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2014年公的年金財政検証結果を見渡す-“甘い”ばかりではない政府の見通し。女性の労働参加やリスクシナリオを見据えて議論の充実を
保険研究部 上席研究員・年金総合リサーチセンター 公的年金調査室長 兼任 中嶋 邦夫
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6月3日に公的年金の財政見通しが5年ぶりに発表された。一部では“甘い”という批判も見られるが、公表された試算結果を見渡すと、“甘い”ケースばかりではないのが分かる。根本的な課題である女性の就労促進や少子化対策に注力するとともに、リスクシナリオを見据えて年金改革の議論を進める必要がある。政府は財政見通しと同時に改革の選択肢を示しているが、その数は少なく、他の案も検討するなど議論の充実が求められる。
1―ポイントは「いつまで給付削減が続くか」
結果をみる前に、見方を確認しておこう。2004年の改正で、年金財政の調整弁は保険料から給付へと転換している。
従来は、予想以上に少子高齢化が進んだり経済が伸び悩む場合には、将来の保険料を引き上げて年金財政のバランスをとってきた。しかし、度重なる保険料の引き上げに対して経済界や労働組合からの反対意見が強まり、2004年改正では2017年度に保険料の引上げを打ち止めにすることが決まった。その代わりに、年金財政が破綻しないよう、いわば収入減に合わせて財布のひもを締める形で、給付を削減することになった。
とはいえ、受給者への影響を考えると給付を一気には削減できない。そこで、段階的に削減して「ここまで削れば年金財政は大丈夫」となったら給付削減を終了する仕組み(マクロ経済スライド)が採用された。
そのため、年金財政の見通しを見る際は、年金財政が破綻するかどうかよりも、いつまで給付削減が続くのかや、その結果どこまで給付が下がるのかに注目する必要がある。
2―「女性の労働参加と少子化抑制の同時達成」がカギ
今回の財政見通しでは経済の前提が8通り用意されたが、アベノミクスの奏功を見込んだ5つのケース(A~E)では、給付削減の終了年と削減後の年金額がほぼ同じ結果となった[図表1]。これは、経済が良くなっても年金財政の改善に及ぼす影響には限界があることを示している。
アベノミクスの奏功を見込まないケース(F~H)は、前述の5ケースより給付削減の終了が遅れる結果となった。特にケースFは、物価や賃金の前提がケースEとほぼ同じにもかかわらず、結果に大きな違いが出た。両者の比較から、女性を中心として労働参加が進むか否かが年金財政に影響することが分かる。
また、アベノミクスが奏功するケースCやEでも、出生率が低下し全国平均が現在の東京並み(1.12)に下がったケースでは、給付削減の終了が遅れる見込みとなった。
このように試算結果を見渡すと、女性の労働参加と少子化の抑制の同時達成が重要なことが分かる。我々は、このようなケースを「実現困難」と捉えずに、子どもを育てながら仕事を続けられる社会の実現に向けて社会をどう変えていくか、具体策の検討に注力すべきだろう。
3―女性の労働参加やリスクシナリオを見据えて議論の充実を
社会として上記の検討を進めるのと同時に、年金制度としては、女性の労働参加や少子化抑制に寄与したり、リスクシナリオに対処するための見直しが必要となる。
女性の労働参加や少子化抑制に寄与する見直しとして、政府が示した改革の選択肢には厚生年金の適用拡大が盛り込まれている。現在の制度では、厚生年金が適用されない範囲(例:週労働時間30時間以内や雇用期間2か月以内)に就労を調整する行動が見られる。適用範囲を拡大(例:週20時間以上や雇用期間1か月以上)することで、調整余地を狭めて就労を促す効果が期待できる。さらに、就労を調整しなくなることで育児休業の取得要件(1年以上勤め、子どもが1歳になっても勤めることが見込まれること)を満たすような働き方が増え、少子化抑制にも貢献する可能性がある。
一方、年金財政が備えるべき主なリスクには、少子化の進展、長寿化の進展、低インフレやデフレがある。これらの状況では年金財政が悪化するため、給付削減を延長して財政バランスをとる必要が出てくる。給付削減が長引く結果、将来世代の給付が低下してしまうのが問題だ。
これらのリスクのうち少子化の進展に対しては、冒頭で紹介したマクロ経済スライドの中に「現役世代の減少に合わせて年金を削減する」仕組みが、既に盛り込まれている。これにより、現役世代の減少に伴って保険料収入が減るのに合わせて、支出である年金給付が減り、財政バランスが保たれるようになっている。
長寿化の進展は、受給者の増加を通じて年金財政を苦しくする。そこで、長寿化による財政悪化を防ぐため、マクロ経済スライドには余命の伸び分として年0.3%の削減が織り込まれている。ただ、0.3%は制度設計時の計算であり、現時点で再計算すると0.4%になる。政府が示した改革の選択肢には、基礎年金の計算基礎となる加入期間を拡大したり、65歳以降も働き続けることで将来の年金額を増やす案が盛り込まれているが、マクロ経済スライドの余命の伸び分の見直しは含まれていない。長寿化進展にあわせた見直しも、選択肢として議論すべきだろう。
低インフレやデフレの場合、現在の仕組みでは受給者を保護する観点から、マクロ経済スライドによる給付削減が制限される。当面の受給者にとってはありがたい措置だが、その分年金財政が悪化し、将来の給付が低下する。そこで政府が示した改革の選択肢には、この制限する仕組みを撤廃しマクロ経済スライドを常にフル稼働させることが盛り込まれている。この案も確かに有効だが、マクロ経済スライドを適用するベースとなるスライド率(本則スライド率)にもデフレ時に給付を保護する仕組みが入っている。この点も併せて見直すことで、デフレで年金財政が悪化するリスクを減らすことができる1。
これまでに挙げたリスクシナリオを想定した見直し案は、将来世代の給付をなるべく減らさないようにする見直しであり、その多くは現在や近い将来の給付額を抑制する内容である。痛みの分かち合いに各世代の納得を得るためには、見直すか否かの2択ではなく、できる限りの選択肢を用意して、どの程度の痛みなら受け入れられるかなどについて議論を深める必要があるだろう。
(2014年08月07日「基礎研マンスリー」)
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03-3512-1859
- 【職歴】
1995年 日本生命保険相互会社入社
2001年 日本経済研究センター(委託研究生)
2002年 ニッセイ基礎研究所(現在に至る)
(2007年 東洋大学大学院経済学研究科博士後期課程修了)
【社外委員等】
・厚生労働省 年金局 年金調査員 (2010~2011年度)
・参議院 厚生労働委員会調査室 客員調査員 (2011~2012年度)
・厚生労働省 ねんきん定期便・ねんきんネット・年金通帳等に関する検討会 委員 (2011年度)
・生命保険経営学会 編集委員 (2014年~)
・国家公務員共済組合連合会 資産運用委員会 委員 (2023年度~)
【加入団体等】
・生活経済学会、日本財政学会、ほか
・博士(経済学)
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