コラム
2014年07月15日

巨大化するスマホからの警鐘

経済研究部 上席エコノミスト 上野 剛志

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スマホ(スマートフォン)の巨大化が止まらない。登場初期には画面サイズ3インチ台が主流であったのがどんどん大きくなり、現在のラインナップは5インチ台が主流になっている。中には6インチ台の機種も存在している。気になったので調べたところ、携帯大手3社がホームページに掲載しているスマホ製品(7/10現在、iPhoneは除く)のうち、およそ6割強の機種が5インチ以上であった。残りは4インチ台だ。過去の電子製品は技術進歩に伴って小型化していく流れが一般的であっただけに、特異な動きである。

スマホが巨大化した最大の理由はゲームやSNS、インターネットの閲覧などにおいて、画面が大きい方が見やすいためだと思われる。また、巨大化することで、スマホの弱点であるバッテリーの容量を大型化できるという利点もあるようだ。ただし、巨大化によるデメリットもある。それは携帯性や(片手での)操作性が犠牲になることだ。筆者の周囲やインターネット上の意見を見ていても、この巨大化についての賛否は分かれている。
   また、そもそもスマホ登場前の携帯電話(いわゆるガラケー)を支持する人もいる。理由は様々であるが、費用の面を除くと、高い操作性(物理キーを持つことによる入力のしやすさ)とバッテリーの持続時間を評価する声が多い。通常、製品の発展過程においては、旧型から新型へのシフトが着実に進む。例えば、ブラウン管テレビから液晶テレビへのシフトは急速に進み、現在は「ブラウン管支持派」を見かけないのに対し、「ガラケー支持派」が一大勢力であり続けているのは印象的だ。

携帯電話に対するこのような意見の相違は、「そもそも携帯電話にその人が何を一番求めるか?」に起因しており、一概に優劣の問題ではない。パソコンのような機能や環境を求めるのであれば、よりパソコンに近い巨大スマホが最適だろう。逆に通話やメール機能を重視するのであれば、操作性の高いガラケーという選択が最適かもしれない。また、筆者のような小型スマホ派は、パソコン機能と操作性・携帯性の両立を重視していると考えられる。

このように、消費者の嗜好は多様であるのに対し、供給者側(メーカーやキャリア)のスマホシフト、さらに巨大化の流れは顕著である。とりわけ問題に感じるのは、「一斉に右へならえ」的な動きを見せていることだ。結果として、既述のとおり製品に占める巨大スマホの割合が高まり、小型スマホ派やガラケー派にとっては、選択肢が非常に限られてしまっている。
   巨大化が世界的な業界の潮流なのかもしれないし、幅広い製品ラインナップを維持することはメーカー等の採算という点からマイナスであることは理解できる。ただし、それは供給者側の都合のように映る。やはり大切なのは、まず消費者の多様なニーズに応えることではないだろうか。現に国内自動車業界は車台共有化などのコスト削減努力を行いながらも、ハイブリッド車、SUV、ミニバン、セダン、スポーツカー、軽自動車など幅広い製品群を維持している。そして、それぞれの車種が独自の進化を続けることで消費者の多様なニーズに応え、世界的に高い支持を得ている。
   過去、一部の日本企業は何に使うのかよくわからないような高機能を追求し、供給者側の作りたいもの・売りたいものに注力したため消費者離れを起こし、競争力を喪失した苦い経験があるはず。スマホの一斉巨大化を見るにつけ、そのような事態が再来することへの警鐘が発せられているように感じる。

携帯電話についても、“スマホの一斉巨大化”ではなく、幅広いニーズを汲み取り、独自の進化を遂げることによる“顧客満足の巨大化”を競い合って欲しい。そこには“商機”と“勝機”があるはずだ。

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上野 剛志 (うえの つよし)

研究・専門分野
金融・為替、日本経済

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