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2017年度の年金額は、名目-0.1%、実質±0.0%、実質的には+1.0%-年金改定率の3つの見方と、新旧改定ルールの再確認

保険研究部 主席研究員・年金総合リサーチセンター 公的年金調査部長 兼任 中嶋 邦夫
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ここまで見てきたとおり、2017年度の改定では本則のルールと年金財政健全化のための調整ルールの双方において、特例が適用されました。
再掲すると、本則のルールにおいては、賃金上昇率(▲1.1%)よりも物価上昇率(▲0.1%)が高くかつ双方ともマイナスであったため、新しく受け取り始める年金の改定率も受け取り始めた後の年金の改定率も物価上昇率(▲0.1%)になりました。この特例の適用は、年金財政の支出である給付費の伸びが、主な収入である保険料の伸びを上回る方向に働くため、年金財政のバランスを悪化させる要因になります10。また、年金財政健全化のための調整ルールにおいては、本則の改定率(▲0.1%)がマイナスであったため、年金財政健全化のための調整率(マクロ経済スライドのスライド調整率。▲0.5%)が適用されず、調整率後の改定率は本則の改定率と同じ▲0.1%となりました。ここにおいても、年金財政健全化のための調整が行われなかったため、年金財政のバランスが悪化する方向に働きます。このように、2017年度の改定では、2つの特例によって年金財政に悪影響を与えることになりました。
このように特例が適用されて年金財政のバランスが悪化する方向に働くと、将来の給付水準が低下する可能性が高まります。現在の年金財政は、財政健全化のための調整(マクロ経済スライド)をいつまで適用するかを調整して、財政のバランスを取る仕組みになっています。このため、特例が適用されて年金財政のバランスが悪化する方向に働くと、財政健全化のための調整(マクロ経済スライド)を適用する期間の長期化が必要となり、調整(マクロ経済スライド)終了以降の年金の給付水準(所得代替率)が低下することになります(図表11)11。
(資料) 社会保障審議会年金部会(2016年3月14日)参考資料 (p.8)。
(資料) 社会保障審議会年金部会(2016年3月14日)参考資料 (p.8)。
10 このことは、給付水準の指標である所得代替率を使っても説明でき、政府はこの方法で説明しています。このケースにおける所得代替率は、分子(年金額)の伸びが分母(現役の賃金)の伸びを上回るため、上昇することになります。そうすると予定よりも給付費が必要になるため、年金財政のバランスが悪化する要因になります(図表10)。
11 経済や人口の動向によっても財政健全化のための調整期間は変動するため、年金額改定の特例が適用されたことによって将来の給付水準が必ず低下するわけではありません。しかし、経済や人口の動向が見込みどおりであれば、年金額改定の特例の適用によって将来の給付水準が低下します。
3 ―― 新しい改定ルール:特例措置を見直し、年金財政の悪化を抑制
1|見直しの背景
先ほど見たように、2017年度の年金額改定では本則の改定ルールと財政健全化のための調整ルール(マクロ経済スライド)の双方で特例措置に該当し、年金財政に悪影響を与えることになりました。
このように特例措置に該当する状況は、2017年度に限りません。本則の改定では、2006年度以降はずっと特例(図表4のパターン④~⑥)に該当しており、特に年金財政に悪影響を与えるパターン(図表4のパターン⑤と⑥)が多くなっています(図表12)。財政健全化のための調整(マクロ経済スライド)では、初実施となった2015年度に原則に該当しましたが、その背景には2014年4月に消費税の税率が引き上げられた影響で物価上昇率が高めだった、という特殊事情がありました。2014年度以前に財政健全化のための調整(マクロ経済スライド)が実施されていたと仮定した場合には、特例に該当して年金財政に悪影響を与えるパターンが多くなっていたと想定されますし(図表12のグレーの部分)、2度目の適用機会だった2016年度にも特例に該当して財政健全化のための調整(マクロ経済スライド)は稼働しませんでした(図表12)。
これらの特例がたまに起こるのであれば大きな問題はありませんが、これまではほとんどの年度で特例に該当しました。このため年金財政への悪影響が積み重なっており、また将来に向けても同じ状況が繰り返される懸念があるため13、見直されることになりました。
12 同国会ではこの法案とは別に、年金の受給資格を得るために必要な保険料の納付期間(受給資格期間)を25年から10年に短縮する国民年金法等改正案(いわゆる改正年金機能強化法案。2016年9月26日国会提出)が審議され、成立しました。
13 2014年に公表された政府の将来見通し(財政検証)では、財政健全化のための調整(マクロ経済スライド)の特例に該当しない経済状況を基本としつつ、物価の変動を仮定し、特例に該当して将来の給付水準が低下するケースも試算されました。ただ、野党から「年金カット」と指摘された本則改定の特例に該当するケースは、この見通しに含まれていませんでした。
(2017年02月17日「基礎研レポート」)
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03-3512-1859
- 【職歴】
1995年 日本生命保険相互会社入社
2001年 日本経済研究センター(委託研究生)
2002年 ニッセイ基礎研究所(現在に至る)
(2007年 東洋大学大学院経済学研究科博士後期課程修了)
【社外委員等】
・厚生労働省 年金局 年金調査員 (2010~2011年度)
・参議院 厚生労働委員会調査室 客員調査員 (2011~2012年度)
・厚生労働省 ねんきん定期便・ねんきんネット・年金通帳等に関する検討会 委員 (2011年度)
・生命保険経営学会 編集委員 (2014年~)
・国家公務員共済組合連合会 資産運用委員会 委員 (2023年度~)
【加入団体等】
・生活経済学会、日本財政学会、ほか
・博士(経済学)
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