2016年12月26日

EUと米国の間の再保険規制を巡る交渉の状況はどうなっているのか-カバード・アグリーメントを巡る状況-

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6―欧米の業界団体のカバード・アグリーメントに対するスタンス

欧米の業界団体は、以下に述べるように、カバード・アグリーメントに賛成している。

1|欧米の業界団体による共同声明
AIA(American Insurance Association)、ACLI(American Council of Life Insurers)、French Insurance Federation、GDV(German Insurance Association)、Insurance Europe、Reinsurance Association of America、Munich Re等の欧米の保険業界団体・(再)保険会社は、2016年12月13日に、以下の共同声明を行っている。
 

署名を受けた団体は、米国と欧州連合(EU)の代表団に、両国で事業を行う企業の重大な保険及び再保険規制の問題を解決する合意に達するという誓いを歓迎する。我々は、これらの議論が全ての利害関係者に対して相互に有益な合意に至る迅速な結論をもたらすことを交渉担当者に促す。


2|Insurance Europe
欧州の保険会社の団体であるInsurance Europeは、2016年12月12日に、「EU / USカバード・アグリーメント対話の結論に対する支持を繰り返す」と称する声明を発表している。
 

(再)保険に関する2国間合意に関するEUと米国の間の最近の交渉の結果について、Insurance Europeの国際事務・投資責任者、Cristina Mihaiは、次のように述べた。

「Insurance Europeは最近の進展によって奨励され、我々の(再)保険会社の利益のために、今後の交渉の迅速な結論に対する強力な支持を再確認する。この合意は、米国に事業を展開する全ての欧州(再)保険会社の全国一律の取扱につながるはずである。」

「現行の米国の法定担保要件は非常に差別的であり、米国のリスクを引き受ける際には、欧州の国境を越える(再)保険会社が重大な競争上の不利益を被る。従って、EUと米国との間の二国間協定は、米国の全ての州における法定担保要件の完全な排除を求めるべきであり、保有契約と新契約の両方に適用すべきである。」

「肯定的な結論は、EUと米国の長年の関係の強いシグナルを表し、消費者と経済の両方の利益のために、(再)保険の二国間貿易を支援するのに役立つだろう。」



3|AIA(American Insurance Association:米国保険協会)
AIAの国際問題担当ディレクター、Steve Simchak氏は、2016年12月12日に、以下の声明を公表し、カバード・アグリーメントの進展を支援している。
 

AIAは、協定がまだ締結されていないという懸念があるが、交渉は継続していることを喜んでいる。 近い将来、交渉を完了するという目標に向かって交渉担当者が引き続き努力していくことを我々は求めている。

米国の保険グループは、いくつかのヨーロッパの管轄区域においてソルベンシーIIの導入から新たな差別的措置に直面している。 健全性措置における差別的でない取扱を強化するカバード・アグリーメントが達成されていない場合、残念ながら、カバード・アグリーメントによって回避されたであろう障壁が両側に現れる可能性がある。 健全性措置に起因する不必要な障壁は、大西洋両岸の保険会社及び保険契約者の利益に反する。

連邦保険局、米国通商代表部、米国の州保険監督官、欧州委員会がこのプロセスに取り組んできた努力の全てに非常に感謝する。 交渉が継続されるにつれて、我々は監督官とそのスタッフ、議会指導者、産業界の利害関係者と協議するプロセスに関わる全ての人に、可能な限り迅速に最善の合意を締結することを薦める。

 

7―トランプ政権誕生による影響

7―トランプ政権誕生による影響

ドナルド・トランプ氏は、大統領就任初日に、TPPからの離脱を(他の参加国に)通告すると公言しているが、オバマ大統領の下で提案された大西洋貿易投資パートナーシップ協定(TTIP)にサインすることもまずないのではないかと言われている。

カバード・アグリーメントは、TTIPに緩やかに結びついており、より広い貿易協定のためのECとUSTRの交渉チップの1つであると見られている。従って、トランプ氏が大統領に就任した場合、カバード・アグリーメントが合意に達する可能性も低くなると懸念されている。

州の保険監督官は、これをカバード・アグリーメントの必要性の再検討と消費者保護の観点からの規制のあり方を主張する絶好の機会であると考えているようである。

一方で、こうした状況を踏まえて、FIOとUSTRは、次期政権が誕生する前に、(他のいくつかの政策決定と同様に)カバード・アグリーメントを迅速に処理しようとしていると言われている。

当面は、トランプ氏が大統領に就任する1月20日までは目が離せない状況のようである。
 

8―まとめ

8―まとめ

以上、EUと米国の間の再保険規制におけるカバード・アグリーメントを巡る最近の状況について述べてきた。

今回のEUと米国の間のカバード・アグリーメントを巡る問題については、日本の保険会社に対して、直接的に影響を与えるものではないと考えられる。ただし、欧米の再保険会社と日本の再保険会社に対する規制の差異から、間接的な影響を受ける可能性や、欧米市場において、子会社や関連会社等を通じて、再保険業務を展開している場合等には、影響を受ける可能性があることになる。

現在は、実際に直接的な監督を行っているEUの各国監督当局と米国の州監督当局との間の泥仕合になっていると受け取られかねない状況にもなっている。本来的には、再保険に関する健全性規制がどのようにあるべきか、という本質的な議論が行われて、あるべき姿への決着が図られていくことが望まれる。ただし、実際には、各種の思惑も絡んで、EUと米国の州監督当局との考え方の統一は難しい状況にあるようである。

もしかしたら、このレポートが発行された時点で、あるいはトランプ次期大統領の就任前に、カバード・アグリーメントが決着している可能性もある。ただし、その場合でも、その内容が本当に実際に履行されていくのかについても不透明な状況になっているかもしれない。

今後、カバード・アグリーメントを中心としたEUと米国の間の再保険規制を巡る問題がどのように進捗していくのかについては、引き続き注視していくこととしたい。
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中村 亮一

研究・専門分野

(2016年12月26日「保険・年金フォーカス」)

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