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- 注目集める反ウォール街デモの行方
コラム
2012年01月16日
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昨年9月に始まったニューヨークの反ウォール街デモは、全米のみならず世界へと拡散した。拠点となったマンハッタン南部のズコッティ公園では11月に一旦強制排除されたが、運動拠点が分散されたに過ぎない。デモの主張は、米国の所得格差の是正を求めるものだ。批判を集める高額所得層については様々な試算があるが、CBO(議会予算局)による“公的機関”の調査では、所得最上位者1%の税引き後所得は1979年から2007年の間に275%増加した一方、中位層では40%増に留まり、下位20%層では18%増にすぎない。この結果、最上位者1%の所得全体のシェアは上記期間に8%から17%(税支払い前では21%)に倍増、下位20%層では7%から5%に低下、格差は急拡大している。オバマ大統領は所得上位2%にあたる年収25万ドルを超える世帯の減税停止を求めているが共和党が反対している。
こうした状況は今に始まったことではないが、デモが一定の支持を得ている背景には、金融危機後の深刻な雇用情勢が絡む。先頃発表された12月雇用統計では、前月比20万人増、失業率も8.5%へと改善を見せた。デモが開始された数ヵ月前の失業率9.1%との比較ではやや急な低下といえる。しかし、やむを得ずパートタイマー等で収入を得ている人等を考慮した広義の失業率は15.2%と7人に一人がフルタイムの職に就けない状況にある。
また、若年層(16~19歳)の失業率は23.1%と全体の失業率を大きく上回る。大卒の就職難も伝えられているが、学生ローンに頼って大学を卒業した若者が就職できなければ、ローン支払いに窮するマイナスからのスタートを余儀なくされる。格差を是正する手段として歴代民主党政権が腐心してきた学生ローンが重荷となり、反格差デモにつながっているのは皮肉な現象とも言える。
雇用回復の遅れは深刻だ。リセッション突入以降の雇用喪失は860万人を超えるが未だに260万人が回復したに過ぎない。12月の雇用増20万人が今後続いたとしても、リセッション前の雇用数を回復するにはあと3年弱を要する。しかしこの間、米国では年間で1%弱の人口増が続く。リセッション入り後の経過期間4年に上記の期間(3年)を考慮すると、さらに1千万人を優に超える雇用創出が必要となり、現状の回復ペースでは、当面、リセッション前の失業率(4.7%)を回復するのは困難と言えよう。
こうした雇用の喪失は、所得を抑制し景気に影響する。リセッション後の雇用所得は一時5%減まで低下、4年後の現在でも1.8%増の水準に留まり、実質ベースではマイナスに落ち込んでいる。所得が伸び悩む中での消費増は、貯蓄の取り崩しにつながる。クリスマスセールが好調に終わり、10-12月期の高成長率が見込まれる一方、景気の持続性が疑問視される根拠ともなっている。
昨年発表された米政府の所得・貧困調査では、実質所得の低下が示された。この調査は世帯当たりの所得調査に基づき、家族構成ごとの貧困所得ラインを設定する。2010年に貧困所得ラインを下回る層は4600万人を超え、人口シェアは15.1%と前年(14.3%)を上回り、1993年以来の高水準となった。内訳では、過去1年の不就労者の貧困率が23.9%と高いが、就労者でも、フルタイム就労者の貧困率が2.6%であるのに対し、パートタイム等では15.0%と就業形態で大きな差が生じている。
貧困層の増加とともに注目を集めたのが、世帯当たりの実質所得水準の低下だ。2010年の実質所得は前年より2.3%低下、ピークとされる1999年から低下傾向にあり、1996年以来の低水準となる。世帯当たりの実質所得低下の背景には、核家族化や高齢化の進展等も絡むがリセッションが低下を加速したことは間違いない。2010年の水準はリセッション前の2007年との比較では6.4%減と低下が大きい。
世帯当たりの実質所得はマクロ的な所得とは概念を異にするが、生活実態を見る上ではより適切と考えられており、貧困所得を定義するとともに社会保障等の基準とされる。こうした現実を踏まえると、前記のデモがすぐに収まるとは思われない。
今年は大統領選挙を迎える。4年前の選挙では、金融危機を引き起こしたウォール街への反発が、オバマ大統領誕生を後押しした。しかし、その後の不況の深刻化を食い止められなかった現政権への不満は強く、2010年の中間選挙は民主党の大敗に終わった。中低所得層には民主党への支持が多いとされ、オバマ大統領は「金融危機を引き起こした無責任な大企業へのいらだちの表れ」とデモへの理解を示した。一方、共和党候補の先頭を走るロムニー氏は、反格差は“envy”に過ぎないとし、「能力社会の米国はハードワークと少しの運で大きな成功を掴める」と主張する。
反格差への理解を示す見方は拡大しているとされ、支持率が低迷、再選に不安を残すオバマ大統領にとっても、こうした層の支持を取り込むために雇用改善を加速、現政権への支持を拡大したいところだ。今回の選挙戦では、景気動向の影響が従来にも増して大きいと言えそうだ。
こうした状況は今に始まったことではないが、デモが一定の支持を得ている背景には、金融危機後の深刻な雇用情勢が絡む。先頃発表された12月雇用統計では、前月比20万人増、失業率も8.5%へと改善を見せた。デモが開始された数ヵ月前の失業率9.1%との比較ではやや急な低下といえる。しかし、やむを得ずパートタイマー等で収入を得ている人等を考慮した広義の失業率は15.2%と7人に一人がフルタイムの職に就けない状況にある。
また、若年層(16~19歳)の失業率は23.1%と全体の失業率を大きく上回る。大卒の就職難も伝えられているが、学生ローンに頼って大学を卒業した若者が就職できなければ、ローン支払いに窮するマイナスからのスタートを余儀なくされる。格差を是正する手段として歴代民主党政権が腐心してきた学生ローンが重荷となり、反格差デモにつながっているのは皮肉な現象とも言える。
雇用回復の遅れは深刻だ。リセッション突入以降の雇用喪失は860万人を超えるが未だに260万人が回復したに過ぎない。12月の雇用増20万人が今後続いたとしても、リセッション前の雇用数を回復するにはあと3年弱を要する。しかしこの間、米国では年間で1%弱の人口増が続く。リセッション入り後の経過期間4年に上記の期間(3年)を考慮すると、さらに1千万人を優に超える雇用創出が必要となり、現状の回復ペースでは、当面、リセッション前の失業率(4.7%)を回復するのは困難と言えよう。
こうした雇用の喪失は、所得を抑制し景気に影響する。リセッション後の雇用所得は一時5%減まで低下、4年後の現在でも1.8%増の水準に留まり、実質ベースではマイナスに落ち込んでいる。所得が伸び悩む中での消費増は、貯蓄の取り崩しにつながる。クリスマスセールが好調に終わり、10-12月期の高成長率が見込まれる一方、景気の持続性が疑問視される根拠ともなっている。
昨年発表された米政府の所得・貧困調査では、実質所得の低下が示された。この調査は世帯当たりの所得調査に基づき、家族構成ごとの貧困所得ラインを設定する。2010年に貧困所得ラインを下回る層は4600万人を超え、人口シェアは15.1%と前年(14.3%)を上回り、1993年以来の高水準となった。内訳では、過去1年の不就労者の貧困率が23.9%と高いが、就労者でも、フルタイム就労者の貧困率が2.6%であるのに対し、パートタイム等では15.0%と就業形態で大きな差が生じている。
貧困層の増加とともに注目を集めたのが、世帯当たりの実質所得水準の低下だ。2010年の実質所得は前年より2.3%低下、ピークとされる1999年から低下傾向にあり、1996年以来の低水準となる。世帯当たりの実質所得低下の背景には、核家族化や高齢化の進展等も絡むがリセッションが低下を加速したことは間違いない。2010年の水準はリセッション前の2007年との比較では6.4%減と低下が大きい。
世帯当たりの実質所得はマクロ的な所得とは概念を異にするが、生活実態を見る上ではより適切と考えられており、貧困所得を定義するとともに社会保障等の基準とされる。こうした現実を踏まえると、前記のデモがすぐに収まるとは思われない。
今年は大統領選挙を迎える。4年前の選挙では、金融危機を引き起こしたウォール街への反発が、オバマ大統領誕生を後押しした。しかし、その後の不況の深刻化を食い止められなかった現政権への不満は強く、2010年の中間選挙は民主党の大敗に終わった。中低所得層には民主党への支持が多いとされ、オバマ大統領は「金融危機を引き起こした無責任な大企業へのいらだちの表れ」とデモへの理解を示した。一方、共和党候補の先頭を走るロムニー氏は、反格差は“envy”に過ぎないとし、「能力社会の米国はハードワークと少しの運で大きな成功を掴める」と主張する。
反格差への理解を示す見方は拡大しているとされ、支持率が低迷、再選に不安を残すオバマ大統領にとっても、こうした層の支持を取り込むために雇用改善を加速、現政権への支持を拡大したいところだ。今回の選挙戦では、景気動向の影響が従来にも増して大きいと言えそうだ。
(2012年01月16日「研究員の眼」)
土肥原 晋
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