2017年01月17日

EUと米国の間の再保険規制を巡る交渉はどうなったのか-カバード・アグリーメントをついに締結へ-

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2|今回のカバード・アグリーメントの概要
今回のカバード・アグリーメントは、健全性保険監督の3つの分野、(1)再保険、(2)グループの監督、(3)監督者間の保険情報の交換、をカバーしている。

「(1)再保険」に関しては、消費者保護が強化され、EU及び米国の市場で事業を展開するEU及び米国の再保険会社に対する担保及び現地のプレゼンス要件の廃止につながることになる。

「(2)グループの監督」に関しては、米国とEUの保険会社は、自国の管轄地域の監督者による世界的な健全性保険グループの監督のみの対象となり、米国及びEUのそれぞれの監督当局の自国の監督の優位性が保持されることになる。ただし、各監督者は、その監督領域における保険契約者の利益や金融の安定性を損なう可能性のある世界的な活動についての情報を要求し入手する資格は保持する。

「(3)監督者間の保険情報の交換」に関しては、米国とEUの保険監督当局は、米国及びEU市場で活動する保険会社及び再保険会社に関する監督情報を引き続き交換することを奨励し、このような情報交換を支援するためのモデル覚書の規定を含めている。
3|今後のプロセス
米国では、ドッド・フランク法に従って、2017年1月13日に議会に提出され、協議にかけられる。特段の問題が無ければ、90日後に発効することになる。

一方で、EUにおいても、本合意に署名し正式に締結するために、欧州理事会と欧州議会の関与及び欧州連合の機能に関する条約に関連する必要な措置に従うことになる。 

(参考1)米国財務省のプレス・リリース3
米国財務省は、今回のカバード・アグリーメントの締結に関して、以下のプレス・リリースを行っている。

この中で、Jacob J.Lew財務長官は「カバード・アグリーメントは、米国の保険消費者の保護を強化し、米国の保険会社と再保険会社の機会を増やす。米国とEU双方の利益を最大限に享受する協定を締結したことを歓迎する。」と述べている。
 

財務省、USTRが欧州連合との契約を首尾よく締結

2017年1月13日
ワシントン

米財務省と米国貿易代表部(USTR)は本日、欧州連合(EU)との合意に向けた交渉の成功を発表した。ドッド・フランク・ウォールス街改革・消費者保護法のTitle Vの下で、財務長官は、連邦保険局(FIO)とUSTRを通じて、1つ以上の外国政府、当局または規制機関と、共同でカバード・アグリーメントを交渉する権限が与えられている。

カバード・アグリーメントとは、米国と1つ以上の外国政府、当局または規制当局との間での、保険又は再保険に関する健全性措置に関しての合意である。財務省は、FIOの2013年報告書である「米国における保険規制システムの現代化と改善の方法」において、公に、カバード・アグリーメントを要求した。

財務長官のJacob J. Lew氏は「カバード・アグリーメントは、米国の保険消費者の保護を強化し、米国の保険会社と再保険会社の機会を増やす。」「米国とEU双方の利益を最大限に享受する協定を締結したことを歓迎する。」と述べた。

「米国とEUは、米国の保険会社と再保険会社の不確実性を解決するこの合意を締結することができたことを喜ばしく思う。この合意は、米国及びEUの消費者に対する高い保護基準を引き続き確保しながら、米国の保険会社及び再保険会社がEUで事業を行う機会を提供する。」と語った。

ドッド・フランク法は、カバード・アグリーメントに関して、財務省とUSTRが共同で、下院金融サービス委員会、下院歳入委員会、上院銀行住宅都市委員会、上院財政委員会に相談を諮ることを要求している 。

財務省とUSTRは本日、4つの委員会のそれぞれに、カバード・アグリーメント交渉が完了したことを伝えるレターを送った。

(参考2)米国財務省とUSTRから米国議会委員会宛のレター 2
Jacob J.Lew財務長官とMichael B.G.Froman米国通商代表から、下院金融サービス委員会、下院歳入委員会、上院銀行住宅都市委員会、上院財政委員会の4つの議会の委員長に宛てられたレターは、以下のとおりである。
 

米国を代理して欧州連合(EU)との協定を交渉していることを伝えるために書いている。カバード・アグリーメントは、米国の保険監督制度を確認し、保険消費者を保護し、米国の保険会社及び再保険会社に有意義な利益をもたらす。 カバード・アグリーメントは、監督当局間のグループ監督、再保険及び情報交換の3つの健全性保険監督の分野について取り扱っている。

31 U.S.C. §314(合衆国法典第31巻第314条)に従って、連邦保険局(FIO)の2010年法は、財務長官(米国財務省)と米国貿易代表部(USTR)が共同で、1つ以上の外国政府、当局、規制当局とのカバード・アグリーメントを交渉することを認めている。カバード・アグリーメントは、「保険または再保険事業に関する健全性措置に関する書面による二国間または多国間の合意」である。

財務省とUSTRは、2015年11月20日、FIOとUSTRがEUとの共同交渉を開始することを議会に通知した。これらの交渉は2016年2月に始まり、2017年1月に締結された。EUと米国は、カバード・アグリーメントの付属文書が米国とEUの間で交渉される最終的な法的文書であることに書面で合意した。

従って、我々は交渉を締結し、2010年のFIO法の規定に従って、合意の最終的な法的文書を提供していることをお知らせすることを嬉しく思っている。

 

4―交渉当事者以外の監督当局の反応

4―交渉当事者以外の監督当局の反応

1|EIOPA(欧州保険年金監督局)
EIOPAは、以下の声明を公表して、今回の保険及び再保険措置に関するEU-U.Sカバード・アグリーメントを歓迎する、としている。
 

EIOPAは、保険及び再保険措置に関するEU-U.Sカバード・アグリーメントを歓迎する。

フランクフルト、2017年1月13日

欧州保険年金監督局(EIOPA)は、 欧州委員会及び米国財務省が今日発表した保険及び再保険措置に関するEU-U.Sカバード・アグリーメントを歓迎する。カバード・アグリーメントには、再保険、グループ監督及び監督者間の情報交換の3つの健全性保険監督が含まれている。

Gabriel Bernardino EIOPA会長は、「本合意は、欧州連合(EU)と米国の保険監督当局が監督協力を強化し、消費者利益のために大西洋の両側で活動する(再)保険会社の規制の確実性と機会を高める上でのさらなる一歩を示している。EIOPAはEU-U.S保険プロジェクトの作業を通じて、米国当局との強力な協力を継続する。

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中村 亮一

研究・専門分野

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