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- 大雪の中で考える節電の夏
コラム
2012年02月03日
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雪国で記録的な大雪が続く中、関東でも連日の厳しい冷え込みが続いている。個人的にも、機能性下着を買い増したり、オフィスからランチに出る時にもコートを羽織るなど、寒さに翻弄されているところではあるが、今日は節分、明日は立春、ということでその先の節電の夏について考えてみたい。
昨年は東日本大震災および福島原発事故の影響による電力供給力不足を受けて、寒さの残る3月に計画停電が行われ、電力消費がピークを迎える夏季には一律15%削減という電力制限令が発動された。当然ながら私たちの生活に大きな影響があった。
震災直後の計画停電で信号も消えた真暗な街の強烈な印象は、夏を迎えるにあたって我々を「節電」に駆り立てた。すぐに思い起こされるものだけでも、業務運営としてのサマータイム(早朝出勤)、通勤列車の間引き運転とエスカレーター等の停止、エレベーターの使用制限、照明の間引き、微妙に蒸し暑いオフィスの空調と、そのお陰で定着したクールビズ、電池式の小型扇風機、薄暗いモニター画面...。企業によっては、休暇スライド(GW稼動⇒夏期休暇延長)や、自動車業界のように土日操業平日休日を行うことで社会全体での電力ピークを低く抑える取組も行われ、正にオールジャパンとしての節電活動の結果、何とか乗り切ることができた。大げさな言い方だが、日本社会の一体感を実感できた国民的な成果ともいえるかもしれない。一方、その半面、子どもをもって働く女性には土日勤務の際の保育所問題や、共働きの夫婦では休日のすれ違い、また、生活環境として考えれば節電モードの街は高齢者やハンデキャップを有する人々に厳しい夏であったことも間違いない。果たしてこの夏はどういう夏になるのであろうか。
昨年との相違点を考えてみると、「供給サイド」では、自家発電設備等の増強はあるものの、原子力発電の大幅な減少(昨夏は15基稼動していたのが、現在稼動中は3基)により、供給力は大幅に低下することは避けられない状況にある。一方「需要サイド」では、節電機器の導入、省エネ行動の定着はあるものの、昨年の強烈な危機感と切迫感の中でなりふり構わず行った節電行動をどこまで実施するのか、その取組のレベルによって変動の幅が大きいと思われるが、この夏の節電行動の具体像がまだイメージできない。
「電力使用制限令を回避」という枝野経済産業相の方針が報道されている。そんな中、火力発電が設備トラブルで緊急停止というニュースも飛び込んできた。火力発電所も能力全開で突っ走っていれば、当然に故障のリスクも出てくるだろう。電力需要と供給のバランスについての試算は、電気を使用する機器の消費量とその数と利用状況を、日時によって、気候変化によってと、無数の可能性も加味した積算を行った上で、発電所の故障のリスクや点検のスケジュールも織り込んでいくという途方もない作業であり、その職務にあたる方には頭が下がる思いだ。
しかし、その試算の中に、提案中の電気料金の値上げや節電取組を促進する料金体系の導入による節電促進効果や、震災からの復興による電力需要の増加をどう見積もっているのだろうか。電力のやりくりを考える時に、「復興」「景気回復」という日本社会全体の大きな目標もしっかりと織り込んでおかなくてはならない。震災後2度目の夏、「厳しい家計をやりくりして何とか今月乗り切った」だけで終わってはいけない。復興に向けてある程度余裕をもった供給レベルを確保し、復興を積極的に後押しするという考え方も議論される価値はあるだろう。
震災の記憶も新しい国民は、節電の取組に協力することは間違いない。ただ、その努力の効果をより高めることも必要だ。どこまで我慢すればよいのか、どういう活動をすれば、単に節約するよりも社会全体にプラスになるのか、一人一人が納得すれば、より一層一体感が高まり、日本全体の復興につながる効果も期待できるのではないか。
「電力使用制限令を回避」できたが、産業界が生産活動で萎縮し、一般市民が消費活動に萎縮して、復興は進まず、景気は悪化する、ということにならないように、寒さの残る今のうちから、幅広い情報開示とオープンな議論を期待したい。
昨年は東日本大震災および福島原発事故の影響による電力供給力不足を受けて、寒さの残る3月に計画停電が行われ、電力消費がピークを迎える夏季には一律15%削減という電力制限令が発動された。当然ながら私たちの生活に大きな影響があった。
震災直後の計画停電で信号も消えた真暗な街の強烈な印象は、夏を迎えるにあたって我々を「節電」に駆り立てた。すぐに思い起こされるものだけでも、業務運営としてのサマータイム(早朝出勤)、通勤列車の間引き運転とエスカレーター等の停止、エレベーターの使用制限、照明の間引き、微妙に蒸し暑いオフィスの空調と、そのお陰で定着したクールビズ、電池式の小型扇風機、薄暗いモニター画面...。企業によっては、休暇スライド(GW稼動⇒夏期休暇延長)や、自動車業界のように土日操業平日休日を行うことで社会全体での電力ピークを低く抑える取組も行われ、正にオールジャパンとしての節電活動の結果、何とか乗り切ることができた。大げさな言い方だが、日本社会の一体感を実感できた国民的な成果ともいえるかもしれない。一方、その半面、子どもをもって働く女性には土日勤務の際の保育所問題や、共働きの夫婦では休日のすれ違い、また、生活環境として考えれば節電モードの街は高齢者やハンデキャップを有する人々に厳しい夏であったことも間違いない。果たしてこの夏はどういう夏になるのであろうか。
昨年との相違点を考えてみると、「供給サイド」では、自家発電設備等の増強はあるものの、原子力発電の大幅な減少(昨夏は15基稼動していたのが、現在稼動中は3基)により、供給力は大幅に低下することは避けられない状況にある。一方「需要サイド」では、節電機器の導入、省エネ行動の定着はあるものの、昨年の強烈な危機感と切迫感の中でなりふり構わず行った節電行動をどこまで実施するのか、その取組のレベルによって変動の幅が大きいと思われるが、この夏の節電行動の具体像がまだイメージできない。
「電力使用制限令を回避」という枝野経済産業相の方針が報道されている。そんな中、火力発電が設備トラブルで緊急停止というニュースも飛び込んできた。火力発電所も能力全開で突っ走っていれば、当然に故障のリスクも出てくるだろう。電力需要と供給のバランスについての試算は、電気を使用する機器の消費量とその数と利用状況を、日時によって、気候変化によってと、無数の可能性も加味した積算を行った上で、発電所の故障のリスクや点検のスケジュールも織り込んでいくという途方もない作業であり、その職務にあたる方には頭が下がる思いだ。
しかし、その試算の中に、提案中の電気料金の値上げや節電取組を促進する料金体系の導入による節電促進効果や、震災からの復興による電力需要の増加をどう見積もっているのだろうか。電力のやりくりを考える時に、「復興」「景気回復」という日本社会全体の大きな目標もしっかりと織り込んでおかなくてはならない。震災後2度目の夏、「厳しい家計をやりくりして何とか今月乗り切った」だけで終わってはいけない。復興に向けてある程度余裕をもった供給レベルを確保し、復興を積極的に後押しするという考え方も議論される価値はあるだろう。
震災の記憶も新しい国民は、節電の取組に協力することは間違いない。ただ、その努力の効果をより高めることも必要だ。どこまで我慢すればよいのか、どういう活動をすれば、単に節約するよりも社会全体にプラスになるのか、一人一人が納得すれば、より一層一体感が高まり、日本全体の復興につながる効果も期待できるのではないか。
「電力使用制限令を回避」できたが、産業界が生産活動で萎縮し、一般市民が消費活動に萎縮して、復興は進まず、景気は悪化する、ということにならないように、寒さの残る今のうちから、幅広い情報開示とオープンな議論を期待したい。
(2012年02月03日「研究員の眼」)
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