2012年03月26日

バトン

取締役 前田 俊之

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今年は閏年、そしてオリンピックの年だ。四年に一度の開催ということもあり、オリンピックでは感動的なシーンがいくつも生まれる。前回の北京大会もその例外ではない。数々の名場面が頭をよぎるが、その中に男子の400メートルリレー決勝も含まれるのではないだろうか。日本チームはジャマイカ、トリニダードトバゴに続いてゴールにはいり、短距離走で念願のメダルを獲得した。
陸上の短距離といえばジャマイカのボルト選手のような才能に恵まれた人材が次々と出現している。日本の選手が世界と伍して戦うことはほとんど不可能に見える。だが、このリレーチームはそんな思い込みを見事に砕いてくれた。リレー競技の醍醐味は選手一人ひとりの記録の合計とレースの結果が必ずしも一致しないことにある。永年、日本チームはバトンパスの練習に時間をかけ、如何にスムーズかつ確実にバトンをつなぐかに工夫を重ねてきた。その成果は世界選手権での連続決勝進出やアテネオリンピックでの4位入賞などに現れていた。従って北京での快挙は決して「まぐれ」ではない。
競技場のトラックにはコースを分ける白線以外にもいろいろなマークが打たれている。そのひとつに緑色のテークオーバーゾーンがある。これはバトンパスをすることを許された範囲を示すもので、距離にして20mほどある。更にその10m手前には青色のダッシュラインが引かれている。選手はこの青色のラインからスタートし、加速をしながら緑色の線に挟まれたゾーンのなかでバトンを受け取ることになる。口で言うのは簡単だが、全速力で走る選手同士のタイミングは簡単に合うものではない。そこで選手はテープなどを使って、自分がスタートを始める数メートル手前に更にもう一つの目印を打つ。そして前走者がこの目印に来た時に一気にスタートダッシュを開始する。そのあとは前走者からバトンパスの合図の声がかかるのを信じ、ひたすら前を向いて走る。普段からそんな地道な努力の繰り返しだ。
今年に入って日本を代表する企業が苦戦を強いられているとの報道が多く流れた。長引くデフレによる国内需要の低迷、さらには円高による輸出採算の悪化と競争力の低下など日本の企業を取り巻く環境は本当に厳しいものがある。しかし、その一方で、米国を代表する存在だったフィルム企業がChapter11を申請した際には、「同じような経営環境におかれながらも日本企業は事業転換に成功した」と英国のエコノミスト誌が称賛した。また、世界の資源市場を相手にした商社の復活にも目を見張るものがある。今、これまでの日本を支えてきたいくつかの基幹産業が苦しんでいるが、ビジネスモデルを見直し、旧来の事業から新しい事業へのバトンパスに成功した例は周囲に数あまたある。いろいろな出来事に見舞われた平成23年度がようやく終わりを告げ、新しく平成24年度がスタートする。この年度こそ多くの企業がバトンパスに成功し、「潤う年」となることを祈りたい。

(2012年03月26日「基礎研マンスリー」)

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前田 俊之 (まえだ としゆき)

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