コラム
2012年07月06日

厚生年金の受給者・加入者は消費税増税を受け入れられるはず-経済実験による検証

北村 智紀

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日本の年金制度が危ないと言われて久しい。その中で消費税増税法案が衆議院を通過した。消費税の増税が嫌か、年金額の削減が嫌かと尋ねられたら、誰もがどちらも嫌だと答えるだろう。自分のお金が減るのだから嫌なのは当然だ。しかし、少子高齢化が進むなかで年金改革が必要なことは多くの人が理解しているはずだ。

残念ながら使えるお金は限られている。全員が全部を満足できる年金改革は存在しない。何かを得るためには、何かを諦めなければならない世界だ。一つ一つの改革が良いとか嫌だというのではなく、全体像を示し、消費税の引き上げよりも年金額の削減の方が受け入れられるのか、あるいは年金を受け取れる年齢が上がるよりも、消費税増税の方が望まれるのか、どのような改革なら受け入れることができるか選択の問題だ。

筆者等の研究グループでは、厚生年金の加入者・受給者合計1,600名を対象に、消費税の増税、保険料の引き上げ、年金額の削減、年金の支給開始年齢の引き上げ、積立金運用での運用リスクの引き上げを想定した年金改革案のうち、どれを優先し、どれを諦めることができるか経済実験を行った。この実験手法は米国カリフォルニア大学のマックファーデン教授とシカゴ大学のヘックマン教授が、後にノーベル経済学賞受賞に至った研究手法を応用したものである。

実験結果は未だ分析途中ではあるが、およその結果は以下のとおりだ。受給者では、他の改革項目よりも消費税5%の増税が受け入れ易いという結果だった。これは一定の犠牲の下、社会全体の安定を受給者が望んでいるものと解釈できる。一方、加入者では、生活スタイルが大きく変わる可能性がある年金の支給開始年齢引き上げが最も嫌な改革であった。消費税増税は嫌なことに変わりないが、他と比べて特に嫌がられる改革ではなかった。特に興味深いのは、受給者・加入者ともに、直ぐに負担増を求められるよりも、積立金運用で株式投資を増やすなどしてリスクをとることで、将来の株価上昇に期待する改革が望まれていた点だ。

この結果は、消費税の増税や年金給付の削減という改革を個別に見せた場合にはどれも反対だが、一体した改革案を示せば、受給者・加入者はそれなりに優先順位を考え、改革に納得感が得られる可能性があることを表すものであろう。社会保障と税の一体改革とはそのようなものなのだから、全体像を示して、受け入れられるか否か問うてほしい。

※詳しくは、ワーキングペーパー「厚生年金加入者・受給者はどのような年金改革案であれば受け入れられるのか」(http://www.nli-research.co.jp/company/pension_forum/wp20120423.pdf)を参照。

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北村 智紀

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