2016年05月13日

労働関連統計にみられる人口減少と高齢化の影響 ~九州地域の場合~

日本大学経済学部教授 小巻 泰之

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労働力人口の減少は少子化(自然減)と人口移動による減少(社会減)がある。各県の人口移動を見ると、福岡県はバブル経済期には転出超であったが、1990年代前後から転入超となり、途中リーマンショック時(2008年前後)に転出超となったものの、転入超となっている。福岡県を除く6県もバブル経済崩壊後に転出超の動きは緩和されたものの1980年代以降総じて転出超となっている。特に、長崎県は他の九州各県の中でも大幅な転出超が継続している(図表3)。
図表3:九州各県の人口移動
各県の人口移動についてみてみると特徴的な動きが確認できる。九州各県は高度成長期に首都圏及び関西圏に対して大きく転出超であり、特に地理的な影響もあるのか首都圏より関西圏への転出超が大きい。福岡県は高度成長期以後、関西圏に対しては転出入を繰り返しているが、首都圏には転出超が継続している。佐賀県は地理的かつ交通網的に福岡県とのつながりが強いことを反映してほぼ一貫して福岡県への転出超が他の都府県を上回っている。現在においても、年間1000人前後の転出超が継続している。長崎県も佐賀県と同様の傾向がみられる。ただ、長崎県から福岡県への転出超の水準は佐賀県の3倍を超える状況にある、現在でも長崎県から福岡県への人口流入が続いている。熊本県及び大分県についても佐賀県とほぼ同様の傾向が確認できる。しかし、宮崎県と鹿児島県は、他の九州各県と大きく異なる。高度経済成長期には福岡県への転出は規模が小さく関西圏、首都圏への流出超が中心であった。しかし、その後、宮崎県及び鹿児島県から福岡県へはほぼ一貫して転出超であり、その水準は佐賀県と同等なものとなっている。

このような九州各県の人口移動先の違いには交通網を中心とするインフラ整備が影響している可能性が考えられる。宮崎県及び鹿児島県が交通インフラ上の不便な地域であり、整備されたのは近年になってからである。たとえば、九州新幹線が全面開通(2011年3月)するまでは、博多駅から鹿児島中央駅まで特急つばめで3時間50分かかっていたが、新幹線開通後は所要時間最速1時間17分で結ばれている。また、大分県と宮崎県の間には高速道路がなく大分市~宮崎市間が5時間25分もかかる陸運上の不便さがあった。しかし、2015年3月に東九州道の全線開通により大分市~宮崎市間は約2時間50分となっている。このようなインフラの未整備が移動先の地域を規定してきたのではないかと推察される。

人口移動を年齢別にみたのが図表4である。福岡県を除き、どの県においても15歳から29歳まで若年層の流出が大勢を占めている。これは大学への就学、就職が要因とみられる。実際、高等学校卒業者の就職先をみると、九州の4県(宮崎県、鹿児島県、長崎県、佐賀県)が県内企業への就職率が全国的にも最下位のレベルとなっている(図表5)。福岡県の場合、福岡市内に九州大学、福岡大学など学生数が1万人を超える大学が複数あるほか、コールセンターやゲームソフト開発など若者中心の職場も多いことが背景として考えられる。他方、福岡県と佐賀県を除き、70歳以上の高齢者の流出超も小幅ながら継続した動きとなっている。

このように、九州各県の人口面の動きをみると、九州各県は若年層を中心に、福岡県への人口流出が続いている。
図表4:年齢別の人口移動状況
図表5:高等学校卒業者の就職状況
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日本大学経済学部教授 小巻 泰之

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