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ノンアルコールビールがアルコール市場を救う?~少子高齢・人口減少時代のマーケットのとらえ方
生活研究部 主任研究員 久我 尚子
ビールがおいしい季節になってきた。最近ではビールというと本家のビールよりも「ノンアルコールビール」「アルコールフリー」の勢いが強い印象がある。
2009年4月にキリンビールが『キリンフリー』を発売してから、アサヒビール、サントリー酒類、サッポロビールなども追随し、気づいてみれば各社のビール・ラインナップにノンアルコールビールが加わっている。酒税法の分類ではアルコール含有量が1%未満は酒類ではなくビールテイスト飲料に該当する。アルコール含有量が0.3%程度のごく微量であれば四捨五入で0%と表示することもできるため、『キリンフリー』発売当初は、アルコール含有量が0.00%であることが売りだった。しかし、最近ではカロリーゼロ、健康成分オルニチンを配合するなど、付加価値を加えた競争に発展している。
このような中、本家のアルコール市場はどうなっているのだろうか。「若者のアルコール離れ」とも耳にするが、実際はどうなっているのだろうか。
アルコールの販売数量は近年、減少傾向にある(図1)。内訳も変化しており、以前はビールが過半数を占めていたが、現在では3割へと減少している。また、清酒も1割を超えていたが、1割を切るようになっている。一方、リキュールや第三のビールが含まれるその他の醸造酒等は存在感を増している。発泡酒は2003年の酒税法改正までは増加していたが、同法で税率が引き上げられた後は減少に転じている。以上より、アルコール市場は縮小傾向にあるだけでなく、消費者の嗜好が低アルコール嗜好へとうつっている様子もうかがえる。
また、飲酒習慣率の変化をみると、男女とも20代では減少しており、確かに「若者のアルコール離れ」がうかがえる(図2)。しかし、男性では30~50代でも減少が目立ち、実は男性ではアルコールから離れているのは若者だけではない。この背景には、不況による飲酒機会の減少や消費抑制の影響があげられる。また、男性の中年層における飲酒量の減少が、アルコール販売数量全体の減少につながっているのだろう。
以上より、アルコール市場の縮小要因について、(1)消費者の嗜好の変化(若者をはじめとしたアルコール離れや低アルコール嗜好の強まり)、(2)不況による消費の抑制があげられる。さらに、ノンアルコールビールの開発背景でもある、(3)飲酒運転の罰則強化についても触れるべきだろう。いくつかの痛ましい事故をきっかけに、2002年と2007年に飲酒運転に関わる法改正が実施された1。確かにそれぞれの翌年の販売数量は、他の年より減少幅がやや大きい。
また、市場縮小要因として、現在よりも将来的に影響が大きいものとして、(4)少子高齢化の影響がある。アルコールが飲める成人人口のうち20~64歳の人口は2030年には現在より2割減少する。一方、65歳以上の高齢人口は2割増加し、総人口の4割を占めるようになる。アルコールは若年層や中年層の消費が期待され、高齢層の大量消費はのぞみにくい商品であり、20~64歳の人口減少は切実な問題である。
ここで販売数量の減少を、例えば商品単価の上昇で補うと考えると、自動車や家電製品のような耐久消費財では、新機能の追加などによる大幅な価格調整を実行しやすいだろう。しかし、アルコールをはじめとした消費財では、何らかの付加価値を追加しても、耐久消費財ほど大幅な価格調整は難しい。従来商品を工夫するよりも、高齢層をターゲットとした商品開発に注力する方が効率は良いだろう。ノンアルコールビールは健康志向が強い高齢者とも親和性が高い。当初の狙いはビールの代用であり、必ずしも高齢層の取り込みを目的としたわけではないだろうが、結果的に市場の高齢化にも対応できるのではないだろうか。さらに、アルコールが苦手な層や妊娠中の女性など、もともとアルコール市場の対象ではなかった層にまで広がっており、結果的に新しい市場を創出している。
少子高齢化・人口減少時代の商品市場は、人口動態の変化を的確に捉え、高齢者を効果的に取り込んでいくことが鍵である。また、人口減少により市場が縮小していく中では、新しい市場も開拓できれば理想的である。
ノンアルコールビールの在りようは、結果論ではあるが、他の商品市場の向かうべき方向性として参考になるのではないだろうか。

03-3512-1878
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