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- 一票の重みの二つの格差 ―地域間格差が助長する世代間格差―
昨年12月16日に投票が行われました第46回衆議院議員総選挙は、事前調査による予測どおり、与野党の獲得議席数が逆転し政権が交代するという劇的な結果となりました。しかしながら、政権交代が予測される重要な選挙でありながらも、投票率は59%前後に終わり、前回選挙時の69.2%を大きく下回る戦後最低水準に落ち込みました。
投票率低迷の原因としては、年末の慌しい時期の選挙であったことなども考えられますが(ただし、同じ昨年末12月19日実施の韓国大統領選の投票率は75.8%の高水準)、現行選挙制度自体に対して国民の信頼が揺らいできていることも考えられるでしょう。
信頼が揺らいできている要因のひとつとして、一票の重みの地域間格差(選挙区間格差)の問題が挙げられます。衆院選の各小選挙区の有権者数の違いにより、例えば、高知3区の有権者の一票の価値に対して、千葉4区の有権者の一票は0.43の価値しかないという問題です1。
この問題に対しては、2011年3月23日の最高裁判決により、衆院選における現在の地域間格差は『違憲状態』であるとされ、国会では、格差是正に向けた『小選挙区0増5減』法案が、判決の1年8ヶ月後の2012年11月16日に成立しました。
しかし、新たな小選挙区の策定が間に合わず、今回の選挙は『違憲状態』の区割りのままの実施となりました。憲法に反する状態を改善しないままに選挙が実施されたことが、選挙の公平性に対する信頼を揺るがせ、投票離れを助長した一因になったものと考えられます。
次に、もうひとつの要因として、一票の重みの世代間格差の問題が挙げられます。有権者人口に占める20・30歳代の若者人口のウェイトは29.9%であるのに対して、40・50歳代人口は31.7%、60歳代以降人口は38.5%ものウェイトを占めている2という問題です。
つまり、いまや若者世代は最も少数勢力となり、若者世代の選挙投票に対する影響力は、他の世代に比して小さくなっているのです。しかも、今後も若者の人口ウェイトは減少を続け、今の子供たちが有権者になる2030年には、23.5%まで減少してしまいます。その時、60歳以上の人口ウェイトは45.2%であり、若者の約2倍の集団となっているのです3。
そもそも若者の人口ウェイトが減少してきたために、選挙における若者世代の影響力も減少してきているのですが、若者の居住場所の地域的偏在という実態が加わりますと、より格差問題は深くなります。例えば、一票の価値トップの高知3区を有する高知県では、若者人口のウェイトが全国平均より低いのに対して、一票の価値最下位の千葉4区を有する千葉県や、一票の価値の低い選挙区の多い東京都では、若者人口のウェイトが全国平均より高くなっています(図表1)。
全国的にみましても、一票の価値の高い地方部ではそこに居住する若者は少なく、一方、一票の価値の低い都市部には多くの若者が居住している状況となっています。したがって、前述しました一票の価値の地域間格差という状況が、一票の価値の世代間格差をさらに助長する方向に影響を及ぼしている可能性が高いと考えられます。
そこで、実際に地域間格差が世代間格差に及ぼす影響について、試算をしてみました。
各選挙区の年齢別有権者数にもとづき、現行の選挙区の区割り体制下における投票権パワーの、世代別構成割合について試算したものが図表2です。(ここでは、47都道府県単位で計算しましたので、参議院の地方区の試算結果は正確ですが、衆議院の小選挙区については参考値であり、実際はより若者のパワーが少ない数値結果になるものと思います4。)
試算結果をみますと、若者の影響力は、人口ウェイトでは29.9%なのですが、衆議院小選挙区における投票パワーでは29.5%(参考値)、参議院地方区における投票パワーでは29.0%へと小さくなっています。29.9%から29.0%への減少は0.9ポイントの減少ではありますが、比率でみれば3.0%の減少であり、しかも推測ではなく事実として減少しているのです。
実際の選挙投票においては、世代別の人口構成ウェイトの違いから生じる世代間格差よりも、さらに大きな一票の重みの世代間格差が生じていることが判明しました。若者が、「我々の意見が政治に反映されにくいシステムになっている」と不満を感じていることは、客観的に見てもかなり正しいと言えるのです。
『違憲状態』にある地域間格差是正に向けて、『0増5減』を早期に完遂することは当然でありますが、揺らぎつつある選挙制度に対する信頼を回復させるためには、二つの格差是正に向けたより抜本的な大きな議論が必要であると思います。
(2013年01月07日「研究員の眼」)
中村 昭
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