2018年03月20日

地方公会計制度とその改革~その2 地方公会計制度改革の経緯と課題~

神戸 雄堂

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4――統一的な基準による財務書類の活用状況

最後に、統一的な基準による財務書類の活用状況について確認したい。総務省が公表している「地方公共団体における平成27年度決算に係る財務書類の作成状況等」によると、全地方公共団体1,788団体のうち、作成済の団体は、全団体の65.5%に当たる1,171団体であったが、作成した財務書類を活用している団体は最も多い項目でさえ、全団体の22.4%に当たる401団体に留まった(図表8)。これは、多くの団体が統一的な基準による財務書類の作成に追われ、活用の段階にまで至っていないことを示していると推測される。また、総務省の要請に応じて統一的な基準による財務書類をとりあえず作成したものの、財務書類活用の必要性や効果を十分に認識できておらず、模索している段階であるとも考えられる。

団体の区分で見ると、市場公募債の説明会における活用など指定都市を除く市町村の割合が低いのはやむを得ない項目はあるものの、全体的に都道府県や政令指定都市と比べて指定都市を除く市町村の割合が低い傾向が見られる。これは、規模の小さい市区町村ほど、統一的な基準による地方公会計を理解し、活用できるだけの人材もしくはアウトソースするだけの財政余力が不足していることに起因していると推測される。

さらに、活用方法を財務会計(外部の利害関係者に対して活動の成果や財政状況について報告することを目的とした会計)に準ずる活用方法と管理会計(内部の意思決定者に対して意思決定に役立つ会計情報を提供することを目的とした会計)に準ずる活用方法に分類すると、管理会計に準ずる活用方法は最も割合が高い項目でさえ、10.9%と全体的に低い水準に留まっている。これは、自主的な取組が必要となる管理会計に対して、外部からの要請に応じて対応する財務会計を優先的に対応していることが考えられる。また、従来から財務会計に準ずる活用が比較的行われてきたのに対して、管理会計に準ずる活用方法については行ってきた団体数が限られているため、活用ノウハウがなく、活用に苦悩している団体が多いのではないかと推測される。
(図表8)2015年度決算に係る財務書類の活用状況
このように、統一的な基準による財務書類の作成自体は着実に進んでいるものの、本来の目的である公会計の活用にまでは至っていない団体が多くなっている。しかし、先進的な団体の事例紹介、マニュアルの整備等活用推進の取組が随時なされていることから、公会計活用の必要性や効果が認識されるにしたがって、活用は進んでいくと予想される。今後は、住民が関心をもって閲覧し、かつ内容をきちんと理解できる財務書類をいかに提供していくかが課題であろう。引き続き公会計の活用状況について注視したい。
(参考文献)
宮澤 正泰(2017)『自治体議員が知っておくべき 新地方公会計の基礎知識』第一法規。
有限責任監査法人 トーマツ(2017)『一番やさしい公会計の本(第1次改訂版3刷)』学陽書房。
 
 

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(2018年03月20日「基礎研レター」)

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