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- 介護とレジャーというカルチャーショック-要介護者の安息を支える介護者の安息
2014年6月、WFRN(Work and Family Researchers Network)がニューヨークで開催したカンファレンスの介護セッションに参加した1。数々の興味深い報告から今後の研究に向けた多くの示唆を得たが、とりわけ印象に残っているのは、カナダのウォータールー大学等の研究者グループによる「介護者のレジャー施設利用と幸福感」2という研究報告である。
この研究は、レジャー施設利用が、介護者の精神的安定や身体的健康に効果的かどうかという点を検証しているものである。ここでいうレジャー施設には、プール、図書館、公園、競技場、舞台芸術施設等、11種類の施設が含まれる。この研究では、(1)レジャー施設の利用が、介護者の精神的安定や身体的健康にプラスの効果を及ぼすこと、(2)たとえ介護時間が長くなったとしても、レジャー施設の利用度が高い介護者については、精神的安定や身体的健康が悪化していないこと、が明らかにされている。
日本では、介護の研究といえば、どちらかといえば要介護者に焦点が当てた研究が多かったが、ここ数年、仕事と介護の両立等の観点から、介護者に関する研究も急ピッチで進められてきた。たとえば、(1)介護を1人で抱え込んでいる介護者の負担感が特に大きいこと3、(2)介護による離職が精神面・肉体面・経済面の負担を増加させること4、等が指摘されている。
一方、レジャーという観点から介護者の幸福を論じた日本の研究はあまり見当たらない。筆者自身もそういう研究視点を持っていなかった。考えてみれば、日本においては、レジャーを楽しむ介護者よりも、仕事と介護を両立している介護者、さらには介護に専念して苦しんでいる介護者のほうが、周囲から好感をもたれやすいカルチャーがあるように思う。
少子高齢化の進行のもと、今後も要介護者の増加が予想されており、それにともなって介護者も増加すると想定される。介護保険制度の財政が厳しいなか、特に在宅介護を担う介護者が増える可能性も指摘されている。このようななか、仕事と介護を両立する介護者に対する支援(離職防止等)の必要性も一層高まると考えられるが、介護者が1人で介護を抱え込みやすいという面でより懸念が大きいのは、介護者が仕事から引退した後も続く介護、介護者が引退後に直面する介護である。
生命保険文化センター「平成24年度 生命保険に関する全国実態調査」によると、過去3年以内に介護を経験した人の平均介護期間は4年9ケ月であり、10年以上介護しているという割合も12.5%にのぼる5。また、厚生労働省「平成25年 国民生活基礎調査」によると、在宅介護者(同居の主な介護者)の7割弱は60歳以上であり、要介護度4以上のケースでは過半数が「ほとんど終日」介護していると回答している。
総じて期間が長く、先の見えない介護においては、介護者の精神的、身体的、経済的な基盤が重要なポイントとなる。とりわけ引退後の介護において、介護者の精神的安定、身体的健康を確保するうえで、介護者がレジャー施設等を利用し、一時的にせよ介護から解放され安息を得られるようにすることは、有効な方策の一つだと考えられる。介護者の安息が要介護者の安息につながり、要介護者の安息が介護者の安息につながる、逆もしかり、であろう。
介護者の安息の必要性に対する理解が、介護者さらには周囲にも広がり、介護者のレジャーを暖かく見守り、支援するようなカルチャーが醸成されることが期待される。
(2015年05月12日「基礎研マンスリー」)
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