2016年12月26日

EUと米国の間の再保険規制を巡る交渉の状況はどうなっているのか-カバード・アグリーメントを巡る状況-

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4―米国における再保険の消費者保護担保

ここでは、米国における再保険の消費者保護担保を巡る状況について概説する。

1|これまでの経緯
歴史的には、再保険の消費者保護担保の分野では、米国の保険監督当局は、外国の再保険会社に対して、米国の保険会社から引き受けるリスクについて、米国内で100%の担保を要求してきた。米国の消費者保護担保が必要とされるのは、再保険会社は最終的に米国の保険契約者を直接保障している他の保険会社に保険を提供しているため、保険金支払資本が、特に自然災害の場合等それが必要とされる場合に、米国会社や規制当局によって利用可能で供給可能であることを確実にすることを意図している。

しかしながら、外国の再保険会社の規制当局者や政治家は、投資機会を含む他の目的には資本を利用できないため、彼らの会社が米国に消費者保護担保を差し出さなければならないことに反対してきた。

州毎の要件の多様性の可能性を認識することにより、消費者保護担保責任の計画がより不確実で、潜在的により高価になる可能性があるため、州規制当局は、再保険者とそれを監督する規制体制の質と同等な一貫した方法で、消費者保護担保要件を削減するために、NAICを通じて協力してきた。

2011年に、NAICはNAICの再保険控除に関するモデル法(#785)と再保険控除に関するモデル規制(#786)(再保険控除モデル)の修正を行った。一旦ある州で実行されれば、修正は、再保険者が評価され、認定される場合には、米国損害賠償請求の100%を大きく下回る消費者保護担保を差し出すことを許容する。個々の再保険者は、財務力、タイムリーな請求支払履歴及び再保険者が適格管轄区域に本籍をおいて認可を受けているという要件等を含む基準に基づいて認定されている。

2|現在の状況
2013年8月、NAICは、消費者保護を軽減する目的での管轄拠点であるかどうかを判断するために再保険会社の管轄地域の監視を評価する包括的なプロセスを確立した「適格管轄区域のNAICリストを作成及び維持するためのプロセス」を採用した。2011年の再保険控除モデルの改訂では、公認再保険会社としての州による認定資格を得るためには、資格を有する管轄区域で免許を取得し、本籍地とすることを前提にした保険会社であることが要求される。 2016年1月1日現在、バミューダ、フランス、ドイツ、アイルランド、日本、スイス及び英国が、NAICの適格管轄区域リストに登録されている。

NAICはまた、外国再保険会社に米国全体にわたるパスポートの機会を提供する、州による外国再保険会社の認定に絡むピアレビューシステムを確立している。2016年1月1日現在、25以上の外国再保険会社がこのピアレビューシステムの下で認定されている。

なお、再保険の担保要件に関しては、現在は30以上の州で、一部のEUの再保険会社の担保要件を100%から10%と20%の間の水準に減らしているが、なお何らの変更も行っていない州もいくつかある。

3|EUからの要求
このように、米国は米国外の再保険会社への出再に対して、担保を要求する等の規制を課してきていたが、一部の適格国(バミューダ、フランス、ドイツ、アイルランド、日本、スイス、英国の7カ国)からの高格付けの再保険会社との取引については、担保割合を削減する等の緩和を進めている。ただし、例えばEUの全ての国が適格国に該当しているわけではなく、EUはこの点の修正を要求してきている。
 

5―欧米の監督当局のカバード・アグリーメントに対するスタンス

5―欧米の監督当局のカバード・アグリーメントに対するスタンス

1|EIOPA及び欧州各国の監督当局
EIOPA及び欧州の監督当局は、カバード・アグリーメントに賛成している。

現在の米国の再保険に関する担保要件については、欧州の監督当局は、「非常に差別的であり、米国のリスクを引き受ける際には、欧州の国境を越えた再保険会社を重大な競争上の不利な立場に置く。」として、批判している。その上で「EUと米国の間の二国間協定は、米国の全ての州における法定担保要件の完全な排除を求めるべきであり、保有及び新規契約の両方に適用すべきである。」としている。

一方で、EUで営業展開する米国の再保険会社に対しては、例えば、ドイツの監督当局BaFinは、ドイツで営業を継続するためにドイツの支店の創設を要求しており、他の欧州諸国もこれに従っていると言われている。さらには、いくつかのEUの監督当局は、ソルベンシーIIベースのデータのファイリングを要求したり、米国が米国で事業展開するEUの再保険会社に対して行っているのと同様に、米国の再保険会社に対して担保を要求している。

2|米国財務省(FIO)及び米国通商代表部(USTR
FIOやUSTRは、その主たる当事者として、カバード・アグリーメントの締結を進めている。

財務省やUSTRのWebサイトでは、2016年12月12日及び23日に、EUと米国による以下の共同声明を公表している。
(1)12月12日の共同声明

米国とEUの代表は、2016年12月6日~8日にワシントンD.C.で会合し、保険及び再保険の健全性措置に関する二国間協定について協議した。双方は、グループ監督、双方の監督当局間の秘密情報の交換及び担保を含む再保険監督に関する問題を誠実に議論し続けた。米国とEU代表はさらなる進展を示し、可能な合意に向かう次のステップに合意した。

(2)12月23日の共同声明

米国とEUの代表は、2016年12月19日~20日にブリュッセルで会合し、保険及び再保険の健全性措置に関する二国間協定について協議した。双方は、グループ監督、双方の監督当局間の秘密情報の交換及び担保を含む再保険監督に関する問題を誠実に議論し続けた。米国とEU代表は可能な合意に向けて特定化されたステップについて大きな進展を達成した。

3|NAIC
これに対して、NAICは、そのWebサイトで、「NAICと州による再保険控除ルールを現代化するための進展を考慮して、NAICは再保険の消費者保護担保のためのカバード・アグリーメントが必要であることを確信も納得もしていない。」と述べており、カバード・アグリーメントに明確に反対している。

さらに、「再保険の消費者保護の担保要件の削減は、NAICと各州にとって10年以上にわたって優先事項となっている。2016年1月1日現在、米国の元受保険料の66%以上を占める32の州が、改訂NAIC再保険控除モデル法を実施する法律を制定し、さらに5つの州が近い将来これを行う予定であり、これにより市場全体のカバー率が93%に引き上がる。この条項が認定基準になった場合、各州は、カバード・アグリーメントが主張することを成し遂げたことになるであろう。」と述べている。

そもそも、「今回の問題は、EUがソルベンシーIIの同等性評価という自ら勝手に創り出した問題の解決と引き換えに、消費者保護の観点から本来あるべき米国での州ベースでの健全な規制をないがしろにしようとするもので、本末転倒である」と考えているようである。さらには、このような合意は、「米国の保険業界に対する連邦政府とEUの権限を増加させることになる。」として、反対している。

なお、米国の消費者保護担保要件に対抗して、欧州監督当局が米国の保険会社に対して採用している措置に対しては、米国サイドからも報復措置を検討する動きもあるようである。

さらに、「一方なソルベンシーⅡの同等性評価は、欧州で事業展開している米国の(再)保険会社を差別化することで、サービスにおける貿易に関するWTO一般協定の下での義務に違反している。」との意見も出されている。
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中村 亮一

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