2012年10月31日

都心のビルに「猫カフェ」を-不動産とソーシャルビジネスの接点

松村 徹

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普段、ニュータウンに住んで都心のオフィス街に通勤しているせいだろうか、古い下町や地方の観光地に行くと屋外で猫を見かけることが多いように思う。野良猫ばかりでなく、放し飼いの家猫も少なくないようだが、お寺や神社のある古い町並みには、路地や生垣、縁の下や庭など猫が自由に行き来したり、隠れたりできる空間がたくさんあって暮らしやすそうだ。動物との共生が当たり前で、野良猫に寛容な(間違っても石を投げたり追いかけたりしない)高齢者が多く、自動車の通行量も少ないので安心して暮らせるのだろうか。最近は、和歌山電鉄の”たま駅長”や東京都台東区の谷中銀座商店街、”SKSアイドル猫新人選挙”で話題になった佐賀市県庁通り商店街など、町おこしに猫の手を借りるケースも目立っている。また、野良猫によるトラブル対策として、猫好きな地域住民が協力して野良猫の世話をして管理する「地域猫」の取組みも全国に広がっている。

残念ながら、大都市の埋立地や工場跡地などタワーマンションが林立する住宅地の屋外では、犬の散歩は見かけても猫の子一匹にも出会うことはない。これは、人工的に整備された街区である上、猫の飼育ができる分譲マンションでも、共用部や敷地外での放し飼いは認められておらず(そもそもセキュリティー設備に阻まれて自由に出入りできない上、高層階では転落事故の危険もある)、屋内飼育にならざるをえないためだ。一方、ペット可能でも猫の飼育を認める賃貸住宅はまだ多くない。それだけに、猫好きのオーナーが建てた猫と暮らせるアパートは、空き室がすぐに埋まるほど人気があるそうだ。このアパートでは、猫飛び出し防止用引き戸やキャット・ウォーク、脱出防止用ベランダ塀、専用扉とトイレスペースなど設備面の工夫だけでなく、保護した野良猫を引き取って飼う場合は家賃の一部を還元する「のらねこ割」も用意されるなど、猫との共生がしっかり考えられている。

管理規約上の制約がなくても、猫アレルギーの家族がいる、忙しくて十分な世話ができないなど、さまざまな理由から自宅で猫を飼うことができず、かといって野良猫に無責任な給餌もできない猫好きのために、たくさんの猫と触れ合えて癒される「猫カフェ」が全国に広がっている。もっとも、有名カフェチェーンのように駅前ならどこにでもあるわけでないが、情報サイトには全国で100強の店舗が登録されており、個人のほかNPO法人が経営している店も少なくないようだ。注目すべきは、自治体で殺処分されかけていた猫をNPO法人が引き取り、健康診断などを受けさせた後、提携する「猫カフェ」に出して信頼できる里親を探す「里親募集型の猫カフェ」があることだ。東京には、「猫カフェ」併設の譲渡施設を運営して、年間600匹の紹介実績を挙げているNPO法人(東京キャットガーディアン)もある。社会問題をビジネスの手法で解決することをソーシャルビジネスというが、毎年、十数万匹の猫(無責任な飼い主が生後間もない子猫を施設へ持ち込むことが多いという)が全国で殺処分されている現実に眼を向ければ、行政とNPO法人と「猫カフェ」が連携して里親を探す仕組みはそのひとつといえよう。

このような社会的に意義のある意欲的な試みであっても、家賃が高い都心のオフィス街での営業は難しいようだ。しかし、東京都心5区だけで65万坪もあるオフィスビルの空きフロアの一部が格安で提供されれば、都心のビルで「里親募集型の猫カフェ」の運営ができると同時に、普段、動物に触れる機会のないオフィスワーカーや都心居住者のまたとない憩いの場にもなるのではなかろうか。もちろん、ビルの魅力づくりや集客効果も期待できる上、ビルオーナーが施設運営に積極的に関与すれば、さまざまなノウハウをペット共生型分譲マンションや賃貸マンションの企画や管理に活用することも可能だろう。不動産事業は企業活動や生活の場を提供するビジネスだが、地域社会への配慮や貢献も求められる事業でもあり、日頃から社会問題に対する感性を磨き、情報のアンテナを広く張り巡らせていれば、「猫カフェ」に限らず、不動産とソーシャルビジネスとの接点は案外たくさんあるのではないだろうか。

(2012年10月31日「基礎研マンスリー」)

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