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2017年04月26日
欧州大手保険グループの2016年決算状況について(2)-低金利環境下での各社の生命保険事業の地域別の業績や収益状況はどうだったのか-
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4|日本の生命保険会社への示唆
(1)海外事業展開
昨今、日本の生命保険会社も、アジアでの事業展開に加えて、米国や豪州の会社の買収等を通じて、先進国も含めた海外での保険事業の展開を積極化させてきている。ただし、欧州大手保険グループが以前からより積極的に海外事業展開に取り組んできたことに比べれば、日本の生命保険会社の海外事業展開やそのグループの中におけるプレゼンスは、まだまだ高いといえる状況にはない。日本の大手各社が公表している経営計画等によれば、今後海外事業からの収益を拡大していく方向性が示されてきている。この際、グループでのガバナンスやリスク管理、有効な資本政策のあり方等いろいろな意味で、欧州の大手保険グループの先行的な事例に学ぶべきことは多いものと考えられる。
ただし、欧州大手保険グループの海外事業戦略においては、一方的に事業地域の拡大を図るだけではなく、各国の保険市場の特性等を分析する中で、収益状況や成長可能性等を見極めながら、コア事業となりうるものに集中し、コアでない市場からは速やかに撤退する等の方針が明確に示され、実際にその方針が実行されてきている、単純な規模やプレゼンスの拡大を目指して、グローバル展開を進めるのではなく、自社の強みを十分に認識した上で適時適切な判断を行っていくことがより重要になってきているといえる。特に、最近の(保険会社ということではないが)日本企業による買収事例において、多額の減損を行うケースが見られていることは、既存保険会社の買収を通じて海外事業を展開していく場合において、買収に伴うプレミアムに見合うリターンをいかに獲得していくのかについての会社の方針・戦略を明確化していくことの重要性を再認識させられているものと思われる。
(2)低金利環境への対応
低金利環境については、日本の生命保険会社が先行的に長期にわたって経験している状況であるが、欧州大手保険グループは、日本における先例も参考にしながら、そうした環境への対応を進めてきている。
例えば、ソルベンシーIIという新たな規制への対応という観点も踏まえて、総合的なリスク管理を推進する中で、利率保証を限定した商品へのシフトやデュレーション・マッチングを推進することにより、逆ざやリスクや金利リスクの抑制を行い、必要資本の効率化への対応を着実に図ってきている。
これにより、少なくとも欧州の大手保険グループについては、現在のような低金利環境下においても、適正な投資マージンを確保できる資産・負債ポートフォリオを構築してきている。
日本の生命保険会社は、欧州以上の長期かつ超低金利環境を経験している。従って、欧州の大手保険グループがこれまで進めてきたような対策を現時点で推進することが必ずしも現在の日本において適切だとは考えられないかもしれない。例えば、現在のような状況下では、マッチングを進めることで現時点で将来の逆ザヤを固定するのではなく、将来の金利上昇の機会に備えるために、デュレーション・ギャップを一定維持することも適切な判断かもしれない。
負債サイドの保障・医療商品へのシフトについては、日本の生命保険会社によって以前から追求されてきたことであり、この分野においては、ある意味で欧州の保険会社以上に進展しているといえる。今回の標準利率の0.25%への引き下げに伴う各社の商品価格戦略は、来年度に予定されている標準死亡率の引き下げと相まって、保障・医療商品や年金・貯蓄商品というプロダクトミックスを考える中で、それぞれの商品特性等に対応して、非常に難しい判断を迫られた結果であることが窺い知れる。いずれにしても、こうした判断はそれに伴う各種のリスクや中長期的な収益性等の幅広い影響も総合的に判断した上でのものとなっているようである。
こうした判断は、欧州の大手保険グループでも行われているものであり、昨今のような環境下での保険会社や保険契約者さらには社会にとって適切な商品・価格設定はどうあるべきかが問われているものと思われる。
(3)新たな経済価値ベースのソルベンシー規制への対応
日本における経済価値ソルベンシー規制等が今後どのような形で進展していくのかについては、現段階では不透明であるが、国際的な資本基準や会計基準の設定とそれらを日本が基本的には採択していくことを前提にするならば、経済価値ベースの評価の拡大を踏まえた上での対応が、より一層求められてくることになる。
ただし、規制を過度に意識するあまり、リスクを回避し、収益の機会を失ってしまうことは適切ではない。真の意味での保険契約者保護を達成していくためには、保険会社も監督当局も幅広く各種の要素を考慮した上での対応が必要になってきている。昨今の欧州や米国での規制を巡る各種の動向は、こうした考え方を反映したものとなっているものと思われる。日本の保険会社は、こうした世界における監督規制の動向及びそれらを通じての日本の監督規制への影響も踏まえつつ、会社の戦略を構築していくことが求められてきている。
以上、ここまで、2016年における欧州大手保険グループの海外事業展開、低金利環境への対応、各種規制への対応等の状況を報告するとともに、これらを踏まえての日本の生命保険会社にとっての示唆について考えてきた。
欧州大手保険グループは、ある意味、最も先駆的にこれらの課題に取り組んできていることから、今後もこうした会社の戦略や方針は、今後のグローバル展開を考えていく日本の生命保険会社にとって、いろいろな点で大変参考になるものがあると思われる。
今後とも、その動向については引き続き注視していくこととしたい。
(1)海外事業展開
昨今、日本の生命保険会社も、アジアでの事業展開に加えて、米国や豪州の会社の買収等を通じて、先進国も含めた海外での保険事業の展開を積極化させてきている。ただし、欧州大手保険グループが以前からより積極的に海外事業展開に取り組んできたことに比べれば、日本の生命保険会社の海外事業展開やそのグループの中におけるプレゼンスは、まだまだ高いといえる状況にはない。日本の大手各社が公表している経営計画等によれば、今後海外事業からの収益を拡大していく方向性が示されてきている。この際、グループでのガバナンスやリスク管理、有効な資本政策のあり方等いろいろな意味で、欧州の大手保険グループの先行的な事例に学ぶべきことは多いものと考えられる。
ただし、欧州大手保険グループの海外事業戦略においては、一方的に事業地域の拡大を図るだけではなく、各国の保険市場の特性等を分析する中で、収益状況や成長可能性等を見極めながら、コア事業となりうるものに集中し、コアでない市場からは速やかに撤退する等の方針が明確に示され、実際にその方針が実行されてきている、単純な規模やプレゼンスの拡大を目指して、グローバル展開を進めるのではなく、自社の強みを十分に認識した上で適時適切な判断を行っていくことがより重要になってきているといえる。特に、最近の(保険会社ということではないが)日本企業による買収事例において、多額の減損を行うケースが見られていることは、既存保険会社の買収を通じて海外事業を展開していく場合において、買収に伴うプレミアムに見合うリターンをいかに獲得していくのかについての会社の方針・戦略を明確化していくことの重要性を再認識させられているものと思われる。
(2)低金利環境への対応
低金利環境については、日本の生命保険会社が先行的に長期にわたって経験している状況であるが、欧州大手保険グループは、日本における先例も参考にしながら、そうした環境への対応を進めてきている。
例えば、ソルベンシーIIという新たな規制への対応という観点も踏まえて、総合的なリスク管理を推進する中で、利率保証を限定した商品へのシフトやデュレーション・マッチングを推進することにより、逆ざやリスクや金利リスクの抑制を行い、必要資本の効率化への対応を着実に図ってきている。
これにより、少なくとも欧州の大手保険グループについては、現在のような低金利環境下においても、適正な投資マージンを確保できる資産・負債ポートフォリオを構築してきている。
日本の生命保険会社は、欧州以上の長期かつ超低金利環境を経験している。従って、欧州の大手保険グループがこれまで進めてきたような対策を現時点で推進することが必ずしも現在の日本において適切だとは考えられないかもしれない。例えば、現在のような状況下では、マッチングを進めることで現時点で将来の逆ザヤを固定するのではなく、将来の金利上昇の機会に備えるために、デュレーション・ギャップを一定維持することも適切な判断かもしれない。
負債サイドの保障・医療商品へのシフトについては、日本の生命保険会社によって以前から追求されてきたことであり、この分野においては、ある意味で欧州の保険会社以上に進展しているといえる。今回の標準利率の0.25%への引き下げに伴う各社の商品価格戦略は、来年度に予定されている標準死亡率の引き下げと相まって、保障・医療商品や年金・貯蓄商品というプロダクトミックスを考える中で、それぞれの商品特性等に対応して、非常に難しい判断を迫られた結果であることが窺い知れる。いずれにしても、こうした判断はそれに伴う各種のリスクや中長期的な収益性等の幅広い影響も総合的に判断した上でのものとなっているようである。
こうした判断は、欧州の大手保険グループでも行われているものであり、昨今のような環境下での保険会社や保険契約者さらには社会にとって適切な商品・価格設定はどうあるべきかが問われているものと思われる。
(3)新たな経済価値ベースのソルベンシー規制への対応
日本における経済価値ソルベンシー規制等が今後どのような形で進展していくのかについては、現段階では不透明であるが、国際的な資本基準や会計基準の設定とそれらを日本が基本的には採択していくことを前提にするならば、経済価値ベースの評価の拡大を踏まえた上での対応が、より一層求められてくることになる。
ただし、規制を過度に意識するあまり、リスクを回避し、収益の機会を失ってしまうことは適切ではない。真の意味での保険契約者保護を達成していくためには、保険会社も監督当局も幅広く各種の要素を考慮した上での対応が必要になってきている。昨今の欧州や米国での規制を巡る各種の動向は、こうした考え方を反映したものとなっているものと思われる。日本の保険会社は、こうした世界における監督規制の動向及びそれらを通じての日本の監督規制への影響も踏まえつつ、会社の戦略を構築していくことが求められてきている。
以上、ここまで、2016年における欧州大手保険グループの海外事業展開、低金利環境への対応、各種規制への対応等の状況を報告するとともに、これらを踏まえての日本の生命保険会社にとっての示唆について考えてきた。
欧州大手保険グループは、ある意味、最も先駆的にこれらの課題に取り組んできていることから、今後もこうした会社の戦略や方針は、今後のグローバル展開を考えていく日本の生命保険会社にとって、いろいろな点で大変参考になるものがあると思われる。
今後とも、その動向については引き続き注視していくこととしたい。
(2017年04月26日「基礎研レポート」)
中村 亮一のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
---|---|---|---|
2025/05/02 | 曲線にはどんな種類があって、どう社会に役立っているのか(その11)-螺旋と渦巻の実例- | 中村 亮一 | 研究員の眼 |
2025/04/25 | 欧州大手保険グループの2024年の生命保険新契約業績-商品タイプ別・地域別の販売動向・収益性の状況- | 中村 亮一 | 基礎研レポート |
2025/04/14 | 欧州大手保険グループの地域別の事業展開状況-2024年決算数値等に基づく現状分析- | 中村 亮一 | 基礎研レポート |
2025/04/01 | 欧州大手保険グループの2024年末SCR比率等の状況-ソルベンシーII等に基づく数値結果報告と資本管理等に関係するトピック- | 中村 亮一 | 基礎研レポート |
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