- シンクタンクならニッセイ基礎研究所 >
- 経済 >
- 日本経済 >
- エネルギー問題のもう一つのリスク
文字サイズ
- 小
- 中
- 大
震災後、日本のエネルギー戦略を巡る論議が盛んに行われている。議論の中心は従来からの「温室効果ガス削減」に加え、「原発依存」をどうするかという点にあるが、日本のエネルギー構造には「中東依存」というもう一つのリスクが潜んでいる。これまで多様化・分散化の歴史を辿ってきたものの、最大のエネルギー源が原油である点は長らく変わっておらず、2010年度に国内供給された総エネルギーのうち約4割が原油である。さらに近年では非中東産油国の輸出減少等に伴って中東からの輸入割合が原油全体の9割弱にまで上昇しており、エネルギー全体で見ても中東原油への依存度が3割を超える状況が続いている(図表-1)。
そもそも特定地域に大きく依存する構造はエネルギー安全保障上好ましくないうえ、中東地域では従来宗教対立や石油利権を巡る争いが多く、現在も民主化運動やイランの核開発疑惑などで不安定な情勢にある。このいわゆる地政学リスクが高い地域に我が国のエネルギーは大きく依存している。原油等の国家・民間備蓄が約200日分あるとはいえ、あくまで緊急避難用に過ぎない。
最近TPPを巡る議論などで食料安全保障に絡めた食料自給率(約40%(注1))への言及が多くみられるが、我が国のエネルギー自給率はわずか4%(注2)に過ぎない。また経済の観点でも、新興国の需要拡大や投機マネーの流入等に伴う近年の原油価格高騰により原油輸入額のGDP比が上昇しており、「原油の動向が日本経済に与える影響」が拡大している(図表-2)。
政府は今夏をめどに新しいエネルギー計画を取りまとめる方針であるが、この地政学リスクへの対応の観点も不可欠である。国産が可能な自然エネルギーや埋蔵量が世界に分散している天然ガス、近年開発が進む新型化石燃料(シェールガス・オイルなど)も含め、安定的なエネルギー調達構造を整えていく必要がある。2012年は日本のエネルギー戦略にとって歴史的な分岐点になる。
(2012年03月26日「基礎研マンスリー」)
このレポートの関連カテゴリ

03-3512-1870
- ・ 1998年 日本生命保険相互会社入社
・ 2007年 日本経済研究センター派遣
・ 2008年 米シンクタンクThe Conference Board派遣
・ 2009年 ニッセイ基礎研究所
・ 順天堂大学・国際教養学部非常勤講師を兼務(2015~16年度)
上野 剛志のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
---|---|---|---|
2025/09/18 | 資金循環統計(25年4-6月期)~個人金融資産は2239兆円と過去最高を更新、投信・国債・定期預金への資金流入が目立つ | 上野 剛志 | 経済・金融フラッシュ |
2025/09/05 | 金(Gold)の強気相場は続くか~3600ドル到達後のNY金見通し | 上野 剛志 | Weekly エコノミスト・レター |
2025/08/22 | 米利下げ再開が視野に、円高進行の目途は?~マーケット・カルテ9月号 | 上野 剛志 | 基礎研マンスリー |
2025/08/12 | 貸出・マネタリー統計(25年7月)~銀行貸出が連月で急増、定期預金も増勢を拡大中 | 上野 剛志 | 経済・金融フラッシュ |
新着記事
-
2025年09月18日
資金循環統計(25年4-6月期)~個人金融資産は2239兆円と過去最高を更新、投信・国債・定期預金への資金流入が目立つ -
2025年09月18日
欧州委員会、Googleに制裁金-オンライン広告サービス市場での支配力濫用 -
2025年09月18日
米住宅着工・許可件数(25年8月)-着工件数(前月比)は減少に転じたほか、市場予想も下回る -
2025年09月17日
ふるさと納税「お得競争」の終焉-ポイント還元の廃止で問われる「地域貢献」と「持続可能な制度」のこれから -
2025年09月17日
貿易統計25年8月-関税引き上げの影響が顕在化し、米国向け自動車輸出が数量ベースで大きく落ち込む
レポート紹介
-
研究領域
-
経済
-
金融・為替
-
資産運用・資産形成
-
年金
-
社会保障制度
-
保険
-
不動産
-
経営・ビジネス
-
暮らし
-
ジェロントロジー(高齢社会総合研究)
-
医療・介護・健康・ヘルスケア
-
政策提言
-
-
注目テーマ・キーワード
-
統計・指標・重要イベント
-
媒体
- アクセスランキング
お知らせ
-
2025年07月01日
News Release
-
2025年06月06日
News Release
-
2025年04月02日
News Release
【エネルギー問題のもう一つのリスク】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。
エネルギー問題のもう一つのリスクのレポート Topへ