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- 行きは良い良い帰りは怖い-上昇相場はゆっくり、下落相場は急激なのは何故か
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マーケットは上昇するときスピードが遅く、下落するときは速いイメージがあるが、実際はどうであろうか。過去約15年間(1999/2/25~2014/3/24)の日経平均株価の推移を見ると、前営業日に対し上昇した日数は1,880日、下落した日数は1,821日で上昇した日数の方が59日多い。1999/2/25の日経平均株価は14,470.45円で2014/3/24の株価14,475.30円とほぼ同じ水準であるから、株価が上下に動いた幅はほぼ同じである。そのため、日数の多い株価上昇の方がゆっくりと動いたことになる。この傾向は株式市場に限らず、債券市場や為替市場でも同様の傾向が見られた。
では、何故このような結果になるのか。主に3つの理由が考えられる。1つ目は、投資家の心理。マーケットの参加者は、基本的には買いポジションを持つことになる(資金調達者(企業等)が証券を発行するため、マーケット参加者はそれに買い向かうことになる。空売りや先物で売りポジションから入ることも可能であるが、同数の買い参加者が必要になる)。そこでは、自分のポジションが儲かっているのか、損をしているのかにより、その後の行動に大きな違いが出てくる。儲かっているときは更に儲かるのではないか、と考え早く動こうとしない。あるいは、多少損してもこれまでの儲けと相殺できるため、我慢していられる。いわゆる余裕のある状態である。一方、損をしてくると、いつやめようかと必死に考え、動きが活発になる。つまり、上昇相場は投資家心理を穏やかにし、下落相場は投資家心理を焦らせる。投資家の行動はそれに応じて遅くなったり、速くなったりするのである。ギャンブルと同じで「勝っているうちはやめられない」のである。
2つ目は、情報に対する影響度の違い。マーケットは経済指標や企業業績の発表など、様々な材料により影響を受けている。仮にある銘柄の買い材料が発表された場合、多くの投資家はその銘柄を買いに行く一方、買い遅れてあきらめる人も出て来る。あきらめた人は儲かるチャンスを逃したかもしれないが、損をした訳ではないのでその後は特に何もしない。逆に、ある銘柄の売り材料が発表された場合、その銘柄を保有していた人達は売りに動く。ここでも当然に売り遅れる人が出て来るだろうが、売り遅れた人達はあきらめて動くことをやめてしまうだろうか。マーケットは更に下がるかもしれない。その損失は、直接自分の損失につながる。損が拡がる状況を黙って見ていられる人は少ない。多くの人達はあきらめずになんとか売りに出そうとする。つまり、買い遅れるのと売り遅れるのとでは状況が大きく異なる。売り遅れた場合の方が遥かに影響は大きく、より早く動こうとする。こうした状況の違いが買いと売りのスピードの違いにも影響してくる。
3つ目は、買いと売りの行動に費やすエネルギーの違い。先にも述べた通り、マーケットの参加者は、基本的には買いポジションを持つことになる。つまり、最初は買うことを考えるが、その際はいろいろなことを考える。買う銘柄、数量、時期など、判断しなければならないことは沢山あり、多くのエネルギーを費やす。つまり、行動が慎重でゆっくりしたものになる。一方、売る場合は同じように様々な要素を判断しなければならないのであるが、このようにゆっくり考える時間がない場合がある。マーケットが急激に下がり、すぐに売らなければならないときなど、いわゆるロスカットをするときは、売却する値段を予め決めておいて、その値段以下になったら自動的に売却する。つまり、買いは能動的な行動であるが、売りは受動的な行動になることがある。能動的な行動よりも受動的な行動の方が速い。そのため、同じ売りでも利食い売りは能動的な売りなのでマーケットをそれ程急激に動かさないが、ロスカットは受動的な売りであるためマーケットを急激に動かす。
このようにマーケットは上昇と下落ではそれぞれ異なる事情があり、同じように動かない。マーケットに入る(行き)ときは良くても、出る(帰り)ときは怖いのである。ポジションを持ったときは、マーケットが怖くなる前に出られるよう、買ったとき以上にエネルギーを費やす必要がある。
(2014年03月26日「研究員の眼」)
千田 英明
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