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地価上昇する都市、取り残される地方
先日発表された2014年1月の地価公示では、東京・大阪・名古屋の三大都市圏の全用途平均が6年ぶりに上昇に転じました。これに対して、地方圏は1993年から実に22年間も下落傾向が続いています。今回も、地方圏の調査地点の4分の3は下落しており、上昇したのは札幌、仙台、福岡など一部の大都市に過ぎません。東京など大都市を中心に再び不動産ブームが盛り上がる陰で、人口減少・高齢化で住宅需要や経済活動が落ち込む地方が取り残されていく、という構図です。
NHKテレビの『鶴瓶の家族に乾杯』という人気旅番組では、旅人二人が地方の町や村で出合う家族の絆や人情の機微に毎回泣き笑いさせられます。都会にない豊かな自然や地方ならではの生活を実感できることも多い番組なのですが、テレビカメラは地域の高齢化や過疎化が進んでいる様子も正直に映し出してしまいます。それだけに、10年、15年後に旅人の再訪がかなった時、同じように楽しく心温まる素敵な出会いがあるのだろうかと心配になります。実際、地方で見かける新しくて瀟洒な建物は、たいてい老人ホームやケアハウスなどの高齢者向け施設です。
注目される地方再生モデル
では、高齢・過疎化で地価が半永久的に下落していくような地方には、衰退の道しか残されていないのでしょうか。徳島県の神山町は人口6,000人、高齢化率46%の小さな町ですが、最近、若者や起業家の移住が増えたことで注目を浴びています。空き家再生と若者の定住を目的とした街づくりプロジェクトが契機になり、現在、9社のIT系ベンチャー企業が古民家を改修したサテライトオフィスを開設、移住者の増加に伴ってパン屋やカフェ、ビストロなどの店舗、図書館などが相次いで開業して町が大きく変わりはじめているのです。サテライトオフィスは20年以上前から議論されてきた概念ですが、インターネットの普及で場所や時間から自由な働き方が可能になってようやく実用化され、地方再生に役立っているのは喜ばしいことです。徳島県は過疎地域にまで高速・大容量の通信回線を整備しており、このような情報通信インフラがサテライトオフィス誘致や人材誘致に貢献している点も特筆すべきです。
また、これまでは業務・商業施設、マンション開発など都市型ビジネスを推進してきた不動産会社大手が、新しい事業領域として、成長余地が大きいと期待される農業への関心を強めている点も見逃せません。たとえば、耕作放棄地の再生ビジネスに参入し、メガソーラーなど再生エネルギー事業と組み合せて全国展開することを目指したり、農業ベンチャーと組んで最新鋭の設備を持つ大規模な植物工場を稼動させたり、廃校を植物工場に転用する動きがあります。
見えてきた新たな地方再生の方向
地方が主役になれる農業ビジネスや再生エネルギービジネスの成長期待に加えて、昨年、海外からの観光客が初めて1千万人を超えたことで勢いがついてきた観光立国戦略も地方再生の強い追い風です。
粗製乱造気味で差別化が難しくなってきたユルキャラやB級グルメ、ご当地アイドルに頼らなくても、四季のある豊かな自然、独自の食文化や歴史、年中行事、民芸品など地方に古くからある観光資源には、世界に広くアピールできる”クール”なものが少なくないからです。もちろん、地域で暮らす人たち自身の魅力も忘れてはなりません。いまや、ソーシャル・ネットワーク・サービスの情報発信力やネットワーク力を使えば、知る人ぞ知る地方の観光資源が世界メジャーになることも夢ではなくなりました。また、空き家対策や移住者受け入れ、ベンチャー企業支援や地場産業育成に積極的な地方自治体も増えてきました。税収に頼らず、インターネットを使って小口資金を調達する「クラウドファンディング」の活用を探る地方自治体もあります。
このような新たな地方再生の試みの多くは、不動産ビジネスが長年培ってきたノウハウや人材を活かせる分野とも重なります。かつては考えられなかったさまざまなツールや知恵を私たちが手に入れたいま、地価高騰による一攫千金を狙った1980年代後半の安易なリゾート開発ブームとはまったく異なる、成熟経済・少子高齢化時代にふさわしい地に足の付いた地方再生の方向が見えてきたのではないでしょうか。
(2014年05月09日「基礎研マンスリー」)
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