コラム
2013年06月24日

インフレ予想、インフレ体験の世代間格差~インフレを知らない人達が増えている

経済研究部 経済調査部長 斎藤 太郎

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世代によってものの見方、考え方が大きく違うことを痛感することは少なくないが、その典型例のひとつが物価に対する見方だ。
   目下の日本経済の最優先課題は約15年続くデフレからの脱却であるが、筆者の周りでは、年齢が高い人はインフレを起こすことは比較的容易だと考えているのに対し、若い人ほどデフレ脱却の実現可能性について否定的な見解を示す傾向がある。
   こうした傾向は経済統計からも確認できる。内閣府の消費動向調査(2013年5月調査)で、1年後の物価上昇を予想する消費者の割合を年齢階級別に見ると、若年層では物価上昇を予想する世帯の割合が相対的に低く、年齢階級が上がるにつれてその割合が高くなっている。29歳以下と60~69歳では20%近い開きがある(図表1)。

1年後の物価上昇を予想する消費者の割合

このように、世代によって先行きの物価に対する見方が異なっているのは、それぞれの年代で物価に関する経験が異なっていることが大きいのではないだろうか。たとえば、現在20歳代の若者は物心がついた時にはすでに日本経済はすでにデフレに陥っていたため、物価が上がったという経験がほとんどない。これに対して、60歳前後の人は大人になってから石油危機(1970年代前半から1980年頃まで)が発生したため、物価高騰を身をもって経験している。筆者は40代半ばなので、石油危機の時にはすでに生まれていたが、幼かったためほとんど記憶がない。ただ、社会人になった1990年代前半はまだ消費者物価が安定的に上昇していたので、物価上昇と物価下落を両方経験している世代といえる。
   ここで、世代毎に20歳以降に経験してきた消費者物価上昇率の平均値を計算してみると、60歳代では3%を超えているのに対し、50歳代では1.5%、40歳代では0.4%と年齢が下がるほど経験してきた物価上昇率が下がり、30歳代以下ではマイナスとなる(図表2)。1歳刻みで見ると、39歳と40歳の間にプラスとマイナスの境界線があるが、40歳未満の人が全人口に占める割合は4割強である。デフレが当たり前という人が半数近くになろうとしている。

世代によって経験してきた物価上昇率は異なる

家計のインフレ予想は、足もとの物価動向に左右される傾向があるが(詳しくはweeklyエコノミスト・レター2013/4/12号「家計のインフレ期待をどうみるか」参照)、最近の動きだけでなく、物価に関する長期にわたる経験も個人のインフレ予想に影響を及ぼしている可能性があるだろう。
   日本銀行は2%の物価上昇率を達成することを目標としているが、デフレ脱却に向けては、家計を含めた経済主体のインフレ予想の高まりが重要な鍵を握るとしている。
   これ以上デフレが長引くことは、物価上昇を経験したことのある人がさらに少なくなることを意味する。そうなると、インフレ予想が実際の物価上昇につながるというルートはますます期待しにくくなるだろう。そういう意味では、デフレ脱却は時間との闘いという側面が強いのかもしれない。

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経済研究部   経済調査部長

斎藤 太郎 (さいとう たろう)

研究・専門分野
日本経済、雇用

経歴
  • ・ 1992年:日本生命保険相互会社
    ・ 1996年:ニッセイ基礎研究所へ
    ・ 2019年8月より現職

    ・ 2010年 拓殖大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2012年~ 神奈川大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2018年~ 統計委員会専門委員

(2013年06月24日「研究員の眼」)

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