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- 子育て世代の専業主婦志向~日本でもハウスワイフ2.0が増加?
「ハウスワイフ2.0」をご存知だろうか?昨年米国で同名の書籍が出版され、論争になったそうだ。日本でも今年2月に翻訳されi、一部話題となっている。
「ハウスワイフ2.0」とは、ハーバードやエール大などの一流大学を出て、投資銀行や広告代理店、官庁などのエリート職に就いていながら、そのキャリアを捨てて、専業主婦となる女性たちのことだ。最近、米国では、そういった20~30代の女性が増えているそうだ。
彼女たちの特徴は、「会社を選択的に離脱、企業社会で燃え尽きた母親世代が反面教師、田舎生活を楽しみジャムを作り編み物をする、ストレスのある高報酬よりほっとできる暮らしを優先、Web・SNSでワークシェアを利用、ブログで発信・起業、家事を夫と分担・余裕ある子育てをする」とのことだ。
ストレスの多いキャリア形成よりも日常生活の充実を重視し、ネットも賢く活用してお金も少し稼ぐ現代の若い主婦といったところだろうか。
そもそも仕事を辞めて専業主婦になるということは、夫に一定の経済力があるということだ。しかも、こういったハイスペックな女性たちの夫ならば、同様に、高学歴・高収入の男性が多いのだろう。
「なんだ、結局、高年収層の話」と片付けるのは、実は早計だ。
彼女たちが登場した背景には、米国の社会環境の変化や不況がある。同書によれば、(1)政府・企業・食品管理体制への不信(ずさんな衛生管理や有害物質の混入、添加物、遺伝子組み換え等の問題による不信)、(2)環境問題(地球温暖化や地下水汚染等の問題への政府の取り組み成果が見えない)、(3)不景気(不況による節約や創意工夫、自給自足志向の強まり)、(4)職場への不満(不況で賃金は上がらず保障は削減、依然根強い男女格差や女性の両立負担)、(5)手仕事願望(インスタント食品や大量生産品等の現代消費社会に相対した手作り価値の高まり)、(6)過熱する子育て(社会不信や仕事第一主義の親世代への疑問を背景にした強い家族志向)が影響している。
つまり、社会不信で自衛意識が高まる中、依然として働く女性には壁がある現状もあり、家族志向の強さも相まって、選択的に会社を離脱している。高収入世帯の女性が、たまたま仕事を辞めることができただけで、社会環境に特徴づけられるこれらの志向は、若い世代共通のもののようにも感じる。
そして、(1)~(6)は、全て日本でも当てはまる現象だ。食品偽装や放射能問題、不景気、強い女性の負担感。そして、高学歴化や少子化も進行し、不況下でも子育ては過熱している。
実は、日本マーケティング協会でも「専業主婦2.0」と言い換えて、特集を組んでいるii。開催されたセミナーではiii、専業主婦2.0は高学歴で夫が高収入の女性に限った現象ではなく、20~30代の若い世代全体の「マインド」を指すと解説されていた。バブル崩壊後の不況下で育った世代は、社会や勤め先への期待が低く、生活を充実させる志向や家族志向が強い。米国では母親世代だが、日本では先輩世代が仕事と育児の両立で疲弊している様子を見て、若い女性たちは閉塞感を感じている。また、男性でもバブル期のような会社との蜜月時代は終わっている。仕事以外のプライベートも充実させたいという意識が強まり、より若いほど家事や育児への関心も高いようだ。もはや、「専業主婦2.0マインド」は女性だけのものではない。さらに、現代社会では、安くて高品質なモノ・サービスがあふれており、ユニクロやコストコを利用すれば、節約しながら丁寧に子育てをすることもできる。
さて、筆者も30代の子育て世代であり、「専業主婦2.0マインド」に心当たりがある。(局所的な話であり大変恐縮ではあるが)実際に、大学時代の友人にもママ友にも、安定した職を離れて子育てにシフトチェンジした女性がいる。また、保育園の保護者会で、参加者のうち3分の1が父親だったこともある。東日本大震災後で放射能問題が浮上した際、保育園の給食説明会では、積極的に質問する父親の姿も目立っていた。
翻って日本では、「女性の活躍」が促進されている。成長戦略では、20年までに指導的地位に占める女性の割合を3割と掲げている。この3割の候補となる女性には、いわゆる高学歴・エリート層も多く含まれる。しかしながら、この層ほど専業主婦2.0となる可能性が高い。また、高収入世帯の女性がたまたま仕事を辞めているだけで、「専業主婦2.0マインド」自体は、程度の差はあれ、世代共通として持つものだ。景気が上向き、配偶者の年収が増えれば、後に続く女性が増える可能性もある。
政府は、女性の労働力に期待を寄せるのであれば、「専業主婦2.0マインド」を把握しないままでは、効果的な政策は望みにくい。例えば、女性の就労環境整備として、待機児童や小1の壁の解消が進められているが、受け皿(量)の確保だけでなく、同時に質への配慮も必要だ。また、子どもを預けて安心して働くためには、保育や就労環境の整備だけでなく、食の安全やエネルギー問題なども絡んでくる。
現代社会では自衛しなければならない問題が山積みだ。現在の子育て世代は、自分のキャリアを優先し家庭や子育てがおろそかになるような生活には、価値を見出しにくい。
(2014年09月16日「研究員の眼」)
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- プロフィール
【職歴】
2001年 株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ入社
2007年 独立行政法人日本学術振興会特別研究員(統計科学)採用
2010年 ニッセイ基礎研究所 生活研究部門
2021年7月より現職
・神奈川県「神奈川なでしこブランドアドバイザリー委員会」委員(2013年~2019年)
・内閣府「統計委員会」専門委員(2013年~2015年)
・総務省「速報性のある包括的な消費関連指標の在り方に関する研究会」委員(2016~2017年)
・東京都「東京都監理団体経営目標評価制度に係る評価委員会」委員(2017年~2021年)
・東京都「東京都立図書館協議会」委員(2019年~2023年)
・総務省「統計委員会」臨時委員(2019年~2023年)
・経済産業省「産業構造審議会」臨時委員(2022年~)
・総務省「統計委員会」委員(2023年~)
【加入団体等】
日本マーケティング・サイエンス学会、日本消費者行動研究学会、
生命保険経営学会、日本行動計量学会、Psychometric Society
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