2017年12月28日

先進国の国債等の保有構造について~IMF先行研究に基づく推計結果~

神戸 雄堂

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4――IMFの先行研究に基づく、先進国における国債等の保有構造の推計結果

筆者はIMFの先行研究の方法論に基づき、先進国6ヵ国(日本、米国、英国、カナダ、ドイツ、ギリシャ)の国債等における海外保有比率および各投資家グループの保有比率について、2004年第1四半期から2016年第4四半期までの推計を行った。当節では、その推計結果を見ていく。
(図表6)海外保有比率の推移 【海外保有比率】
まず、国によって海外保有比率の水準は大きく異なっている(図表6)。海外保有比率の水準に影響を与える要因として、財政収支と経常収支が考えられる。貯蓄・投資バランスに即して考えると、財政収支が赤字、すなわち政府部門の貯蓄・投資バランスがマイナスの場合、政府は国債の発行等によって資金を調達する。この際、経常収支が赤字、すなわち家計・企業・政府各部門の貯蓄・投資バランスの合計がマイナスとなっている場合、国内だけでは賄うことができないため、海外資金に依存せざるを得ない。
(図表7)経常収支と海外保有比率 各国の一般政府の財政収支は、一部の国の一部の期間を除き赤字となっている7。一方で、経常収支は日本とドイツが恒常的に黒字、米国、英国が恒常的に赤字となっている。したがって、日本とドイツは必ずしも海外資金に依存する必要がないのに対して、米国と英国はいわゆる双子の赤字8に陥っているため、海外資金に依存せざるを得ない。これは日本の海外保有比率が米国や英国と比べて低い一因であろう。しかし、ドイツは米国や英国より海外保有比率が高くなっている。これは、ユーロ圏では為替リスクがないため、ユーロ圏内での持ち合いが進み、海外投資家(ユーロ圏における他国の投資家)の保有が進んだ結果と考えられる9(図表7)。

海外保有比率の推移に注目すると、全体的に対象期間を通じて上昇しているが、主要先進国とギリシャでは違った傾向が見られる。主要先進国では期間を通じて緩やかに上昇しているのに対して、ギリシャでは2009年半ばから11年半ばにかけて大きく低下している。これは欧州債務危機時に、ギリシャにおいて財政の持続性への懸念が高まると、海外投資家が国債等を売却し、海外保有比率が低下したものである。
 
7 黒字の国とその期間はカナダ(2004-08)、ドイツ(2007、14-16)、ギリシャ(2016)。
8 財政収支と経常収支がともに赤字となっている状態。
9 なお、ドイツの国債を同じユーロ圏の国の投資家が保有している場合も海外保有とみなしているが、同じ海外投資家の保有であっても、日本の国債を米国の投資家が保有している場合とは、安定性に与える影響が異なると考えられるため、その点には留意が必要であろう。また、同じユーロ圏の国債であっても、ドイツの国債を同じユーロ圏のフランスの投資家が保有している場合とギリシャの国債をフランスの投資家が保有している場合とでは意味合いが異なると考えられる。
【各国の国債等における保有構造(投資家グループ別の保有比率)】
図表8は各国の国債等における投資家グループ別の保有比率の推移である。図表8をもとに各国の保有構造の特徴と保有比率の推移について解説したい。
(図表8)各国の国債等における投資家グループ別の保有比率の推移
【日本】
日本の国債等残高の名目GDP比は恒常的な財政赤字と名目GDPの伸び悩みによって、上昇が続き、2016年には250%近い水準にまで達している。特に、2008年と09年は名目GDP比の対前年マイナス成長の影響もあって急速に上昇した。しかし、足元では名目GDPと財政収支の改善によって伸びは鈍化している(図表9)。

国内部門では、日銀が異次元緩和による国債購入の大幅な増額を開始した2013年4月以前は、国債等の保有比率は銀行が約35%、非銀行部門が約50%と大半を国内の2グループで保有してきた。日本の家計金融資産の大半が現預金(約50%)や保険・年金等(約30%)の非リスク資産で保有されているうえ、民間非金融法人企業も現預金の保有額が比較的大きい。また、銀行等の預貸比率(預金に対する貸出の割合)が他国と比べて低く、銀行等の保有資産のうち証券の割合が高くなっている。すなわち、預金や保険・年金等を通じて国債等を大量に保有している銀行や保険会社の保有比率が高くなっている。しかし、2013年4月以降は銀行と非銀行部門の保有比率が低下したのに対して、中央銀行の保有比率は上昇し、足元では約40%まで達している。

海外部門に関しては、恒常的な経常黒字と安定的に国債を保有する国内金融機関の存在によって、必ずしも海外投資家に依存する必要がないため、国債等の海外保有比率は約10%と他国と比べて低い。しかし、海外保有比率は上昇こそ緩やかであるものの、2016年(約10%)は2004年(約3%)の約3倍まで上昇している。また、海外保有の残高ベースも同期間の比較で約5倍まで増加している。
(図表9)国債等残高対名目GDP比の推移/投資家グループ別の保有比率の推移
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