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『リスク』や『ベンチマーク』がわからない投資家はディスロージャー資料を見ない~投資知識と投資行動の関連性分析~
北村 智紀
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■見出し
1――はじめに
2――分析方法
3――分析結果
4――まとめ
■introduction
投資信託の目論見書や運用報告書を見ると、『リスク』、『ベンチマーク』、『資産配分』、『デュレーション』、『組入比率』などの投資に関する専門用語が多く載っている。これらの用語は投資家が投資意思決定をする際に重要な概念であり、目論見書や運用報告書などでは、投資家がこのような専門用語を知っていることを前提に書かれている。
しかし、現実にはこのような用語を理解している一般の投資家はそれほど多くないと思われる。また、用語が意図する専門的な概念ではなく、少し異なる一般的な意味を考えてしまうなど、間違えた解釈をする可能性もある。そのため、老後の準備のための資産運用を行う際に、このような投資に必要な資料・情報が十分に生かされずに投資が決められている可能性がある。
例えば、一般的にリスクと言えば、投資した商品の元本割れ、あるいは単に値下がりすることを思い浮かぶかもしれないが、目論見書や説明資料などで使われている『リスク』は、投資理論で言うリスクであり、収益率の変動の大きさである標準偏差を表している。例えば『リスク』が20%とは、ファンドの1年後の収益率が確率68%で±20%の範囲に、確率99%で±40%の範囲に収まること、つまり、どのくらい収益がプラスあるいはマイナスにぶれる可能性があるか示しており、投資家が考える元本割れリスクとは、意味が同じにはなっていない可能性がある。
また、『ベンチマーク』とは、投資のモデルとなる有名な指数、あるいは投資の評価を行う際に比較対象となる指数のことである。国内株式であれば東証株価指数(TOPIX)、国内債券であればNOMURA-BPIなどがベンチマークになることが多い。投資の専門家であれば、有名なベンチマークとなる指数については、その変動性(『リスク』)や期待できそうなリターンなどについて、ある程度の見当をつけることができる。つまり、あるファンドのベンチマークがわかると、そのファンドの特性が概ね理解できる。そのため、ファンドのベンチマークには大きな意味があり、投資意思決定には非常に重要な情報である。
しかし、一般の投資家が『リスク』や『ベンチマーク』の意味について正確に理解していない場合は、目論見書や運用報告書の内容が分かり辛いことや、誤解が生じる可能性がある。あるいは、書いてあることが専門的すぎることにより敬遠され、全く読まれない可能性もある。
そこで本レポートは、(1)投資家がファンド選択を行う際に利用することが考えられる典型的なディスクロージャー資料である「目論見書」、ファンドの概略が記載される「説明資料」、過去の運用成績が記載される「運用報告書」を投資家が見るか否かについて、(2)このようなディクスロージャー資料に記載されている典型的な項目であるファンドの「特色や運用方針」、過去の実績を表す基準価額の「グラフ」、ファンドの構成内容である「資産構成や組入れ銘柄」のうち、投資家がどの項目を重視するかについて、『リスク』と『ベンチマーク』に関する正確な知識がある者とそうでない者で、どのように異なるかを検証した。金融に関する知識・経験が金融商品の選択に影響するかを分析した研究は多くあるが、筆者の知る限り、目論見書や運用報告書等にある情報のうち、投資家が何を重視して意思決定を行うかについての研究は非常に限られている。
分析結果を先に述べると以下のとおりである。(1)どのような資料を見るか否かについては、『リスク』と『ベンチマーク』について正しい知識を持っている者と、正解でない知識を持っている者では差が生じなかった。一方、これらが「わからない」と回答した者は、資料を見ない傾向が高かった。(2)どのような項目を重視するかついても、『リスク』と『ベンチマーク』について正しい知識を持っている者と、正解でない知識を持っている者では差が生じなかった。一方、「わからない」と回答した者は、何れの項目も重視しない傾向があった。
(2012年11月30日「基礎研レポート」)
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