- シンクタンクならニッセイ基礎研究所 >
- 保険 >
- 保険会計・ソルベンシー >
- 検討続く保険会計基準の基本課題
1997年に開始された保険契約に関する会計基準作りは15年を要している。2010年7月の公開草案の公表に続き、本年6月には会計基準を確定する予定であったが、関係者の努力にも拘わらず、実現していない。2012年上半期に「レビュードラフトの公開ないし公開草案の再公開」を行う旨の予定が宣言されているが、従来示されていた基準確定時期目標は今や明示されていない状況である。
当初は公正価値による保険契約の評価(負債額の決定)が目標に挙げられた。2000年にJWGと呼ばれるIASB(国際会計基準審議会)の非公式グループが、「金融商品は全面的に公正価値評価すべし」との方針を世に問うたこともあったほどで、当初は「出口価値」(第三者への移転価格)と呼ばれる公正価値評価を中心に議論が始まったのである。
しかし、その後、単純な公正価値評価路線は修正せざるを得なくなった。これには、(1)保険契約は一般的な金融商品と違って取引する市場がなく、市場価格が存在しないこと、(2)収益認識プロジェクトなど他の基準を巡る議論の影響、(3)金融危機を経て公正価値評価に一定の再評価が行われたこと、などの要因があげられるだろう。
公開草案に述べられている現在の暫定案は、(1)保険契約の負債評価にあたって足下の金利環境等を反映するという意味の公正価値的評価と、(2)その結果発生するはずの契約当初の利益を、残余マージンと呼ばれる項目に暫定的に計上することで利益計上を排し、それを事後的に償却(利益計上)していくという繰延思考、との折衷的なものとなっている。
そして現時点における最大の論点のひとつは、利益の変動性を緩和するための「その他の包括利益」への計上を巡る議論である。足下の金利環境に応じた評価利率を使用して負債評価を行うと、評価額は金利動向により大きく変動する。その一方で、資産側とりわけその多くを占める債券の評価は原則として償却原価法によるため比較的マイルドな動きとなる。従って、負債の変動が各年度の損益を大きく変動させ、ビジネスの実態をよく表すことにならない、という指摘である。これに対応するため、負債評価額の変動のうち評価利率の変動による部分は、当期損益ではなく、「その他の包括利益」に計上すべきである、というのが主として業界側から提示されている主張であり、関係者に一定の理解を得つつあるようだ。
これは保険会社の利益測定とその表示に関係する基本的な論点であり、IASBは今後本格的に検討することになるものと思われる。このほか積み残しになっている課題もあり、検討や調整に時間を要するだろうが、関係者間の慎重かつ十分な議論を望みたい。
このレポートの関連カテゴリ
荻原 邦男
研究・専門分野
公式SNSアカウント
新着レポートを随時お届け!日々の情報収集にぜひご活用ください。
新着記事
-
2024年04月19日
しぶといドル高圧力、一体いつまで続くのか?~マーケット・カルテ5月号 -
2024年04月19日
年金将来見通しの経済前提は、内閣府3シナリオにゼロ成長を追加-2024年夏に公表される将来見通しへの影響 -
2024年04月19日
パワーカップル世帯の動向-2023年で40万世帯、10年で2倍へ増加、子育て世帯が6割 -
2024年04月19日
消費者物価(全国24年3月)-コアCPIは24年度半ばまで2%台後半の伸びが続く見通し -
2024年04月19日
ふるさと納税のデフォルト使途-ふるさと納税の使途は誰が選択しているのか?
レポート紹介
-
研究領域
-
経済
-
金融・為替
-
資産運用・資産形成
-
年金
-
社会保障制度
-
保険
-
不動産
-
経営・ビジネス
-
暮らし
-
ジェロントロジー(高齢社会総合研究)
-
医療・介護・健康・ヘルスケア
-
政策提言
-
-
注目テーマ・キーワード
-
統計・指標・重要イベント
-
媒体
- アクセスランキング
お知らせ
-
2024年04月02日
News Release
-
2024年02月19日
News Release
-
2023年07月03日
News Release
【検討続く保険会計基準の基本課題】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。
検討続く保険会計基準の基本課題のレポート Topへ