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- 北極海の海氷融解と地球温暖化 - 地球温暖化の便益と損失をどう考えるか?
北極海の氷が融けて、ついにLNG(液化天然ガス)タンカーがノルウェーから北極海航路を通って日本に到着した。昨年12月のことである。「北東航路※」と呼ばれる、シベリア沿岸を通り米国アラスカとロシアの東端の間にあるベーリング海峡を抜けるルートを通って、北九州の港に接岸した。九州電力の火力発電所に供給するためである。これは世界初の冬の北極海航路によるLNG輸送となった。
(※北米大陸北端のカナダ沿岸を通る「北西航路」もある)
従来、氷に覆われて商業利用は不可能と考えられていた北極海だが、今世紀になって地球温暖化により北極海の海氷面積が激減し通行可能となった(昨夏は観測史上、最小面積)。夏季には北極海航路を利用した貨物量が増加しており、冬季にも砕氷船先導とはいえ航行可能となったのである。
それゆえ、北極海に対して航路開設と海底資源の観点から世界的に注目が集まっている。航路については、ヨーロッパ・東アジア間の航海距離が大幅に短縮され、所要日数と燃料消費が少なくてすむメリットがある。一方、世界的な資源・エネルギー需要の高まりを背景に、天然ガスや鉱物資源の開発が期待されている。北極海開発には様々な課題も指摘されているが、北極海を挟んで太平洋と大西洋は繋がっており、ロシアとアメリカは隣同士であり、地政学的にも関係諸国の思惑が交錯する。
◆ ◆ ◆
北極海の海氷融解には商業利用という“有益性”はあるが、地球温暖化の影響の一つであり、そこだけに眼を奪われてよいのだろうか。そこで、ある大学で筆者の担当する「環境経営論」の学生(約300名)に、海氷融解と地球温暖化について意見を聞いてみた。結果は、「肯定的」の約2割に対して「否定的」は約7割であった。
代表的な肯定的意見は「地球温暖化が原因とはいえ、氷が融けてしまうものは仕方ない。それを有効に利用すべきである」。これに対し、代表的な否定的意見は「融解に伴う利用価値はわかるが、他の分野への悪影響が大きいため、まず地球温暖化防止に努力すべきである」。このことから、次のことが言えそうである。地球温暖化の影響にはプラス・マイナス両面あるが、私たちはその便益と損失について、どの観点からどう判断するかが問われている。
極海開発は航路の通年利用を想定しているが、海氷融解は単なる自然現象ではない。北極海周辺の永久凍土も融け始めていて、CO2の21倍の温室効果をもつメタンが放出され、さらに気温が上昇する悪循環が懸念される。これをサッカーに例えるならば、ピッチが端から壊れ始めているのを知りながら、試合に夢中になっているようなものである。
近年、世界中で異常気象が頻発している。このままいくと、いつどこでどうなるのかよく分からないものの、日常生活や企業活動の基盤崩壊は確実に進むだろう。このように考えると、地球温暖化による便益の享受をすべて否定するものではないが、地球温暖化の進行による損失を未然防止する方策に力を注ぐべきである。
◆ ◆ ◆
現在、世界の地球温暖化対策は停滞しているように見えるが、実は着実に進んでいる。CO2の主要排出国を含めて2020年以降の新しい排出削減枠組を2015年までに合意することが決まっている。今後、国際的な炭素税が議論される可能性もある。世界のCO2排出量を半減とすべく、世界が共同歩調で進まねばならないが、一方で北極海開発をめぐっては、現状のままでは将来的な国際紛争の恐れもある。
そこで、地球温暖化の進行を抑えつつ、北極海を世界共通の“資産”とすることは考えられないだろうか。北極海は北極点周辺を除き、現状では沿岸国に多くの権利を認める国連海洋法が適用される。しかし、一つヒントがある。大陸である南極は、「南極条約」によって領土権や軍事利用などが制限されている。これは人類の知恵であり、この考え方を北極海にも応用する方法はきっとあるはずである。
(2013年01月31日「研究員の眼」)
川村 雅彦
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