2016年11月04日

日銀の苦境はまだまだ続く~金融市場の動き(11月号)

経済研究部 上席エコノミスト 上野 剛志

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消費者物価上昇率の長期推移 (日銀の苦境はまだまだ続く)
そもそも、2%という物価目標はわが国にとって非常に高いハードルだ。1980年以降の物価上昇率の長期推移を見ても、2%を超えていたのは限られた期間であり、しかも原油価格の急騰やバブル経済など特殊要因が働いていた時期ばかりだ。2018年度頃の2%達成は困難であり、少なくとも数年(弊社中期経済見通し<Weekly エコノミスト・レター 2016-10-14>では2023年度と想定)はかかる可能性が高いうえ、2%を安定的に維持することに至っては現実性に乏しい。

物価目標を達成できない状況が今後延々と続くことが見込まれる中、日銀は長期金利をうまく制御し続けなければならないほか、国債買入れも市場の混乱を招くことなく減額していかなければならない。また、必要と判断されるタイミングでは、限りある追加緩和を適切に実施することも求められる。物価目標達成時期の後ろ倒しは今後も相次ぐと見込まれるが、いかに失望や批判を回避し、市場や人々の期待を繋ぎ続けるかという点も課題となる。金融緩和を長く続けるほど、出口戦略の難易度が上がっていくという問題もある。日銀の苦境はまだまだ続きそうだ。
 

2.日銀金融政策(11月):物価目標達成時期をまたも後ろ倒し

2.日銀金融政策(11月):物価目標達成時期をまたも後ろ倒し

(日銀)現状維持
日銀は10月31日~11月1日に開催された金融政策決定会合において、金融政策を維持した。具体的には、(1)長短金利操作(マイナス金利▲0.1%、10年国債利回りゼロ%程度)、(2)資産買入れ方針(長期国債買入れ年間80兆円増、ETF買入れ年間6兆円増など)を従来同様とした。(1)、(2)ともに佐藤委員・木内委員が反対したが、賛成多数で議決した(賛成7反対2)。

声明文と同時に公表された展望レポート(2016年度~18年度)では、実質GDP成長率を前回7月から据え置いた一方、物価上昇率については各年度ともに下方修正し、物価目標の達成期限を従来の「2017年度中」から「2018年度頃」へと後ろ倒しした。後ろ倒しは、黒田総裁就任以来5度目となる。物価目標に向けたモメンタム(勢い)が前回から「幾分弱まっており、今後、注意深く点検する必要性がある」と指摘している。
 
総裁会見では、今回、物価目標を後ろ倒ししたことで、黒田総裁の任期中(2018年4月まで)の達成が困難となった点についての受け止めを問う質問が相次いだ。黒田総裁は、「物価上昇率が先行きどうなるかということと私自身の任期の間には特別な関係はない」、「日銀としては、2%目標を出来るだけ早期に実現するさせるために適切な政策を決定し、実行していくことに尽きる」としつつも、「2年で(2%を)実現できなかったことは残念だ」と、その心中を明らかにした。2%未達の理由については、前回の総括的な検証の内容を踏襲する形で、日銀の金融緩和は効果を発揮したものの、原油安や新興国減速が人々の適合的期待に作用し、物価を抑制したとの見方を示し、「欧米の中央銀行も物価見通しを後ずれさせている」と言及した。

また、日本のデフレマインドは「そう簡単に払拭できない」と認めたうえで、「物価安定の責務は基本的に中央銀行にあることに変わりはない」としつつも、「物価が単に上がるだけでなく、経済が持続的に適切な成長をするためには、財政政策や構造改革が必要」と、従来よりも一歩政府の役割の重要性に踏み込んだ。

なお、9月に移行した新しい金融政策の枠組みに関しては、「マーケットに非常に円滑に受け入れられており、比較的順調にきている」と評価し、現在のイールドカーブについても、「特に違和感はない」と、日銀の誘導範囲内に収まっていることを示唆した。
 
今後は、追加緩和を温存しつつ、様子見を続けると予想。少なくとも今年度内は現状の金融政策を維持すると見ている。
展望レポート( 1 6年1 1月)政策委員の大勢見通し(中央値)/次回の金融政策変更の予測分布(40機関)
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経済研究部   上席エコノミスト

上野 剛志 (うえの つよし)

研究・専門分野
金融・為替、日本経済

経歴
  • ・ 1998年 日本生命保険相互会社入社
    ・ 2007年 日本経済研究センター派遣
    ・ 2008年 米シンクタンクThe Conference Board派遣
    ・ 2009年 ニッセイ基礎研究所

    ・ 順天堂大学・国際教養学部非常勤講師を兼務(2015~16年度)

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