2016年05月13日

労働関連統計にみられる人口減少と高齢化の影響 ~九州地域の場合~

日本大学経済学部教授 小巻 泰之

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3.2労働関連統計への影響
都道府県ベースで利用可能な人口及び労働力に関する統計は図表6のとおり、全国ベースに比べると種類は少ない。労働関連の統計は全国ベースであれば労働力調査を中心にその動向を把握することとなるが、都道府県ベースでは標本設計の問題から年次(もしくは四半期)のモデル推計値となっている。ここでは、労働需給を示す失業率と一般職業紹介状況から有効求人倍率を見たうえで、労働関連統計間の関係を相関関係から検討する。

(失業率)
失業率は国勢調査と労働力調査(モデル推計値)が利用可能である。ただし、国勢調査と労働力調査では労働力の定義や従業地・常住地ベースにより異なるため注意を要する。また、都道府県ベースの場合、労働力調査は1997年以降のデータしか利用可能ではない。
図表6:都道府県ベースの労働関連統計一覧
失業率(モデル推計値)は各県とも2010年をピークに低下傾向にある(図表7)。しかし、失業率の水準は大きく異なっている。福岡県は1997年以降2002年には6.9%とかなり高い水準となるなど他の地域に比べ1.0%から1.5%高い水準となっている。他方、佐賀県は2007年には2.5%と完全雇用水準に近い状況にまで低下するなど、概ねどの地域より低水準となっている。このような水準差が生じている原因として、福岡県ではサービス産業が多いことが原因として挙げられている。ただし、九州各県の失業率の変動係数を見ると、2009年までは個別性が強かったがここ数年はばらつきが小さくなっている。
図表7:九州各県の失業率の推移
(有効求人倍率)
有効求人倍率は九州各県の連動性が高く、水準も大きなかい離は見られない(図表8)。ただし、調査開始(1963年)以降、福岡県、鹿児島県はほぼ一貫して相対的に低水準にある。他方、失業率の水準が比較的高い長崎県は1994年頃まで有効求人倍率は概ね高い水準を維持していたが、その後は一転相対的に低い水準にある。1990年代半ば以降は大分県が九州域内で比較的高水準となっている。また、失業率の高い福岡県は2002年までは有効求人倍率は低水準にあったものの、それ以降は比較的高い水準にある。
図表8:九州各県の失業率の推移
3.3労働統計間の関係
失業率及び有効求人倍率はともに労働需給を示す経済統計であるものの、失業率の上昇は労働需給の悪化を示すため、有効求人倍率との関係では負の相関にあることが期待される。

失業率(労働調査ベース)と有効求人倍率の関係(図表9の1行目)をみると、全国ベースでは-0.73と有意な負の相関関係が確認できる。しかし、九州各県の失業率(労働調査ベース)と有効求人倍率との関係は弱い。特に、鹿児島県は-0.39と相関関係は弱い。国勢調査ベースの失業率の場合(図表9の7行目)にはさらに関係は希薄である。相関係数は各県とも逆にプラスとなっており、鹿児島県ではプラスの有意な関係が確認できる。

有効求人倍率の改善が雇用に結びついているのかについて、有効求人倍率と常用雇用(毎月勤労統計地方調査ベース)では、有効求人倍率が労働需給の改善を意味し、全国ベースでは0.64と正の相関関係が確認できる(図表9の4行目)。しかし、九州各県ベースではほとんど無相関に近い状況にある。また、有効求職者と常用雇用についても全国ベースは-0.72と求職者の減少は常用雇用の増加、つまり就業に結びついていることがわかる(図表9の6行目)。しかし、九州各県とも符合こそマイナスであるが関係が弱いことがうかがえる。特に、宮崎県、鹿児島県は無相関といえる。

このことは、有効求人倍率の改善が必ずしも労働需給の改善を意味していない可能性が指摘できる。この点については、内閣府「地域の経済」2015年度版において、有効求人倍率の改善の背景には求職者数の減少の寄与が過去と比べて大きくなっていると指摘している。次節では有効求人倍率の改善の要因分解をおこなう。
図表9:労働統計間の関係
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日本大学経済学部教授 小巻 泰之

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