2017年05月22日

Brexitを踏まえた保険会社の拠点移転等を巡る動きについて-英国のパスポート権の喪失を見据えた保険会社及び監督当局の対応-

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5―保険会社の動向

保険会社の中で、これまで具体的に、欧州事業の拠点を英国から他のEU加盟国の都市に移転する意向を公表している会社もあるので、この章では、そうした会社について報告する。

1|AIGは、ルクセンブルグに保険会社を設立
AIGは、2017年3月8日にプレス・リリース5を行って、「ルクセンブルグに保険会社を設立し、英国がEUを離脱しても、この保険会社を通じて、EUとスイスへの継続的なアクセスを確保する。」との計画を公表した。

AIGは、現在、英国を拠点とするAIG Europeから、EEAとスイスに支店を開設することで、欧州での事業を展開している。今回の計画によれば、規制当局の承認を得て、2019年から、(1)英国の事業を行う英国の会社、(2)EEAとスイスの契約を各管轄地域における支店から引き受けるルクセンブルグの会社、の2つの子会社を持つことになる。

なお、AIGは、英国から、欧州事業を引き続き支援する、としている。

AIG EuropeのCEOの Anthony Baldwin氏は、「これは、EUからの英国の離脱が最終的にどのような形になろうとも、AIGが市場展開を推進していくことを確実にするための決定的な動きである。AIGは、英国保険市場の継続的な耐性力に好機を見い出している。ルクセンブルクの会社は、既存の構造を補完し、単一の欧州モジュールの一部となる。」と述べた。

また、ルクセンブルグを志向している理由について、「EUの創設メンバーであるルクセンブルグは、我々の主要市場の多くに近い欧州大陸において、豊富な経験と尊敬される監督当局を有する安定した経済で堅固なロケーションを提供している。」と述べた。

AIGは、2016年の段階では、ダブリンを含む5つの都市を候補地として検討していると述べていた。AIGは5年前にグループの拠点をパリからロンドンに移転し、資本の集約や単一の規制当局による恩恵を享受していた。
 

017年3月8日
AIGは、ルクセンブルクの保険会社を設立、英国本部を維持しながらEEAとスイスに事業展開

アメリカン・インターナショナル・グループ(NYSE:AIG)は、英国がEUを離脱した場合に、EEAとスイスにおけるビジネスの円滑な運営を継続することを確実にするために、ルクセンブルグに保険会社を設立する計画を発表した。

2019年から、AIGは欧州に2つ、1つは英国の契約を引き受けるために英国に、1つはEEAとスイスに支店を持ちEEAとスイスの契約を引き受けるためにルクセンブルグに、の保険子会社を設立することを計画している。AIGは現在、EEAとスイスに支店を持ち、英国に本拠を置く単一の保険会社であるAIG Europe Limitedから欧州の契約を引き受けている。英国は欧州におけるAIGの最大の単一事業である。AIGは、AIGが投資と成長を続ける中核市場である英国から、欧州事業を支援し続ける。

AIG EuropeのCEOのAnthony Baldwin 氏は、次のように述べている。

「これは、EUからの英国の離脱が最終的にどのような形になろうとも、AIGが市場展開を推進していくことを確実にするための決定的な動きである。AIGは、英国保険市場の継続的な耐性力に好機を見い出している。同時に、私たちは、お客様とパートナーが英国のEU離脱から何の混乱も経験しないようにしている。当社のルクセンブルクの会社は、既存の構造を補完するものであり、当社の単一の欧州モジュールの一部となる。」
EUの創設メンバーであるルクセンブルグは、我々の主要市場の多くに近い欧州大陸において、豊富な経験と尊敬される監督当局を有する安定した経済で堅固なロケーションを提供している。

提案された再編は、規制当局の承認を条件として、2019年第1四半期に完了する予定である。

2|QBEは、欧州本部をロンドンから他のEU加盟国に移転
QBEは、オーストラリア最大のグローバルな保険会社であり、オーストラリア、米国、欧州及びアジア・太平洋の37カ国で事業展開しており、世界のトップクラスの損害保険会社である。

QBEのMarston Becker会長は、2017年5月3日に開催された年次株主総会において、新たな拠点の候補地を明らかにすることはせずに、Brexit後の他のEU加盟国への市場アクセス権を維持するために、欧州本部をロンドンから他のEU加盟国に移転する計画があることを表明6した。

QBEの2016年の保険料総額144億ドルのうちの40億ドルが、英国を含むEU地域からのものであった。
 

2017年5月3日
会長声明

Brexitの英国経済への影響は、第50条が発動されていることから、英国がその出口を正式化するための2年間の期間が現在進行中であることが明らかになるまでに時間がかかるだろう。 この現実のために事業を準備する必要がある。また、英国の保険会社が他のEU27カ国で享受していた既存のアクセス権は維持されないと仮定している。 これは、我々のLloyd’s の事業に加えて、QIELとQBE Reに影響を与える。Lloyd’s の事業にはLloyd’sによって導入される別のBrexit対応計画が適用されることになる。

EU事業の新しい拠点の設立についての私たちの計画と交渉は十分に進捗しており、2018年の更新に向けての解決策があると想定している、と報告できることを嬉しく思っている。

3|Hiscoxは、ルクセンブルグに子会社を設立
Hiscoxは、バミューダに本店をおき、ロンドン市場に上場している保険会社であり、主に市場のニッチな分野を専門とし、企業や高額資産家を対象とした損害保険を提供し、ハッキング、誘拐、サテライト被害などのリスクをカバーしている。 会社はFTSE 250インデックスの構成会社である。

Hiscoxは2017年5月9日に行われたその第1四半期の業績発表において、「Brexitに対してEU子会社をルクセンブルグに設立し、コンプライアンス、リスク、内部監査などのコア機能を担うチームを募集し、既存の組織を補完する。」ことを公表7した。

ルクセンブルグを選択した理由について、「ルクセンブルクは、プロビジネスの立場、強力な金融サービスの経験、そして高い評価を得ている規制当局のため選ばれ、多くの主要市場に近接している。」と説明している。
 

2017年5月9日
EU子会社

今日我々はBrexitに対応して、ルクセンブルクに新しい欧州子会社を設立することを発表する。 欧州におけるHiscoxのリテール事業は全て、この新しいEU子会社を通じて行われる。 EU 27カ国のうち7カ国に350人を超える既存の欧州事業は、引き続き中断することなく運営される。 ルクセンブルクでは、コンプライアンス、リスク、内部監査などのコア機能を担うチームを募集し、既存の組織を補完する。

設立のプロセスはすぐに始まる。 規制当局の承認を条件として、2019年3月より前倒しで、顧客、ブローカー、ビジネスパートナーのスムーズな移行を確実なものにするため、リストラを完了する予定である。

ルクセンブルクは、プロビジネスの立場、強力な金融サービスの経験、そして高い評価を得ている規制当局のため選ばれ、多くの主要市場に近接している。

4|Markelは、ミュンヘンに子会社を設立
Markel は、米国ヴァージニア州リッチモンドに本店がある保険会社であるが、専門的な保険商品を販売し、多様なニッチ市場で事業展開する金融持株会社である。

Markelは、2017年5月18日に、「Brexitの交渉結果がどのようなものであれ、MarkelがEU27カ国の顧客の保険ニーズを満たすことができることを確実にするために、ミュンヘンにドイツの保険会社を設立する計画である。」ことを公表8した。

これによると、Brexit交渉終了予定の2019年3月29日までに、新保険会社を設立し、資本化する予定である。Markelは、現在、完全所有子会社のMarkel Internationalを通じて、ロンドン・ベースのプラットフォームおよび世界中の支店からグローバルに事業展開しており、Markel Internationalは、2012年からミュンヘン支店を通じてドイツで事業を行っている。

Markel Internationalの社長、William Stovin氏は、「これは我々にとって重要な戦略的進展である。ロイズ・シンジケートを通じて国際的なビジネスを引き受けていく一方で、欧州の国内市場ビジネスの強力な基盤を築き上げたい。ドイツで保険会社を設立することで、これを実現し、欧州大陸での他の機会を追求する柔軟性を得ることができる。」と述べた。
 

2017年5月18日
Markelは、EU27カ国の成長戦略を支援するために、ミュンヘンにドイツの保険会社を設立する計画である。

Markel Corporation(NYSE:MKL)は、Brexit交渉の結果がどのようなものであれ、Markel保険会社がEU27カ国の顧客の保険ニーズを満たすことができることを確実にするために、ドイツ連邦金融監督当局BaFinとの協議の後、ドイツの保険会社を設立するための規制当局への承認申請を予定している、ことを本日公表した。

規制当局の承認を条件として、Markelは、2018年上半期まで、いかなる場合においてもBrexit交渉終了まで、延長されない限り、2019年3月29日の締結期限までに、新保険会社を設立し、資本化する予定である。

Markelは、完全所有子会社のMarkel Internationalを通じて、現在、ロンドン・ベースのプラットフォームおよび世界中の支店を通じて、グローバルに事業展開している。2012年以来、Markel Internationalは、新しい会社の基礎となるミュンヘンの支店を通じて、ドイツで事業を行っている。

Markelの共同CEOのRichard R. Whitt氏は、次のように述べている。「私たちは、グローバルなビジネスの構築と拡大に注力している。つまり、欧州大陸事業の収益成長戦略に尽力している。ドイツに新しい保険会社を設立することは、Markelの能力を向上させるだろう。」

Markel Internationalの社長、William Stovin氏は、次のように述べている
。「これは我々にとって重要な戦略的進展である。ロイズ・シンジケートを通じて国際的なビジネスを引き受けていく一方で、欧州の国内市場ビジネスの強力な基盤を築き上げたい。ドイツで保険会社を設立することで、これを実現し、欧州大陸での他の機会を追求する柔軟性を得ることができる。」

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中村 亮一

研究・専門分野

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