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- CLM諸国の政治経済の概況と保険市場動向
2016年11月15日
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はじめに
本稿では、近年、今後の有望な保険市場として期待が高まっているカンボジア・ラオス・ミャンマーのいわゆるCLM諸国(3国の頭文字から「CLM」と総称)をテーマに、先ず、その政治経済の概況を述べ、次いでその保険市場の動向や中長期の展望について述べたい。
(1)政治体制・状況
CLMはいすれも、第二次大戦後に、それまでのフランス(カンボジア・ラオス:1953年)、英国(ミャンマー:1948年)の統治から独立した。その後、カンボジアは、内戦や政治混乱を経て、与党人民党のフン・セン政権下で安定化が進展している(立憲君主制カンボジア王国)。ラオスは、独立後内戦期を経て、ラオス人民民主共和国として、1975年以来、人民革命党を指導党とする社会主義体制となり、中国の「改革・開放」、ベトナムの「ドイモイ(刷新)」と同様に、1986年以来「チンタナカーン・マイ(新思考)」と呼ばれる改革路線を採用・実行している。ミャンマーは、長期間、軍政が続いたが、2011年の民政移管によりミャンマー連邦共和国となり、2015年の総選挙を経て、2016年にスーチー女史率いる国民民主同盟(NLD)政権が発足している。
(2)経済動向
a. 3国は、上記のような政治の安定化傾向の中、経済発展を目指して、自由化や外資の導入などを進めている。CLMは、アセアン(東南アジア諸国連合:10カ国、67年設立)に、最後に加盟(ラオス・ミャンマー97年、カンボジア99年)した諸国であり、その経済発展度もアセアン域内で最も低い水準にある。すなわち、図表-1で示されるように、CLMのGDP(国内総生産)は、3カ国の合計金額が980億ドルと、アセアン(東南アジア諸国連合)全体の4%のシェアで、規模はベトナムの約半分という状況である。また一人当たりGDP(国内総生産)も各国共に1,000ドル台にとどまっている。
しかしながら、後掲の図表-2にあるように、近年の経済成長率は、過去3年や今後3年の年率平均が約7-8%と高水準であり、急速な経済発展が進んでいる。特に、人口が5千万人を超えるミャンマーは、将来的に大きな市場となる可能性が期待されている。また、アセアン経済共同体(AEC:2015年末に発足)による域内市場の自由化や統合の動きや、メコン地域1の経済連携の強化、中国による「一帯一路」(中国から中央アジアを経てロシアへ向かう「シルクロード経済帯」(一帯)と、南シナ海からインド洋へ向かう「21世紀海上シルクロード」(一路)を開発するとの構想で、その対象国(一路)の中にCLM諸国も含まれている)の取り組みにより、インフラ建設や貿易・物流の大幅な増加が見込まれている。
b. 3国は、近年、低廉な労働コストを活用しての生産拠点としての活用や、新たな消費市場としての開拓を目的に、各国の企業の投資先・進出先として注目度が向上している。本邦企業については、2015 年 12 月に公表の国際協力銀行(JBIC)による調査結果でも、製造業の中期的な有望事業展開先としてミャンマー 10 位、カンボジア 17 位、ラオス 20 位と全てが上位20位以内にランクされている2。最近では、タイに拠点を置く日系の製造業企業が、元々タイで行っている業務の中で、労働集約的な業務を 3国(特にカンボジア・ラオス)に移す「タイ・プラス・ワン」という動き(タイを中心に生産拠点を分散して地域全体でサプライチェーンを最適化させる取組み)が注目されている。その企業事例として、カンボジアでは、ミネベア、住友電装、日本電産、矢崎総業、ラオスでは、ニコン、トヨタ紡織、三菱マテリアル、アデランスなどがある。加えて各種サービス企業の進出も増加基調にある。3国における、現地企業数・日本人駐在員数は、東洋経済新報社の海外進出企業総覧2016年版(国別編)によれば、それぞれ、カンボジア68社・ 75名、ラオス22社・10名、ミャンマー79社・65名となっている。
しかし、3国への投資や企業進出には、他国も関心を持ち積極的に取り組んでおり、中国、韓国、タイ・シンガポール等アセアンの周辺諸国の投資規模はわが国を上回っており、さらに欧米の有力企業による進出も増加している。
1 CLM諸国にタイ・ベトナムを加えた地域(隣接する中国の雲南省を含める場合もある)。
2 「わが国製造業企業の海外事業展開に関する調査報告:2013 年度海外直接投資アンケート調査結果(第 28 回)」における日本企業(製造 業対象)において中期的(今後 3 年程度)有望事業展開先国・地域の人気度が集計されている。
CLMはいすれも、第二次大戦後に、それまでのフランス(カンボジア・ラオス:1953年)、英国(ミャンマー:1948年)の統治から独立した。その後、カンボジアは、内戦や政治混乱を経て、与党人民党のフン・セン政権下で安定化が進展している(立憲君主制カンボジア王国)。ラオスは、独立後内戦期を経て、ラオス人民民主共和国として、1975年以来、人民革命党を指導党とする社会主義体制となり、中国の「改革・開放」、ベトナムの「ドイモイ(刷新)」と同様に、1986年以来「チンタナカーン・マイ(新思考)」と呼ばれる改革路線を採用・実行している。ミャンマーは、長期間、軍政が続いたが、2011年の民政移管によりミャンマー連邦共和国となり、2015年の総選挙を経て、2016年にスーチー女史率いる国民民主同盟(NLD)政権が発足している。
(2)経済動向
a. 3国は、上記のような政治の安定化傾向の中、経済発展を目指して、自由化や外資の導入などを進めている。CLMは、アセアン(東南アジア諸国連合:10カ国、67年設立)に、最後に加盟(ラオス・ミャンマー97年、カンボジア99年)した諸国であり、その経済発展度もアセアン域内で最も低い水準にある。すなわち、図表-1で示されるように、CLMのGDP(国内総生産)は、3カ国の合計金額が980億ドルと、アセアン(東南アジア諸国連合)全体の4%のシェアで、規模はベトナムの約半分という状況である。また一人当たりGDP(国内総生産)も各国共に1,000ドル台にとどまっている。
しかしながら、後掲の図表-2にあるように、近年の経済成長率は、過去3年や今後3年の年率平均が約7-8%と高水準であり、急速な経済発展が進んでいる。特に、人口が5千万人を超えるミャンマーは、将来的に大きな市場となる可能性が期待されている。また、アセアン経済共同体(AEC:2015年末に発足)による域内市場の自由化や統合の動きや、メコン地域1の経済連携の強化、中国による「一帯一路」(中国から中央アジアを経てロシアへ向かう「シルクロード経済帯」(一帯)と、南シナ海からインド洋へ向かう「21世紀海上シルクロード」(一路)を開発するとの構想で、その対象国(一路)の中にCLM諸国も含まれている)の取り組みにより、インフラ建設や貿易・物流の大幅な増加が見込まれている。
b. 3国は、近年、低廉な労働コストを活用しての生産拠点としての活用や、新たな消費市場としての開拓を目的に、各国の企業の投資先・進出先として注目度が向上している。本邦企業については、2015 年 12 月に公表の国際協力銀行(JBIC)による調査結果でも、製造業の中期的な有望事業展開先としてミャンマー 10 位、カンボジア 17 位、ラオス 20 位と全てが上位20位以内にランクされている2。最近では、タイに拠点を置く日系の製造業企業が、元々タイで行っている業務の中で、労働集約的な業務を 3国(特にカンボジア・ラオス)に移す「タイ・プラス・ワン」という動き(タイを中心に生産拠点を分散して地域全体でサプライチェーンを最適化させる取組み)が注目されている。その企業事例として、カンボジアでは、ミネベア、住友電装、日本電産、矢崎総業、ラオスでは、ニコン、トヨタ紡織、三菱マテリアル、アデランスなどがある。加えて各種サービス企業の進出も増加基調にある。3国における、現地企業数・日本人駐在員数は、東洋経済新報社の海外進出企業総覧2016年版(国別編)によれば、それぞれ、カンボジア68社・ 75名、ラオス22社・10名、ミャンマー79社・65名となっている。
しかし、3国への投資や企業進出には、他国も関心を持ち積極的に取り組んでおり、中国、韓国、タイ・シンガポール等アセアンの周辺諸国の投資規模はわが国を上回っており、さらに欧米の有力企業による進出も増加している。
1 CLM諸国にタイ・ベトナムを加えた地域(隣接する中国の雲南省を含める場合もある)。
2 「わが国製造業企業の海外事業展開に関する調査報告:2013 年度海外直接投資アンケート調査結果(第 28 回)」における日本企業(製造 業対象)において中期的(今後 3 年程度)有望事業展開先国・地域の人気度が集計されている。
(2016年11月15日「保険・年金フォーカス」)
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