2011年12月22日

米国における高齢者の財産処分としての保険買取制度の最近の動向

荻原 邦男

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■見出し

1――はじめに
2――保険買取の現状と保険会社の対応
3――2008年金融危機の与えた影響-特に投資銀行の行動に焦点をあてて-
4――保険買取市場の変質(劣化)と監督規制の強化
5──おわりに

■introduction

保険買取制度とは、保険契約者がその地位を第三者に譲渡し、その対価として解約返戻金を上回る金額を得る取引のことである。米国では保険加入に当たって被保険利益 の存在が求められるが、それを他者に譲渡することは契約者の自由とされ、判例上も保険契約譲渡の妥当性が確定している。1988年に法人組織による保険買取が開始されて以来、エイズ患者の現金化ニーズとマッチして急激に拡大した。また、これに伴って、契約者保護の観点から保険買取に関するモデル法もNAIC(米国保険監督官協会)によって整備され、多くの州でこれに準拠した州規制が行われている。
当初は主として末期症患者をターゲットにしていたが、その後、エイズの沈静化や生前給付制度の普及とともに、より余命の長い層にターゲットを移していくことになった。(名称も、当初の末期症患者を対象としたViatical Settlement からLife Settlementを使用することが一般的となっている。)
現在、保険買取は、主として比較的富裕な高齢層(65歳以上が多い)が、(1)一時的資金需要から保険を解約したい、(2)ニーズに合わない保険を長期介護保険など他の商品へ転換するため解約したい、といった場合に、自己の保有する保険契約を、解約返戻金以上の金額で他者に譲渡するための手段ととらえられており、高齢富裕層の資産管理の一分野として定着を見ている。
本稿では、保険買取制度をあらためて振り返り、こうした需要に対して、米国はどのように対応してきたのか、さらには保険買取の証券化の動向を含めて紹介することとしたい。
ちなみに、わが国の保険買取を巡る状況は次のとおりである。保険買取は現在のところ実質的に認められていない。2005年に、保険買取を目的に保険会社に名義変更を請求したところ、これを保険会社は拒否し、その妥当性を問う訴訟が行われた。同年11月に請求を棄却する(つまり保険会社の拒否は妥当とする)地裁判決が下されている。2006年3月の東京高裁による控訴棄却判決を経て、最終的には最高裁が不受理の判断を行って決着している(2006年10月)。ただし、地裁判決の判決文では、「(保険買取は)有効な方法となり得ることがうかがわれるので、今後、その是非については議論が尽くされることを望む」旨の付帯事項が示されている。

(2011年12月22日「ジェロントロジーレポート」)

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