイツ)、Generali(イタリア)、Prudential(英国)、Aviva(英国)、Aegon(オランダ) 、Zurich(スイス)の7社を対象にしている。AXA、Allianz、Prudential、Aviva、Aegonの5社はFSB(Financial Stability Board:金融安定理事会) が選定するG-SIIs(Global Systemically Important Insurers:システム上重要なグローバルな保険会社)に指定されている。Generaliも2015年11月まではG-SIIsに指定されていた。
以下の図表の数値は、特に断りがない限り、各社の公表資料に基づいている。
以下の図表の数値は、特に断りがない限り、各社の公表資料に基づいている。
前年との比較では、グループ全体の業績としては、各社ともほぼ安定した状況にある。
このうち、生命保険事業については、各国において低金利の影響を受けて、厳しい経営環境下にあったが、2017年は、ほぼ前年並みか前年を上回る営業利益を確保している。損害保険事業については、生命保険事業と比較して、収益が安定しない傾向がある。例えば、Zurichの損害保険事業は、2015年に多額の損失の計上で大幅な営業減益となり、2016年は大きく回復していたが、2017年は再び大きな減益となっており、それが7社の中で唯一会社全体での大幅な営業減益となる要因となった。
なお、以下の分析では、主として、生命保険事業に焦点を当てて、各社の数値比較等を行っていくことにするが、その前に各社がグループ全体の指標として提示しているROE(Return on Equity:資本収益率)の状況を、以下の図表に示しておく。このROEの数値の算出方法等についても、各社間で統一されているわけではないが、あくまでも各社が掲げている経営目標の1つとなっているので、参考として掲載しておく。
ROEについては、基本的には各社はグループ全体の数値のみを開示している。生命保険事業以外のウェイトもかなり高い4社のうち、Allianzのみが生命保険事業のみの数値も公表しており、AXAとGeneraliはEV(Embedded Value)に対するリターンという形で、以前は生命保険事業に対するROEを開示していたが、2017年は開示していない。
これによれば、各社のROEは、ほぼ10%から15%の範囲内にあり、生命保険事業のROEもグループ全体とほぼ同じ水準を確保している。
このうち、生命保険事業については、各国において低金利の影響を受けて、厳しい経営環境下にあったが、2017年は、ほぼ前年並みか前年を上回る営業利益を確保している。損害保険事業については、生命保険事業と比較して、収益が安定しない傾向がある。例えば、Zurichの損害保険事業は、2015年に多額の損失の計上で大幅な営業減益となり、2016年は大きく回復していたが、2017年は再び大きな減益となっており、それが7社の中で唯一会社全体での大幅な営業減益となる要因となった。
なお、以下の分析では、主として、生命保険事業に焦点を当てて、各社の数値比較等を行っていくことにするが、その前に各社がグループ全体の指標として提示しているROE(Return on Equity:資本収益率)の状況を、以下の図表に示しておく。このROEの数値の算出方法等についても、各社間で統一されているわけではないが、あくまでも各社が掲げている経営目標の1つとなっているので、参考として掲載しておく。
ROEについては、基本的には各社はグループ全体の数値のみを開示している。生命保険事業以外のウェイトもかなり高い4社のうち、Allianzのみが生命保険事業のみの数値も公表しており、AXAとGeneraliはEV(Embedded Value)に対するリターンという形で、以前は生命保険事業に対するROEを開示していたが、2017年は開示していない。
これによれば、各社のROEは、ほぼ10%から15%の範囲内にあり、生命保険事業のROEもグループ全体とほぼ同じ水準を確保している。
3 2017年の資産管理事業の営業損益は、AXAの「Underlying earnings」(グループ全体6,002百万ユーロ)中の 540百万ユーロ、Allianz 2,440百万ユーロ、Prudential 500百万ポンド、Aviva 168百万ポンド、Aegon 136百万ユーロ、またGeneraliの金融セグメントの営業損益は370百万ユーロ等、各社とも大きな位置付けを占めてきている。
4 AXAは対外的な説明用の利益指標として「Underlying earnings(基礎利益)」を使用しているが、他社とのベースを合わせるため、以下の分析では「Underlying earnings before tax from insurance activities」を使用している。
2|生命保険事業の地域別業績
ここでは、各社のセグメント情報に基づいて、保険事業に関する保険料と営業利益の地域別内訳を見ている56。
5 地域区分は、基本的に引受会社の所属国に基づいている。
6 2016年の数値算出において、会社によっては、地域別のセグメントの変更や算出方法等の変更を行っているケースもあり、これに伴い、前回の基礎研レポートで報告した2015年の数値を変更している場合もある。
2-1.保険料の状況
まずは、保険料の地域別内訳を見てみる。ここでの保険料の数値には、例えばユニット・リンク等の投資型保険からの収入が反映されていなかったりするが、各社の地域間の分布等を比較するための1つの基準として採用している。
なお、地域別の保険料分布の数値を得るために、Allianz、Prudential及びZurich の保険料については、前ページの図表とは異なるベースの数値を使用している。
(1)2017年の結果
これによれば、各社毎に状況は異なっているが、各社とも自国(親会社国)以外からの保険料が一定の規模を有しており、自国以外での事業が大きな位置付けを有している。各社の地域別の構成比の概要は以下の通りとなっている。
AXAは自国のフランスが27%、その他の欧州が39%、米国が14%、アジア・太平洋が10%となっており、欧州以外が比較的大きな割合を占めている。
Allianzの生保は、自国のドイツで57%と高いが、ドイツ以外の欧州で26%となっており、米国やアジア・太平洋等も有意な水準となっている(なお、「3―2|Allianz 」で述べるように、法定保険料ベースでは、米国は14%と、ここでの5%よりもかなり高い水準となっている)。
Generaliの生保は、自国のイタリアが36%であるが、イタリア以外の欧州で57%と高くなっている。
Prudentialは自国の英国は35 %で、米国が36%、アジアが28%となっている。
Avivaの場合、自国の英国と英国以外の欧州がそれぞれ4割程度を占め、図表では米国に含まれているカナダ(損保)が1割程度となっている。
Aegonの場合、自国のオランダは1割程度で、オランダ以外の欧州が5割程度、図表では中南米を含んでいる米国が4割程度となっている。
Zurichは自国のスイスは9%で、スイス以外の欧州が生保では62%、損保では31%となっているが、生保において中南米を含むその他が20%と他社とは異なり高くなっている。
ここでは、各社のセグメント情報に基づいて、保険事業に関する保険料と営業利益の地域別内訳を見ている56。
5 地域区分は、基本的に引受会社の所属国に基づいている。
6 2016年の数値算出において、会社によっては、地域別のセグメントの変更や算出方法等の変更を行っているケースもあり、これに伴い、前回の基礎研レポートで報告した2015年の数値を変更している場合もある。
2-1.保険料の状況
まずは、保険料の地域別内訳を見てみる。ここでの保険料の数値には、例えばユニット・リンク等の投資型保険からの収入が反映されていなかったりするが、各社の地域間の分布等を比較するための1つの基準として採用している。
なお、地域別の保険料分布の数値を得るために、Allianz、Prudential及びZurich の保険料については、前ページの図表とは異なるベースの数値を使用している。
(1)2017年の結果
これによれば、各社毎に状況は異なっているが、各社とも自国(親会社国)以外からの保険料が一定の規模を有しており、自国以外での事業が大きな位置付けを有している。各社の地域別の構成比の概要は以下の通りとなっている。
AXAは自国のフランスが27%、その他の欧州が39%、米国が14%、アジア・太平洋が10%となっており、欧州以外が比較的大きな割合を占めている。
Allianzの生保は、自国のドイツで57%と高いが、ドイツ以外の欧州で26%となっており、米国やアジア・太平洋等も有意な水準となっている(なお、「3―2|Allianz 」で述べるように、法定保険料ベースでは、米国は14%と、ここでの5%よりもかなり高い水準となっている)。
Generaliの生保は、自国のイタリアが36%であるが、イタリア以外の欧州で57%と高くなっている。
Prudentialは自国の英国は35 %で、米国が36%、アジアが28%となっている。
Avivaの場合、自国の英国と英国以外の欧州がそれぞれ4割程度を占め、図表では米国に含まれているカナダ(損保)が1割程度となっている。
Aegonの場合、自国のオランダは1割程度で、オランダ以外の欧州が5割程度、図表では中南米を含んでいる米国が4割程度となっている。
Zurichは自国のスイスは9%で、スイス以外の欧州が生保では62%、損保では31%となっているが、生保において中南米を含むその他が20%と他社とは異なり高くなっている。
(2)2016年との比較
保険料の進展が必ずしも収益の拡大に結びつくものではないが、あくまでも参考として2016年との比較を見てみる。
以下の図表より、2016年との比較では、会社によって状況が大きく異なっているが、一般的には、欧州での進展率が低く、米国・カナダでの進展率が高くなっている。2015年は、米ドルがユーロやポンドに対して強くなったという為替レートによる影響で、米国での進展率が高いものとなっていたが、2016年はユーロとの関係では米ドルの為替レートの影響はそれほど大きなものではなかった。2017年は再び米ドルがユーロやポンドに対して強くなった影響もあり、相対的に米国での進展率が高いものとなっている。なお、Brexit(英国のEU離脱)の影響もあり、ポンドがドルに対して弱くなったが、PrudentialもAvivaも自国に加えて、アジア・太平洋地域で、数値を大きく進展させている。
またZurichは、米国・カナダ、アジア・太平洋や中南米で順調に進展させている。
保険料の進展が必ずしも収益の拡大に結びつくものではないが、あくまでも参考として2016年との比較を見てみる。
以下の図表より、2016年との比較では、会社によって状況が大きく異なっているが、一般的には、欧州での進展率が低く、米国・カナダでの進展率が高くなっている。2015年は、米ドルがユーロやポンドに対して強くなったという為替レートによる影響で、米国での進展率が高いものとなっていたが、2016年はユーロとの関係では米ドルの為替レートの影響はそれほど大きなものではなかった。2017年は再び米ドルがユーロやポンドに対して強くなった影響もあり、相対的に米国での進展率が高いものとなっている。なお、Brexit(英国のEU離脱)の影響もあり、ポンドがドルに対して弱くなったが、PrudentialもAvivaも自国に加えて、アジア・太平洋地域で、数値を大きく進展させている。
またZurichは、米国・カナダ、アジア・太平洋や中南米で順調に進展させている。
(2018年05月02日「基礎研レポート」)
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中村 亮一のレポート
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